第3章:エピソード1 ― 物語の初期化 [2]
ドアの向こう側からゆっくりと血が染み出し、私の靴の先端に触れた。汚れないように足をゆっくり引いたが、すでに靴の前方に赤く輝く跡がついていた。
背筋にぞくりとした冷たいものが走った。
心臓は激しく鼓動し、鼓膜まで震えるほどだった。部屋の中は静まり返り、皆が息を殺しているようだった。
再び窓の方を見上げた。間違いであってほしいと願いながら。しかし、窓はドアの上に誇らしげに掲げられ、否定しようのない現実を示していた。
【残り席数:0】
そんなはずはない。必ず出口は他にあるはずだ。
この部屋には400席以上もあるのに、なぜこんなに少ない人数しか通さないのか?
これを仕組んだ者は、ただ人類をできるだけ多く滅ぼしたいだけなのか?それで楽しんでいるのか?
意味が通らない。必死に考えても、ただ単純に大量殺戮をするだけの理由が見当たらなかった。
これは神の罰か?本当に最後の審判の時が来たのか?
いや、たとえそれが私の終わりであっても、何もせずに待つわけにはいかない。二度目の死を迎えるわけにはいかないだろう?
思考が加速する中で、頭が再び響き始めた。
「すると、一人の男が話し始め、皆が舞台へ向かって動き出した。」
頭は激痛に襲われ、何かが中に入ろうとしているかのようだった。男の声が部屋に響いた。
「待て!舞台の裏にもう一つドアがあるはずだ!」
えっ?
皆は舞台の前へ押し寄せ始めた。
いったい何が起こっている?なぜ今、私の考えたことが現実になったのか?
この世界がどれだけ理不尽でも、経験する前に未来がわかるなんてありえない。未来を知るのは神や預言者だけの特権だ。
もし私の考えが出来事に先んじているのではなく、出来事が私の考えに応えているのだとしたら?
いや、それはあまりにも不合理すぎる。
念のために、部屋が紙幣の山に埋もれる様子を想像してみたが…何も起こらなかった。
そんなうまい話があるわけがない。
ざわめきが再び大きくなり、希望の光が戻ると、人々は舞台裏のドアへ一斉に駆け寄った。
私もそれに続いた。これが生き残るための最善の策だった。
この世界を知らない、ここが本当に地球かどうかもわからない。見た感じはそうだが、早とちりはしたくなかった。
ドアの上には先ほどと似た窓が浮かんでいたが、そこには別の文字が表示されていた。
【残り席数:324】
安堵の震えが体を走った。ついにこの地獄から抜け出し、新しい人生を始められるのだ。
チッ…
【残り席数:318】
列が進むにつれて、数字は急速に減っていく。
チッ…
チッ…
チッ…
【残り席数:218】
【残り席数:187】
【残り席数:125】
【残り席数:56】
チッ…
【残り席数:1】
私は列の最後だった。この世界でも、私の性格は変わらなかった。
記憶の限り、いつもそうだった。
注目を避けて群衆に紛れ込む性質が、何事でも最後尾にいることを促していた。
でも、それで誰にも気づかれずに済むのだから、それでよかった。自由に振る舞え、誰にも邪魔されなかった。
体育の授業ではいつも最後に選ばれるか、ベンチに座らされた。先生が出席を取ったりテストを配ったりする際に忘れられることも珍しくなかった。
話しかけると、皆は初めて見るかのように奇妙な目で私を見た。
まるで世界が私と暗黙の合意を結び、私を「見えない存在」とし、問題を起こさせないかのようだった。
それがホンジャの平和な生活だった。
自分の順番が来てドアをくぐろうとしたとき、後ろで何か動く気配がした。
「もう誰もいない?」
女性の声がし、若い女性がカーテンの陰から現れて私の前に立った。
彼女は私よりも小さかった。新しい体を手に入れた恩恵だった。
初めて誰かが私より小さいことに驚きを感じた。
