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ここで怒らなきゃダメだろ

 突如として教室が蝋燭の様に溶けてしまい、その現象を受け入れられず自分は心の中で何度もイワトの名前を呼ぶ。


『全く、そんなに呼ばなくても聴こえてるよ。 この世界はバトルドールって名前のホビーが流行っているんだよ。 あの人形……プラモデルがそうだね。 あの人形一つで教室丸ごと真っ白な空間に早変わりってね! 最新型の自動掃除機なんかメじゃ無いくらい高性能! なんたって部屋丸ごと真っさらにしちゃうんだからね。 ハハハ!』


 ふざけるな、ホビー? オモチャだと!? こんなことが出来るオモチャあってたまるか!


「何をしていますの!? 早く貴方のバトルドールを出しなさい!」


 この現象を引き起こしたお嬢様はそう言いながら彼女のバトルドール、ティアラフルーを操作し銃口を正面に向ける。

 次の瞬間火薬の炸裂音が鳴り、弾丸が放たれる。

 放たれた弾丸はジオラマの壁に深々と突き刺さった。

 それを見た自分は溶けて変化した真っ白な地面に爪を立ててみる。

 見た目は蝋の様だが硬さはそれとは全く違い、指先に軽い痛みを感じる。 

 地面には傷一つ付いておらず、この行動で分かったことはこの固い物質を破壊するだけの威力をあの人形は持っているということだった。

 立ち上がり、彼女のティアラフルーと呼ばれている人形に目を向ける。

 ただの15センチ程の小さな人形が空間を溶かし、本物の拳銃と相違ない威力の弾丸を放つ物がオモチャと呼ばれる世界。

 その世界に自分は立っているのだと思うと意識を手放したくなって来る。

 悪い夢か何かだと思いたい。


『フフフ、残念ながら夢なんかじゃないぜ。 現実も現実、百パーセントのリアルさ。 しっかし(あわただ)しすぎてゆっくり説明する暇もない。 マッ、取り敢えず君も出しなよオモチャ。 ポケットに入ってるからサ』


 イワトに言われるがままポケットに手を入れる。

 出てきたのは直径5センチほどの6面体だった。

 6面のうち5つには小さなロケットの様なものが付いており、残りの1面には砲の様なものが生えていた。


「なっ! なんですって!? まさかキューブを出すだなんて、どこまで馬鹿にすれば気が済みますの!? もう許しませんわ!」


『さて、何も知らない君にありがたーい説明をしてやるぜ。 結構重要な情報だから耳の穴かっぽじってよく聞きな。 今出したのはキューブ。 5つのスラスターと1つの砲が付いたバトルドールだ。 コンパクトで軽いボディにたくさん着いたスラスターのお陰で機動力はピカイチさ。まぁ、耐久力は全くないけどね。 キューブの世間的評価はテレビゲームに出て来る序盤の雑魚敵くらいの評価を得ているぜ』


 雑魚レベルのモノではなく、もっとマシなものを用意しろと思ったのも束の間、説明を聞いているとあまり悪いものだとは思えない。

 高軌道でピーキーな性能と言い換えれば悪いドールだとは思えなかった。

 しかしこの6面体をドール、人形と呼ぶにはあまりにも人形らしくないが。


「メ、メイカちゃん、もうやめようよ……。 可哀想だよ、転入生の子キューブしか持ってなさそうだし、先生も困っているよ?」


 端に追いやられた女生徒の内の一人がお嬢様に声を掛ける。

 あのクソガキ、メイカという名前なのか。

 声を掛けた女生徒の方に目を向けると怯えており気が弱そうに見える。

 まぁ、この状況で何も言わない教師よりも頼りになるのは間違いないだろうが。


「ちひろさん如きが(わたくし)に意見するだなんて生意気ですわ!!」


 メイカはそう言うとティアラフルーの銃口を女生徒に向け発砲した。

 女生徒の額に弾丸が当たる寸前でバリアの様な半透明の皮膜が現れ弾丸を防ぐ。

 撃たれた女生徒は短い悲鳴を上げてその場に座り込んでしまった。

 女生徒に怪我は無く、どうやら怯えているだけの様だ。


「……あ?」


『さっき見たみたいに一応セーフティとしてバリアがあるから安心してくれていいよ。 しっかしおっかないガキだなぁ。 大丈夫だと分かっていても普通打つかね? あぁ、言わなくても分かってると思うけど君はあんなことしちゃぁ……スオウ? どうかしたのかい?』


