a nose hair
夜行バスにゆられ故郷から戻ってきた。いつもは新幹線だが、今回はチケットが取れず、しょうがなく夜行バスになった。到着したのは、朝七時半。バスの中ではあまりねむれず、音楽を聴いたり、本を読んで時間を潰した。バスを降りると良く晴れていた。
冬の早朝の街は綺麗だ。空気が澄んでいる感じがする。眠かったので寄り道せずに駅に向かった。電車の中は朝早く、休日のせいか人もまばらだった。
電車の中で読んでいた本の続きを読もうと思ったが、暖房の暖かさと睡眠不足で一気に眠気が襲ってきたせいで、本を読むことは困難だった。眠ってしまいそうだったが、乗り過ごすとまずいので音楽を聴きながらなんとか我慢した。
乗り換えの駅で、電車を降り、外気に触れると眠気が覚めた。乗り換えの電車を待ちながら、帰省する前に部屋の掃除をしていなかったことを思い出していた。しかし、眠いのでまずは眠ろうと思った。掃除をするのは後回しだ。
電車が到着し、乗り込む。人はあまりいなかったので座席に座る。手荷物がやけに重く感じられた。また眠気が襲ってきた。ふと、顔を上げると、親子連れが向かいの席に座っていた。父親と母親、そして子供。父親は白髪交じりの眼鏡をかけたおじさん。母親はもう少し若く、肩くらいまでの黒髪、そして母親も眼鏡をかけている。子供は三歳から五歳くらいだと思う。
父親が子供をあやしていたが、子供の顔を覗き込み言った
「鼻毛出てるな」
母親はとても悲しそうな顔で、そう? と呟いた。
あんなに悲しそうな顔の人間を久しぶりに見た。子供が母親をあんなに悲しませるなんて…… 直接的には父親の発言だったのだろうが…… しかし鼻毛が出ているのは子供自身だ。子供が母親をあんなに悲しませてはいけない。
その後、特に会話もないまま父親は子供をあやし続けていた。母親はその様子を俯き加減で悲しそうな表情のまま見守っていた。
電車が地元の駅に到着した。そのまま自宅に向かい、帰るとすぐに鏡の前に立ち、鼻毛が出ていないか確認した。