第2章「畑に森を、勇者に試練を」
勇者一行は街や村を訪ね、少しずつ人助けをしながら旅を続ける。
一方の魔王ゼファルドは畑仕事に精を出すが、その魔力はあまりに強大で思わぬ騒ぎを起こす。
勇者と魔王、それぞれの道の始まりは、奇妙に噛み合わないまま進んでいく――。
王都を出て数日、勇者一行は最初の街へとたどり着いた。
「うわぁ、にぎやかだな!」リオが感嘆の声を上げる。
「おい、浮かれるな。ここは通過点だ」タクミが苦言を呈する。
「でも、こういう所で情報を集めるのが大事なんじゃない?」ソウタが静かに言う。
「そうよ。旅人の宿や教会には何かしら噂があるものよ」カレンが頷く。
街の教会で休息をとっていると、白髪の神父が声をかけてきた。
「勇者様方。もし魔王城に向かわれるのであれば……道中で力を鍛えねばなりませんぞ」
「鍛える?」リオが首を傾げる。
「はい。魔王城は結界で守られており、普通の旅人では辿り着けません。レベルを上げ、力を蓄えねば」
「……つまり、雑魚狩りをしろってことか」タクミが腕を組む。
「そういう言い方!」カレンが肘で突く。
「……けど、理屈は正しいな」ソウタが静かに結論を出す。
彼らは街の周辺に現れる魔物退治を引き受けることになった。依頼を受ければ宿代や食事が無料になり、さらに報酬も手に入るという。
「やったー! お得だ!」リオが飛び跳ねる。
「いや、遊びじゃねぇんだぞ」タクミが苦い顔をした。
こうして、勇者一行の「小さな人助けと戦いの日々」が始まった。
―――
その頃、アストラル城の裏手。
「ふんふんふ~ん♪」
魔王ゼファルドはご機嫌で花壇の手入れをしていた。
鍬を持つ手元から魔力が漏れ出す。気づけば、数本の花が瞬く間に成長し、枝を伸ばしていく。
「おっと、ちょっと強すぎたかな?」
彼が片手を振ると、さらに魔力が広がった。花壇はみるみるうちに繁茂し――気づけば、目の前は鬱蒼とした森に変わっていた。
「……あ」
ゼファルドが口を半開きにする。
「魔王様ぁぁぁぁ!!」
後ろからヴァルターの叫び声が響いた。
「またですか! また森にされたんですか!!」
「いやぁ……ちょっと魔力の調整を間違えて」
「ちょっと!? この後の整備がどれほど大変だったか!」
ヴァルターは頭を抱え、崩れ落ちそうになる。
そこへユリアも駆けつけた。
「え、何これ……森?」
「花壇だった」ゼファルドが苦笑する。
「笑い事じゃないでしょ!!」
グレンも現れ、ため息をついた。
「……魔王様。畑仕事は趣味として認めますが、魔力制御は本気で学ばれるべきです」
「えー、でもほら。見ろよ、このリンゴ」
ゼファルドが木からもぎった真っ赤なリンゴを差し出す。
「美味しそうだろ?」
「そういう問題じゃない!!」側近三人の声が揃った。
「……はぁ。ほんとに、あの方が“最恐”と呼ばれた魔王なのかしら」ユリアが呆れたように言う。
「そうだよなぁ」ゼファルドは照れ笑いしながら、リンゴをひと口かじった。
―――
一方、勇者一行は。
「そらぁっ!」
タクミの剣が、牙を剥く狼を切り裂く。
「ヒール!」ソウタが素早く回復魔法を唱える。
カレンは詠唱を終え、火球を放つ。
数分の激闘の末、狼は倒れた。
「ふぅ……やっとだ」カレンが息をつく。
「強かったなぁ!」リオが無邪気に笑う。
「強いんじゃなくて……俺たちが弱いんだ」タクミが顔をしかめた。
だが、彼らは少しずつ成長していた。村人からは感謝され、依頼をこなすたびに経験を積み、レベルも上がっていく。
「なんか、ちょっと体が軽い気がする!」リオが言う。
「それは……レベルが上がったからだろうな」ソウタが頷いた。
「……少しは形になってきたってことね」カレンが小さく笑った。
―――
アストラル城の会議室。
水晶玉には、必死に戦う勇者一行の姿が映っていた。
「まだまだ未熟だな」グレンが言う。
「だが、成長は早い」ヴァルターが渋い顔をする。
「魔王城に来るのは……当分先でしょうね」ユリアが安心したように呟いた。
そこへ扉が開き、ゼファルドが入ってきた。手にはまたシャベル。
「よぉ、みんな。何見てるんだ?」
「……魔王様」ヴァルターが頭を抱えた。
「勇者一行です」
「へぇ、頑張ってるなぁ。青春だな!」ゼファルドは笑顔で水晶を覗き込んだ。
「魔王様……。彼らはいずれここに来て、戦う相手ですよ」
「んー……でも、話せば分かるんじゃないかな?」
「またそれですか……!」
側近たちのため息と、魔王の呑気な笑い声が、会議室に響き渡った。
勇者一行は小さな人助けを重ね、少しずつ強さを身につけていく。
魔王ゼファルドは園芸事故で森を生み出し、側近たちに叱られてもどこ吹く風。
このちぐはぐな両者の歩みは、やがて必然的に交わっていく。