彼女は白いブラウスに黒い長いスカートをまとい、洗練された印象だった。背中まで伸びたストレートの金髪、つり上がった青い大きな瞳、小さな顔立ちだった。
彼女の服装に見覚えがあり、ある考えが頭をよぎった。
部屋の壁は真っ黒で薄暗くて何も見えにくかったが、視線は自然とスポットライトに照らされた大きなロゴ『NEW•ELTA』の舞台に向かった。
その下にはメンバーの写真が描かれたプラスチックのバナーが張られていた。
彼女の顔はどこかで見た気がした。
「君は『NEW•ELTA』のメンバー?」
彼女は埃を払うのをやめ、私を見た。
「はい、そうだけど、どうして?」
NEW•ELTAは私たちの世代の高校生に人気の若いグループで、ライブハウスが嫌いな私は初めてメンバーに会い、震えを抑えきれなかった。
「別に。ただ…こんな状況でメンバーに会うとは思わなかっただけ。」
軽い沈黙の後、彼女はつぶやいた。
「久しぶりに君みたいな人に会ったわ。」
気まずい沈黙が続き、私が先に口を開いた。
「ヨニ?」
彼女は顔を上げた。
「ユン・ジヨンって呼んで。」すぐに答えた。
「え?」
「私の本名はユン・ジヨン。ヨニは芸名よ。K-POPのダンサーは本名を使わないことが多いって知らなかったの?」
「そ、そんなの知ってるよ。」痛々しい笑みがこぼれた。
もちろん知らなかった。K-POPのファンに見えるわけがない。
ともかく、もっと急ぐべき問題があった。
ユン・ジヨンはドアの上の窓を見上げた。
「つまり、私たち二人のうちどちらか一人しか出られないってことね…」
私は黙っていた。
彼女の言う通りだった。私たち二人がここから出られるのは一人だけだ。厳しい現実だった。二人同時に出ることはできない。
選択肢はただ一つ…
ユン・ジヨンは私の方を向いた。
「もしかしたら…」
私は言葉を遮った。
「ジヨンさん、行っていいよ。」
彼女は窓の数字を見つめた。
【残り席数:1】
それが私たちの運命を告げていた。
「でも君は?」
私は微笑んだ。
「僕は大丈夫だよ。」
嘘だった。もちろん助かる見込みも計画もなかったが、彼女の死を背負って生きることはできなかった。
すでに死のうとした私には価値がなかった。彼女のような無実の人は生きるに値した。
「本当にいいの?」
彼女は迷ったが、一歩ドアへ進んだ。
嫌な考えが頭をよぎった。
一歩踏み出せば通れる。
冷たい空気の中、伸ばした腕が止まった。
それはただの自己中心的な行動だった。私は従わなかった。死ぬことを決めた私に、生きたい人のチャンスを奪う権利はなかった。
たとえそれが惨めな自己中心性でも、そんな勇気ある決断はできなかった。
もしチャンスがあれば、今度は謙虚に生き、もっと良い人間になり、信頼できる友達を持つだろう。
チッ…
窓が音を立てた。
【残り席数:0】
運命は決まった。後悔しても戻れない。もし神が私を救い転生させたなら、ここで死なせたりはしないだろう。
向こう側のユン・ジヨンが振り返り私を見た。
「せめて名前だけでも教えてくれない?」
その名前。生まれてからずっと私を苦しめてきた名前。
問題の根源だった。
しかしそれは私を完璧に表していた名前でもあった。
嘘をつくこともできた。こんな理不尽な世界なら、好きな名前を選べたかもしれない。
だがなぜか、彼女には本当の名前を伝えられる気がした。
口を開き、できる限りはっきりと自分の名前を言った。普段は重く感じる文字が自然に口をついて出た。
彼女は名前を聞いて困惑したように唇を引き結んだ。
そしてかすかに微笑んだ。
「ありがとう。」
彼女はドアをゆっくり閉め、その音が響き渡った。
劇場の静寂が私を包み込んだ。
「『トラム(trame)』という言葉は時々正しく訳されないことがありますが、私は漢字の『物語』を使っています。これが良い訳だと思います。もしこの言葉が時々誤訳されていると思ったら、遠慮なく教えてください。」