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第2章:エピソード1 ― 物語の初期化 [1]

⸢ 夢を見たい。そんなことを言うと哀れに聞こえるのはわかっているけど、もう二度と自分を消耗させる痛ましい孤独を感じたくない。どんなに努力しても幸せを見つけられなければ、私の人生には意味がない。この夢に溺れて、もう二度と戻りたくない。 ⸥

ゆっくりと目を開け始めた。頭上からまぶしい光が差し込み、耳は鳴っていた。周囲からは叫び声や泣き声、苦痛の叫びが聞こえた。背中を地面につけて横たわっていた。起き上がろうとしたが、足が動かなかった。麻痺しているらしい。腕の力を借りて横向きに転がろうとした。

全力を振り絞ってぎこちなくも横向きに転がることができ、徐々に目を完全に開けた。人々が慌てふためき、部屋中を走って出口を目指していた。私はあまり知られていないK-POPグループのファンイベントの真ん中にいるようだった。

正気を取り戻した時、そこでそれを見た。空中に浮かぶ明るいスクリーンが目の前にあった。表示された文字を読むと血の気が引いた。

[物語]:ワンダーロッホホールから脱出せよ。

説明:制限時間内に脱出せよ。

制限時間:10分。

報酬:???。

まるで小説から飛び出したようなクエストだった。私の不条理な世界に生きたいという願望が遂に実現したのか?周囲を見回すために立ち上がった瞬間、それが私を打ちのめした。私は普段よりもずっと大きくなっていた。顔や髪に手をやると、自分だとは思えなかった。背筋が寒くなった。まるで突然年を取ったかのようだった。長かった髪は切られており、以前のか弱い体とは違い頑丈になっていた。

目の前にウィンドウが開いた。

残り時間:4分23秒。

ここから脱出するには約4分しかなかった。私は一人ではなかった。まるで他人の人生の真ん中に現れたかのように、K-POPファンイベントに参加していた。奇妙なことだが、不条理を受け入れている私には幾つかのナンセンスは耐えられた。むしろこれは新しい人生の始まりかもしれない。

深く息を吸った。新しい人生かどうかにかかわらず、とにかくここから出なければならなかった。周囲の会場がざわつき始めた。

「押さないで。」何人かの若者が非常口に向かって押し合いへし合いしていた。

「ふざけんな、動かねぇよ。」他の者は青白い浮遊画面の指示に懐疑的だった。

「見ろよ、こんなのクソみたいな嘘だって!」

「でも画面に書いてあるの見えるだろう!」女性の叫び声が響いた。

劇場は混乱に包まれ、人々は出口を目指して押し合っていた。私も階段を上がって非常口へ向かった。皆が同時に立ち上がったため列はゆっくり進んだが、肘を使って人混みをかき分けて上の段までたどり着いた。

開いた扉の前で人々が口論していた。

「冗談だろ…」

「嘘だよ、言ってるだろ!」

扉の上空にウィンドウが浮かんでいた。

[残り席数:10]

私は動かずに部屋の反対側からそれらを見ていた。注目されるのは好きではなく、こうしたトラブル時はいつも離れた場所にいた。中学の時も、先生が欠席のときは静かに座って、状況が戻るのを待っていた。

扉の前は押し合いが激しく、何が起こっているのか見えなかったが、開いた非常口の前で一団がもめているようだった。

隣にいた男が不機嫌に唸り、私を押しのけて群衆の中を突き進んだ。

「通してくれ!」

肘で道を切り開き、扉を抜けて群衆の叫びを避けて走った。カチッという音がして、みんながウィンドウに目を向けた。数字が減っていた。

[残り席数:9]

なに?つまりあと9人しか脱出できないのか?この会場には200席と立ち見が100人分以上ある。しかも9人だけしか脱出できない。私は部屋の反対側にいて、扉まで間に合う可能性はなかった。それにこんな状況は私のような者のためのものではなかった。

くそ、こんな不条理な世界で、私みたいな者がひっそりと抜け出す方法はないのか?

パニックになりかけた時、激しい頭痛が走り、頭の中に声が響いた。

「数字が減ったことで人々はパニックになり始めた。最初に扉を抜けた者が勝ちだ。他はどうなっても知らん。」

頭がひどく痛んだので手で押さえ、歯を食いしばってこめかみを強く揉んだ。10秒ほどで痛みは和らいだが、まだ頭がぼんやりしていた。顔を上げると、全員が階段を下りて扉の前に集まっていた。

人々は脱出できるのは9人だけだと理解した。以前にもウィンドウは見ていたが、数字が減るのを実際に見て、脱出者を待つ反応を見て改めて事態を認識したようだった。彼らは先を争って扉に向かった。

[残り席数:8]

混乱が会場を満たし、数字は次々と減っていった。

[残り席数:4]

人々は扉に殺到し押し合いへし合いしていた。

[残り席数:3]

