第3章「魔王様には内緒の計画」
勇者一行は村や街を巡り、魔物退治や人助けを通して少しずつ力をつけていく。
その頃、アストラル城では魔王ゼファルドの誕生日を祝うための極秘会議が開かれていた。
魔王に気づかれないように――しかし、その呑気さが最大の不安要素となっていた。
旅立ちから数週間。勇者一行は街から街へと歩を進めていた。
「次の村まであと二日ってところかな」ソウタが地図を見ながら言う。
「二日!? 野宿かぁ……」リオが肩を落とす。
「勇者が何弱音吐いてんだよ」タクミが呆れる。
「だって、硬い地面だと腰が痛いんだもん」
「子どもか!」カレンが鋭く突っ込んだ。
そんな掛け合いをしながらも、彼らは確実に力をつけていた。
道中に現れる魔族の見習い兵や、発泡スチロールを塗っただけのゴーレムも倒せるようになってきた。
「よしっ、レベル上がった気がする!」リオが拳を突き上げる。
「……気のせいじゃないといいけどな」タクミが肩をすくめる。
「いや、確かに回復魔法の効きがよくなってる」ソウタが冷静に観察する。
「私の魔力も少し増えてるみたい」カレンも頷いた。
まだまだ弱いが、確実に成長していた。
―――
一方その頃、アストラル城。
「それでは午前の会議を始める!」グレンが声を張った。
会議室の長机には、側近たちと博士、そして料理人オルガが座っている。
「本日の議題は……魔王様の誕生日サプライズについてだ!」
「えぇ……またクラッカー? 祝砲とか言わないでよ、バレちゃうでしょ!」ユリアが博士を睨む。
「わしはただ盛大にしたいだけじゃ!」博士が胸を張る。
「問題は、どうやって魔王様に気づかれないよう準備するかだ」ヴァルターが真面目に話を戻した。
「私が料理を全部用意するから安心しな!」オルガが豪快に笑う。
「ケーキも?」「もちろん! 大きなやつを焼いてやるよ!」
賑やかに進む会議だったが、問題はひとつ。
「……魔王様、今どこに?」ユリアが恐る恐る尋ねる。
「えーと……畑に行ってるはずだが」ヴァルターが答えた。
「また!? あの方は本当に畑が好きだな」グレンがため息をついた。
その時、扉が開いた。
「ん? お前ら何してるんだ?」
ゼファルドが顔を出した。
「ひっ……!」会議室が一斉に凍りつく。
「え、えっと……あ、あの、これは!」ユリアがしどろもどろになる。
「……昼飯の献立会議だ!」ヴァルターが咄嗟に言った。
「おお、いいな! 俺は煮込み料理がいいな。あと畑でとれたジャガイモも使ってくれよ!」
「……は、はい」オルガが苦笑しながら頷いた。
ゼファルドは満足そうに去っていった。
会議室には重苦しい沈黙が残る。
「……ごまかすの下手すぎない?」ユリアが呟く。
「いや、お前もだ」一同が同時に突っ込んだ。
―――
勇者一行はその頃、小さな村で依頼をこなしていた。
畑を荒らすイノシシ退治や、子どもの迷子探し。戦闘だけでなく、人助けを通して信頼を得ていった。
「なんか勇者って戦うだけじゃないんだな」リオが汗を拭う。
「戦いだけじゃ世界は救えないってことだろ」ソウタが言う。
「そうだな。人の役に立ってこそ……だ」タクミが真面目に答える。
「でもまぁ……宿代がタダになるのは助かるわね」カレンが笑った。
勇者一行が小さな信頼を積み重ねていくその裏で、魔王城では大きな誕生日計画が進んでいた。
「絶対に成功させるぞ!」ヴァルターが拳を握る。
「うん! あの優しい魔王様を驚かせてやろう!」ユリアが笑顔で頷いた。
「……頼むから畑からすぐ戻ってこないでほしいがな」グレンがぼそりと呟く。
誰もが胸を高鳴らせる中で、魔王本人だけは呑気に畑の雑草を抜いていた。
勇者一行は依頼を通じて人々と交流し、少しずつ勇者らしい信頼を得始める。
一方アストラル城では、魔王ゼファルドの誕生日を祝うための極秘計画が着々と進んでいた。
だが、呑気すぎる魔王に気づかれず準備を進められるのか――。