僕の名前はイワト。 石ころに人と書いて石人だ。 よろしくね♪
30と少しの年月を私は重ねて来た。実績を、勝利を、キャリアを私は重ねて、積み上げて来た。
私は決して勝ち組と言われる立場の人間では無いのだろう。
それでも学生時代には勉学に励み、社会人になってからは仕事に打ち込んだお陰で世間で言うところの準富裕層くらいの資産を手に入れた。
私は満足していた。満ち足りていたんだ。
だからこそ、忘れていたんだろう。そうして積み上げたものでも、いとも簡単に崩れてしまうということを。
気付けば私は真っ白な世界にいた。
上も下もない。ただ真っさらな白が永遠と広がっている世界に私はポツンと存在していた。
酷く自分というものが曖昧で、手足が動かせない。
もしかしたら私の手足はすでになく、そもそも人の形をなしていないのでは無いだろうか。
そう感じるほど自分という存在が希薄だった。
「やぁ! 元気かい? って元気なわけないか! アッハッハ!」
気付けば私の目の前に誰かが立っていた。私に話しかけているのだろうか?
「そうそう! 僕が君に話しかけているんだよ。 おっと、先ずは自己紹介だ。 僕の名前はイワト。 石ころに人と書いて石人だ。 よろしくね♪ おっと、アンタのことはよく知ってるから自己紹介は不要だぜ」
目の前にいる人物、イワトは飄々とした様子で話しかけて来た。
彼の外見や声から察するに10代の年若い少年の様だ。
見たこともないほど美しい鮮やかな着物を身に纏っており、彼の容姿は中性的で美しかった。
彼は私のことを知っていると言っていたが、私は自分のことをしっかりと思い出せないでいた。
辛うじて自分が30代くらいの男で平凡に生きて来たことぐらいしか思い出せない。
自分の親も友人も、卒業した学校も働いていた会社も思い出せない。
もし私のことを知っているというのなら逆に教えて欲しいくらいだ。
「うーん、教えて上げてもいいんだけどさぁ。 これでも結構いい塩梅にアンタ記憶を削ってやったんだぜ? それを戻すのはオススメは出来ないな。 ツライもんさ。 自分の死んだ瞬間を思い出すのはね!」
うーん、私は死んでしまったのか? 本当に? 実感が湧かない。 そもそも今の状況に現実感がない。
「あらら? 思ったより狼狽えないんだね。 ツマンないなぁ。 面白い所が見れるとこ思ったのにサ。 おっと、怒るなよ。 ここからは真面目に話すからさ。 ……実はさ、死んだ君にお願いがあるんだ」
目の前の少年は飄々とした様子から急に真面目な雰囲気で此方に語りかけてくる。
「こことは別の世界に僕は今居るんだけど閉じ込められちゃっているんだよ。 わる〜い神様に捕まっちゃってね。君に助けて欲しいんだ。 アイツら本当にメチャクチャやるんだからコッチはたまったもんじゃない! ……この世界に住んでる人間にとってもね。 僅かな力を振り絞って死んだ君の魂を手繰り寄せるのが今の僕には精一杯さ。 もし君が助けてくれるって言うなら、こっちの世界に来てくれないかな? この世界の人達の為にも、お願いだよ。 勿論良いことだってあるよ。 復活。人生の再出発だ。この世界は君の世界ととても似てるからね。 結構楽しく生きていけると思うんだけど、どうかな?」
……目の前の少年が言ってることが本当かどうかはわからない。
神様、世界、魂、そして自分の死、何もかもこの場で飲み込むには些か大き過ぎる。
「……いいよ。 アンタの話に乗ろうじゃないか、イワト。 泣いてる子供の誘いを断れるほど図太くないんでね」
「ホントかい!? ありがとう! 詳しい話は向こうに着いてから話そうか! これからよろしくね! スオウくん。 ……でも変だね、キミ。 ぼかぁ、涙の一滴も流してないに泣いてるだなんてサ。 まだ寝坊助だったら早く目を覚ました方がいいぜ。 これから新しい世界にキミは生まれるんだからサ」
「……? おかしいな、泣いてる様に見えたんだが」
目の前の少年、イワトの顔をよく見る。
彼の言う通り、確かに泣いてはいなかった。 泣いている様に見えたが、どうやら気のせいだった様だ。
あんな意地の悪そうなニヤケ面をどう間違えてしまったら泣いている様に見えるのか少し前の自分に聞いてみたい。
「それでは寝坊助さん、一名様新世界にご案内〜。 頼むぜ? これから神殺しって奴をやってくれないと困るんだからさ」
自分の視界が徐々に白に染まっていく。
視界が全て白に覆われた後、自分の意識が途絶えた。