「先生、彼女、メイカさんはいつもこんな言動をしているのですか?」


 教師である果鹿由里に質問を投げかけたが彼女は質問に答えずその場で狼狽えているだけだった。

 痺れをきたした私は別の人物に質問を投げかけた。


「ッチ。 どいつもこいつも。 もういい。 オイ、そこのお前、お前だよ。 赤いTシャツをきたお前。 メイカとか言うクソガキはいつもこんななのかって聞いているんだよ?」


「っな! 貴方、(わたくし)に向かってクソガキですって! 撤回を……」


「黙ってろッ!! このクソガキャアア!!!」


「ヒェ、な、なんなんですのぉ……」


 自分の怒声に驚きながら赤いTシャツを着た少年は答える。


「いつもこんな感じ……です、けど」


『お、おい。 落ち着けよ。 何ガキにキレちゃってんだよ。 ここは大人としての余裕ってやつをさ……』


「先ほどの行いに安全性だとか、こっちの常識だとかがあんだろう。 知ったことか。 ここで怒らなきゃダメだろ。 じゃなきゃ自分が自分で無くなっちまう。 こいよクソガキ。 お仕置きの時間だぜ」


 手に持っているバトルドールの動かし方がハッキリと分かった。

 これを動かすにはただ念じてやればいい。 

 それだけで手に持っている6面体は手から離れてジオラマへ向かって飛んでいく。

 スオウのバトルドールがジオラマにたどり着くと、ラッパの様な音と空中にBattle Startという文字が浮かび上がって来る。


「くぅ、あ、貴方なんて失礼な奴ですの!? さっきまでの失礼な言動後悔させてあげますわ!」


 メイカはティアラフルーを動かして銃口をキューブへ向ける。

 しかしティアラフルーが発砲するより早くキューブが砲を発射させてティアラフルーを吹き飛ばした。


「イワト、このくだらない遊びの勝利条件はなんだ?」


『コアを破壊された方が敗北になるよ。 人形のバトルドールなら頭部に、君のキューブなら中心部にコアがある。 とっととコアを破壊して終わらせちまいなよ』


 ジオラマの中をキューブが縦横無尽に飛行する。

 美しい円を描く様にカーブしたかと思えば、垂直に進行方向を変化させたりしてティアラフルーの攻撃を交わしていく。


「な、何なんですの!? キューブでこんな動き見たことないですわ!」


 ティアラフルーの攻撃を軽々と交わしつつ、コアを避けて続け様に攻撃する。

 キューブの攻撃によってティアラフルーの脚部パーツや腕パーツにダメージが蓄積されていく。


「ハァッ、ハァッ、ま、まさか貴方……! コア以外の全てのパーツを破壊しようとしていますの!? あ、貴方ドールバトラーとしての誇りはありませんの!?」

 

「ドールバトラー? そんなモン知らん。 俺はクソガキ、お前にお灸を据えてやらにゃあ気が済まんだけだ」


 キューブから発せられる砲がティアラフルーの身体を勢いよく削っていく。

 気付けばティアラフルーの射撃パーツも破壊されており何の抵抗も出来なくなっていた。

 そうして最後にはティアラフルーの頭部だけがジオラマにポツンと転がっていた。


「勝負ありだな、クソガキ」


「う、うぅ、も、もうトドメさしてほしいですわ……」


「いいや、トドメを刺す前に一度謝れ。 そうすれば一思いにやってやるよ」


「うぅ。 ち、ちひろさん。 ご、ごべんなさいですわぁ……」


 メイカが半泣きで謝るのを確認してからティアラフルーにトドメを刺す。

 ティアラフルーのコアを破壊したと同時に、Winnerキューブという文字が空中に浮かび上がり、教室は元通りの空間に戻る。


『ドン引きだよ……スオウ』


 イワトは小さく呟いた。

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