表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

a nose hair

作者: 漆原恭太郎

 夜行バスにゆられ故郷から戻ってきた。いつもは新幹線だが、今回はチケットが取れず、しょうがなく夜行バスになった。到着したのは、朝七時半。バスの中ではあまりねむれず、音楽を聴いたり、本を読んで時間を潰した。バスを降りると良く晴れていた。

 

 冬の早朝の街は綺麗だ。空気が澄んでいる感じがする。眠かったので寄り道せずに駅に向かった。電車の中は朝早く、休日のせいか人もまばらだった。

 電車の中で読んでいた本の続きを読もうと思ったが、暖房の暖かさと睡眠不足で一気に眠気が襲ってきたせいで、本を読むことは困難だった。眠ってしまいそうだったが、乗り過ごすとまずいので音楽を聴きながらなんとか我慢した。


 乗り換えの駅で、電車を降り、外気に触れると眠気が覚めた。乗り換えの電車を待ちながら、帰省する前に部屋の掃除をしていなかったことを思い出していた。しかし、眠いのでまずは眠ろうと思った。掃除をするのは後回しだ。


 電車が到着し、乗り込む。人はあまりいなかったので座席に座る。手荷物がやけに重く感じられた。また眠気が襲ってきた。ふと、顔を上げると、親子連れが向かいの席に座っていた。父親と母親、そして子供。父親は白髪交じりの眼鏡をかけたおじさん。母親はもう少し若く、肩くらいまでの黒髪、そして母親も眼鏡をかけている。子供は三歳から五歳くらいだと思う。

 父親が子供をあやしていたが、子供の顔を覗き込み言った

 「鼻毛出てるな」

 母親はとても悲しそうな顔で、そう? と呟いた。

 あんなに悲しそうな顔の人間を久しぶりに見た。子供が母親をあんなに悲しませるなんて…… 直接的には父親の発言だったのだろうが…… しかし鼻毛が出ているのは子供自身だ。子供が母親をあんなに悲しませてはいけない。

 その後、特に会話もないまま父親は子供をあやし続けていた。母親はその様子を俯き加減で悲しそうな表情のまま見守っていた。

 

 電車が地元の駅に到着した。そのまま自宅に向かい、帰るとすぐに鏡の前に立ち、鼻毛が出ていないか確認した。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 私好みの作品です。 リズムがいいです。 文体も以前の作品に比べて良くなってきていると思います。 この作品全体の淡い雰囲気が心地よく感じられます。 終わり方も、あっさり目で、あれでいいと思…
2010/05/09 13:18 退会済み
管理
[一言] 「人のふり見て我が身を直せ」という話ですね。 全体を通して描写がリアルで好感が持てました。 次もがんばってください。
2010/05/09 12:50 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