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第14章「月下の門番と待合室の秘密」

魔王城がいよいよ目の前に迫る。勇者一行は不思議な結界と、そこで出会った番犬バロンに導かれ、ついに魔王城の内部へ足を踏み入れることになる。だが彼らを待っていたのは剣戟ではなく――まさかの“待合室”と“お菓子”。緊張と緩和が入り混じる中、勇者たちは予想外の一夜を迎えることになるのだった。

 紫がかった空が広がり、遠くにそびえる魔王城は闇の中で月光を背負い、どこか荘厳な雰囲気を放っていた。高く聳え立つ門の前には、淡く光を放つ透明の膜――結界が揺らめいている。


「な、なんだこれ……?」タクミが目を細めて呟く。

「どうやって突破すれば……」カレンは眉をひそめ、杖を握り直す。

「攻撃してみようか」ソウタが慎重に言い、勇者一行はそれぞれの伝説武器で膜に触れる。だが、剣も杖も光の力も、まるで岩に水滴を落としたかのように吸い込まれ、結界はびくともしなかった。


「……全然効かないな」タクミが額の汗を拭う。

「どうしたらいいのかしら……」カレンも困り果てたように首を振る。


 その時だった。

「へっくしゅん!」

 リオが唐突に大きなくしゃみをした。彼の鼻先に止まっていた小さな虫が飛び去る。


 直後、結界から淡い光が溢れ、どこからともなく声が響いた。


『お帰りなさいませ、魔王様』


「えっ!?」勇者一行は一斉に飛び退く。結界の一部が淡く消え、進むための道が開かれていた。


「な、なにこれ!?」カレンが叫ぶ。

「ど、どうなってるんだよ!?」タクミも目を剥く。

「くしゃみに反応した……?」ソウタは神妙に結界を見つめる。


 リオはぽかんとし、次の瞬間顔を赤らめて言った。

「えっ、じゃあ……俺って魔王なの!?」

「それはない!」タクミ、カレン、ソウタの三人が即座にツッコんだ。


 ひとしきり騒いだあと、彼らは意を決して門の前へ進む。空を見上げると、そこには月と星々が輝いていた。

「えっ? もう夜?」リオが驚く。

「そんなに時間経ったか?」タクミが時計を確かめる。だが針はまだ夕刻を指している。

「……おかしいわね」カレンが呟いた時だった。


「あっ! なんかいる!」リオが声を上げる。


 視線の先、門の前にふかふかの犬用ベッドが置かれ、そこに大きな犬が仰向けで寝ていた。月明かりに照らされたその姿は、どこか愛嬌がある。


「な、なんだあれ……?」タクミが固唾を飲む。

「さぁ……?」ソウタも首を傾げる。

「罠かもしれない」カレンは身構える。


「かわいい!」リオだけは目を輝かせ、スタスタと犬に近づいていく。

「ちょっと! リオ!」三人は慌てて止めようとするが、彼は気にせず歩み寄る。


「うわぁ、かわいいなぁ」リオはしゃがみ込み、犬の首輪を見つける。そこには金色のプレートが下がっていた。

「……バロン、って書いてある。名前なのかな?」

 さらに裏を見れば――《魔王城番犬 バロン 連絡先:魔王》と刻まれていた。


「番犬!?」三人が声を揃えて叫ぶ。


 その時、犬――バロンがむにゃむにゃと寝言を呟き、のそのそと目を開けた。

「あぁ……なんかうるさいなぁ……なに?」


「しゃ、しゃべった!?」タクミが飛び退く。

「ひぃっ!」カレンとソウタも後ずさる。


 だがリオは屈託なく微笑んだ。「おはよう、バロンちゃん!」

「俺は男だぞ! 番犬バロンだ!」犬は胸を張って言う。

「番犬!? かっこいいな!」リオの言葉に、バロンは誇らしげに鼻を鳴らす。


「ちょっと聞きたいんだけど、魔王ってどこにいるの?」

「お、お前バカか! いきなり何を……!」タクミは胃を押さえて青ざめる。


 だがバロンは「魔王様に会いに来たのか!」と目を輝かせ、「あぁ! ちょっと待っててな!」と犬用ベッドから飛び降りた。


 そして門の横にある、小さなインターホンに前足を伸ばす。

 ピンポーン。


「え?」

勇者一行は声を合わせて驚く


『どうした、バロン』

「魔王様にお客さん来てるけど? 待合室に案内しとく?」

『客? あぁ……誰か呼んだのか?』

「たぶんね!」

『俺は今忙しい。バロン、お前が案内してくれるか』

「分かった!」


 会話が終わると、インターホン横の小さな扉がスライドして開いた。


「えぇ!? 大きい門じゃなくてそっち!?」三人が叫ぶ。

「あの大きい門は開けるのに五分かかるんだよ。だから今は使ってないんだ」バロンが得意げに説明する。


 勇者一行は顔を見合わせ、仕方なくその小さな扉をくぐって城内へ入った。



 城の中はしんと静まり返っていた。月明かりを取り込むステンドグラスが淡く輝き、長い廊下が奥へと続く。


「静かだな……」タクミが小声で言う。

「そ、そうね……」カレンも不安げに頷く。

「これから戦闘が待っているのか……」ソウタは祈るように目を閉じる。


「こっちだよー!」バロンが元気よく声をかけ、先を進む。やがて“待合室”と書かれた扉の前で立ち止まった。


「この中で待ってて! 俺、準備いつ終わるか聞いてくるから!」

 言い残すと、バロンは足早に去っていった。


「じゅ、準備……?」タクミが青ざめる。

「戦いの準備かしら……」カレンがごくりと唾を飲む。

「いよいよだな……」ソウタは聖書を握る。


「とりあえず入ろうよ!」リオがガチャッと扉を開けた。


 そこには豪奢な待合室が広がっていた。柔らかそうな椅子に高級なマット、壁には絵画や壺。机の上にはコップが並び、奥には飲み物が注がれる魔法の装置や、お菓子を出す不思議な機械まである。


「うわぁ……すごい」リオは目を輝かせる。

「な、なにあれ?」カレンは警戒する。

「飲み物かな?」リオはコップを手に取り、ボタンを押す。透明な液体が注がれた。

「なにこれ! すごい!」リオは一気に飲む。

「お、おい大丈夫か!?」タクミが慌てる。

「……おいしい!」リオは目を輝かせた。


 タクミ、カレン、ソウタも恐る恐る試すと、どれも驚くほど美味しかった。続いてお菓子の機械を押すと、クッキーやマドレーヌが次々と出てきた。


「……本当にただのお菓子?」タクミが眉を寄せる。

「もしものときは光の聖書で癒せるから」ソウタが言い、三人は渋々リオに続いた。


 甘い香りが漂い、緊張していた空気が少しだけ緩む。


「準備できたってー!」バロンの声が外から響いた。


 勇者一行は顔を見合わせる。

「いよいよか……」タクミが小さく咳き込む。

「落ち着きましょう」ソウタが祈りを終え、目を開いた。

「よし、行こう!」リオは笑顔で立ち上がった。


 こうして彼らは、魔王城の奥――運命の場所へと歩み出すのであった。

まさかのインターホン、まさかの待合室、そしてドリンクバーとお菓子。緊張感を引き裂くような展開に、勇者一行は翻弄されながらも魔王城内部へ進みます。次はいよいよ魔族たちとの対面、そして“最恐の魔王”の登場。物語は大きな転換点を迎えます。

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