「待て!」

40代の上品な服を着た男の声だった。

「お前ら、何やってるんだ!年長者を敬え!」

男は同年代の妻と思われる女性に手を差し伸べ、二人でゆっくりと扉へ向かった。会場にざわめきが走った。

彼は再び声を上げた。

「脱出優先権は年長者にあるべきだ!」

若者たちの声が返った。

「何だよジジイ…」

「聞くわけねえだろ?」

叫んだ最後の若者が群衆から出てきて、浮かぶウィンドウを指差した。

「まだわかんねえのか?俺たちの知ってる世界は消えたんだ!だからお前のくだらねえルールなんてクソ食らえ!」

老人の顔が怒りで歪み、歯を食いしばった。突然妻の手を離し、押し倒して扉に走った。若者が追いかけたが、老人は速く扉を通り抜けた。

[残り席数:2]

若者は笑いながら扉に向かって走った。

「バカめ、通り抜けやがった。」

若者が扉に向かおうとした時、一人の女子高生が群衆から出てきて彼を肩で押しのけた。

「止まれ!」

制服姿の女子高生が扉の前に立ちふさがった。

「まだ状況がわかってないの?この扉から脱出できるのはあと2人だけよ。ここに残る者に何が起きるかはわからない。」

彼女はジャケットのポケットから折りたたみナイフを取り出し、震えながら男に向けた。

「ジウン姉さん…?」

群衆の中にいた中学生の声だった。

女子高生は落ち着いた声で姉に話しかけた。

「大丈夫、ユナ。行こう。」

彼女はゆっくり姉の方へ進み、姉は彼女を扉へ押し出した。

「扉を通って、ユナ。」

「でも…」

「今すぐに!」

彼女の声は震えていたが、目はすでに暴力を知っている者のように揺らぐことはなかった。

中学生は慎重に扉をくぐった。

チクッ

[残り席数:1]

女子高生は後ろ向きに扉に近づき、ナイフを突き出した。静寂が広がる中、これから扉を通れなかった者たちの運命を決めようとしていた。彼女は一歩一歩進み、ウィンドウのカチッという音が響いた。

チクッ

[残り席数:0]

二人の姉妹は走り去り、扉はゆっくりと自動で閉まり始めた。ささやき声が起こった。

「どうすればいいんだ?」

「他の出口はないのか?」

「これが唯一の非常口って本当?」

「本当にもう出られないのか?」

扉が半分閉じかけた時、一人の男が必死に走り寄った。扉はほぼ閉じていて通り抜けるのは難しかったが、彼は隙間を飛び越えた。

チクッ

男は起き上がり、疑いと不安の目でカウンターを見た。

[残り席数:-1]

安堵の声が会場に広がった。もしかしたら全員脱出できるのかもしれない。カウンターの限界は試練であり、ルールを破って扉を通る勇気がある者を見極めるためかもしれない。しかしそんな試練を望む者はいるのか?どんな世界に迷い込んだとしても、それは確かに不条理だった。

扉の向こうから男の狂気じみた笑い声が聞こえた。

「ハハハ!全部嘘だって知ってたぜ。羊の群れめ!」

勇敢な者たちはそれを脱出の可能性の証と受け取り、扉へ殺到した。扉はほぼ閉じかけていたため、身を斜めにしないと通れなかった。

[残り席数:-3]

数字は赤く点滅し、システム自身が私たちの絶望を嘲笑っているかのようだった。人々は押し合い、背後から押されて倒れ、扉の向こう側で人々が重なり合った。

[残り席数:-8]

やがて扉の開口部は狭くなり、誰も通れなくなり、扉は完全に閉まった。向こう側からは歓声が聞こえ、室内は重苦しい空気に包まれた。

ヒューッ!

突然、鋭い笛の音が会場に響き渡った。私は反射的に耳を押さえた。人々は驚き悲鳴を上げた。音は扉から聞こえた。静寂が戻りかけた時、扉のそばから女性の叫び声が響いた。

「ああああああ!」

理由はわからなかったが、突然人々が私のいる扉の反対側へ走り出した。混乱の中、一人の女性がつまずき、ハンドバッグが空中に飛んだ。高い悲鳴が響き、少女が周囲の人を押しのけ、少年が座席を乗り越え倒れた人を踏みつけながら進んでいた。

もしこの世界が本当に不条理なら、私もその一部になる時が来たのだ。パニックの波とは逆方向に走り出した。肘を使って人をかき分け、転びそうになるのを防いだ。途中で人数が減り、遠くに扉が見え始めた。

しかし何かがおかしかった。扉の前に誰かがソーダをこぼしていた。

近づくにつれ、事態が分かってきた…

いや、あれはソーダではなかった。扉の隙間から赤く光る液体が漏れていた。鉄の強い匂いが鼻をついた。

それは血だった。

私は視線を扉の上に浮かぶ青白く光るウィンドウに向けた。

[残り席数:0]



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