表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/10

第1章「旅立ちの朝」

勇者の証を持つ少年リオが仲間と共に旅立つ日が来た。

王都から魔王城まではおよそ半年。長い道のりの始まりは、不安と期待に揺れる時間でもある。

だが、魔界アストラル城ではその様子を眺める者たちがいた――。

 王都の鐘が、朝の空に響き渡った。

 王城の一角に設けられた大広間には、四人の若者が立っている。


「これが……勇者一行か」

 城の文官が羊皮紙を読み上げ、彼らの名前を呼ぶ。


「リオ。村出身、年齢十七」

「はいっ!」リオが元気よく返事をする。

 茶色の髪を短く切りそろえた彼は、どこにでもいそうな少年だったが、その胸には「勇者の証」が宿っている。本人はまだよく分かっていない。


「タクミ。戦士、十八」

「……おう」無骨な鎧を着込み、剣を背負ったタクミはぶっきらぼうに返事する。だが、その目は真剣だった。


「ソウタ。僧侶、十八」

「はい」静かな声で答える青年は、白い法衣を身にまとい、首には十字のような装飾を下げていた。


「カレン。魔法使い、十七」

「……はい」少し緊張した声で答える少女は、淡い金髪を肩まで伸ばし、ローブを揺らして立っていた。


 四人が並んだ姿はまだ心もとない。だが、ここから半年かけて魔王城を目指す旅が始まる。


「装備一式と旅の資金、そして食糧を支給する」文官が言った。

 革袋には銀貨と金貨、そして簡素な防具や武器が詰め込まれていた。

「……おぉ!」リオが目を輝かせる。

「大事に使えよ。旅は長いんだからな」タクミが釘を刺す。


 大広間を出ると、城下町の人々が通りに並び、声を上げた。

「勇者様、ご武運を!」

「魔王を倒してくれ!」

 その声援に、リオは元気に手を振った。


「なんか……俺、すごい人みたいだな!」

「すごい人なんだよ」ソウタが微笑む。

「そうよ。だからちゃんと自覚を持ちなさい」カレンが少し呆れ顔で言った。


―――


 旅の始まりは順調に見えた。だが、城下を離れて間もなく、最初の魔物が現れる。


「うわぁっ!? スライムだ!」リオが指差した。

 緑色のゼリー状の魔物が、ぷるぷると震えている。


「スライムごとき、俺の剣で……!」タクミが勢いよく切りかかる。

 しかし剣は弾かれ、ゼリーが剣にまとわりついた。

「うわっ!? な、なんだこれ!」

「ちょっと! 油断しないの!」カレンが火の魔法を唱える。小さな火球が飛び、スライムがじゅっと蒸発して消えた。


「はぁ……やっと倒せた」ソウタが額の汗をぬぐう。

「強かったなぁ!」リオは無邪気に笑った。

「いや、弱いはずなんだが……」タクミは肩を落とした。


 こうして勇者一行の旅は始まった。彼らはまだ弱く、道中での苦労は目に見えている。


―――


 一方その頃。

 アストラル城の会議室では、水晶玉に映る勇者一行の姿を、側近たちが見つめていた。


「……本当に旅立ったのか」ヴァルターが低く呟く。

「まだまだ未熟そうだけどな」グレンが腕を組む。

「でも勇者の証を持っているなら、成長は早いかも」ユリアが不安そうに言った。


 水晶の中で、スライムに苦戦する勇者たちの姿が映る。

「……あれで勇者か?」ヴァルターは眉をひそめた。

「ふふっ、可愛いものだな」ユリアが小さく笑った。


「とりあえず、しばらくは魔王城に来ることはないでしょう」グレンがまとめるように言った。

「なら……誕生日の準備を進められますね!」ユリアが小声で囁く。


 その時、会議室の扉が開いた。

「ん? お前たち、何を見てるんだ?」

 魔王ゼファルドが現れた。手にはシャベルを持っている。


「ま、魔王様!」ヴァルターが慌てる。

「勇者一行の様子を……」

「あー、あの子たちか。楽しそうだったな」ゼファルドは笑って言った。

「……楽しそう?」ユリアが呆れる。

「そうだろ? スライムに苦戦して仲間と協力して……青春って感じじゃないか」


「魔王様! 彼らはやがて魔王様を討ちに来るのですよ!」

「んー……そうかな。でも、話せば分かると思うけどなぁ」


 側近たちは一斉にため息をついた。

「……とりあえず飯食べに行こうぜ。オルガさん、今日の昼は何かな」

 ゼファルドはシャベルを肩に担ぎ、呑気に食堂へ向かっていった。


―――


 勇者一行はまだ見ぬ強敵との戦いを想像して胸を躍らせ、魔王城では呑気な魔王と必死な側近たちが右往左往していた。

 こうして、奇妙な旅と物語が始まったのだった。

勇者一行はまだ弱い。だが、確実に一歩を踏み出した。

魔王城では、水晶を通してその様子を見守る者たちがいる。

そして肝心の魔王はというと……やっぱり畑と食事のことばかり。

次の章では、彼らの旅に試練と人々との出会いが待っている。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