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いゾン日和④

 最初に彼女のことを認知したのはいつだろう。果林はクラスメイトに彼女がいることにすら気づいていなかった。それだけ彼女の影は薄かった。

 きっかけは夏休みが明けて、焼けた肌が話題に上がった時だ。友達たちと肌を見せ合ってはしゃいでいた時に、クラスメイトの中で肌の白い立花日和に注目が集まった。

 肌が白くて羨ましい、それだけ外に出てないんじゃないの、そういやあいつ誰だっけ、いつも本読んでる根暗ちゃんでしょ——ねえ果林、あの子に話しかけてきなよ。


「は? 無理」


 一度は断ったが、こういう時の女子の団結力は固い。ほらほら友達になってきなとぐいぐいと背中を押してくる。彼女たちのにやにや笑いに、果林は不満げな睨みで返し、あとで覚えてろよと心の中で毒づきながら日和の元に歩く。

 彼女は本を読んでいる。しかし体がこわばっているのがまるわかりで、彼女は果林が近づいていることに気づいていて、あえてこちらを向かないようにしているのがわかる。つくづく果林の嫌いなタイプだと思う。うじうじしていて、見ているだけでイライラする。


「ねえ、それなに読んでんの?」


 日和は体をびくつかせた。本が机の上に落ちた。挙動不審な動作で、意外と艶のある黒髪と共にこちらに向く。黒縁のメガネ越しにこちらの目をみつめてくる。と思ったらすぐさま視線を下に落として彼女は答えた。


「あ、あの、恋愛小説……です!」


 動揺しているその声に、後ろから友達たちがくすくすと笑っているのが聞こえる。こいつらも大概性格が悪い。


「ふうん。彼氏いんの?」


「ふえ⁉ いや、私になんて、そんな! いない、です……」


 そりゃそうだ。こんなやつにいてたまるか。


「へえ、もったいないね」


 心にもない言葉と共に、果林は日和のメガネを外す。日和は慌てふためきながらもこちらから無理やりメガネを奪い返すようなことはしなかった。このままメガネを友達に渡して嫌がらせをしようかと思ったが、それ以上に面白いことを考えた。


「磨けば光ると思うよ。私がコーディネートしてあげるからさ、今度の休み空けときなよ」


「え、それって……」


「ショッピングしようって言ってるの。それとも私とは出かけたくない?」


 日和がぶんぶんと頭を振った。そのまま首が取れるんじゃないかという勢いだ。


「そんなことないです。あの、その、私だれかと出かけるとかしたことなくて、むしろ私なんかと、いいんですか?」


 どこまでもうじうじとめんどくさい。やっぱりこいつは嫌いだ。


「もちろん。私らこれから友達になろ」


 日和は蕾が開いたような笑顔を見せる。こうやって笑ってる方が、陰気な表情をしているよりはずっとましだ。


「じゃああとでね」


 そう言って、友達たちの元に戻る。


「聞こえてたよ果林、あんたあの子と出かけるの?」


「本当に友達になるとは思わないじゃん。どういうつもり?」


 果林は声を潜めて話す。


「友達になんてなるわけないし。適当に待ち合わせだけして、あとはほっとけばいいでしょ」


「はあ? あんたえぐいこと考えるね」


「勘違いするほうが馬鹿でしょ」


 そう言いながら、ちらりと日和の方を見た。こちらの視線に気づいて、日和が小さく頭を下げた。どこか嬉しそうなその様子が、癪に障る。

 放課後になった時に、果林は日和とメッセージアプリのIDを交換し、待ち合わせの場所と日時をメッセージで送った。

 当日はもちろん、果林はその場所に現れることはなかった。

 しかし果林の友達は、わざわざ待ち合わせ場所に行って待ち惚けている日和の姿を動画に撮っていた。その動画をグループ内で拡散し、彼女たちはそれを見て笑っていた。彼女たちは日和のことをからかいがいのあるおもちゃであるという認識を強め、一方的に話しかけて馬鹿にしたり、足を引っかけたり、彼女の私物を隠したりと嫌がらせを始めた。

 果林はそれに対して、表面上は日和の味方を装っていた。


「ほら、立花さん困ってるでしょ。しっし」


「はーい」


 彼女たちはケラケラと笑いながら去っていく。


「ごめんねあいつら。加減を知らないから」


「ううん。あの、ありがとう」


 彼女がいじめられる原因を作ったのは果林だというのに、どこまでも馬鹿なやつだと思う。


「それよりもごめんね。待ち合わせに行けなくてさ。ちょっと大事な用事が入っちゃってさ」


「き、気にしないで。用事なら仕方ないよね」


 気にしろよ。本当に、どこまでこいつは。


「あと、これ。シャーペンあいつらから取り返しといたから」


「わ、ありがとう」


 シャーペンを見つめて目を丸くした後に、わずかに口角を上げる。それから彼女は息を深く吸った。大事なことをこれから言うのだとその様子を見せつけてられているようだった。


「私、溝畑さんと友達になってくれて、す、すごく嬉しい」


 勇気を持って言えた、そんな気の緩んだ表情を見せてくる。どこまでもわかりやすく、素直な反応。だからいじめられるんだ。


「私と違って、きれいだし、かっこいい。私も溝畑さんみたいになれるかな」


 なれるわけないだろ。


「私みたいにならなくても、立花さんはそのままでいいんじゃない」


 適当な言葉を残してその場を去った。さっきまでのやり取りを、果林は友達と共有した。友達は日和の言葉の一つ一つを馬鹿にして楽しんでいる。

 果林も同じように、笑っていた。

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