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6話 彼の提案

「………」


翌日。


今日も今日とて男装を施し学校へと赴く。


ホームルーム十分前に教室へ到着。席に向かう足取りをあえて遅くし、既に着席している弌茄君をあらゆるアングルから舐め回すようにじっっっっっくりと見る。


今日も好きだなぁ………。


きっと赤面しているだろうが、彼から目が離せなかった。


すると、私の目線が彼のうなじへと着弾した瞬間………弌茄君が突然機械が如く首をこちらに向け、バッチリと目が合ってしまった。



「っ……!?」



えっ何!?……すっごい見てくる!!


もしかして………めっちゃ見てたのバレた!?脳内ストレージに弌茄君の全身像をリアルタイムでスキャニングしてるのバレてる!!?………え………こうしてる最中まだ目を離さないんだけど彼……こんなのもう広義で言えば見つめ合ってると言って差し支えないじゃん………あ、ヤバ、興奮してきた。てかかっこよすぎるんだけど何?はーーーー好き好き好き好き好き胸苦しぃ~~~~~~~~~痛ぁ~~~~~~~でも好き~~~~~~~~~~~~~~~~



「なぁ、井原」


「ぐむゅっっ!?」



名前!!?!?!??今名前呼んだ!?あ、でも今の私は”井原ヒロ”だから彼にとっては苗字か……いやいや関係ないって!!音だけなら完全に名前言ってんだから!!!うあ~~~~~もう一回言ってくれないかな~~~!!!そしたらダミーヘッドマイクで録音させてもらうんだけどなぁ~~~~!!!ダミーヘッドマイク欲しい~~~~~~~~!!!


……と、とにかく……!!今は興奮を抑えて……あくまで男として、且つ波風立てないような返答を………



「…………あぁ?」




違ーーーーーーーーーーーーーーーああぁぁああう!!!!!んだよそれふざけてんのか私!!!


男としての振る舞いに意識持ってかれ過ぎた!!


ごめんなさいごめんなさいごめんなさい………!本当は『なぁに?どうしたの弌茄くん?(激烈萌え声)』とか言いながらねっっっとり絡みつく様にハグして半世紀くらい離したくないのにこんな十世紀分突き放すみたいな返事してごめんなさい!!!


このままじゃダメだ。余計なこと考えすぎて裏目に出てる。ここはまず”当たり障りない返答をする”ことだけに集中しよう。弌茄君には本当に申し訳ないけど、会話の内容は後から頭で整理して………


「………放課後、時間あるか?」


「………あぁ」


「じゃあ悪いが十六時半頃に、フリーの体育館前に来てくれないか?」


「………あぁ」


「そこで井原に、話したいことがある」


「………あぁ」


「本当にいいのか?」


「………あぁ」


「ありがとう。……じゃあ、待ってるから」




………そして、弌茄君は目線を外して黒板へと向き直った。


会話が終わったことを察し、私は極限集中していたが故に空きっぱなしだった口を閉じ、静かに自分の席に着く。


ふーーーーーーーー危ない危ない、変な事言ってなかったよね私……?これ以上ボロを出して不審に思われたらヤバいもんね。


さて、さっきの会話の内容を…………


………ん?あれ、なんて言ってた弌茄君……?


放課後………体育館前………


私に……話したい………事………


「ミ゜ッッッッッ」


春には物珍しい、死にかけのセミの鳴き声が教室に木霊した。



◇◆◇



「あっ!!井原君だ……!」

「やばぁ~~~イケメン過ぎない?」

「もう絵画じゃん……」



来る放課後。私は予め人目に付かない物陰にて手鏡を装備し、前髪のチェック並びに入念なオーラルケア並びに尋常じゃない程の体臭チェック並びに他の追随を許さない服装チェックを行ったうえで、体育館前へと赴く。


我が学園には体育館が二つあり……一つは授業と部活で使う用、もう一つは学生が自由に時間帯問わず使えたり、休日には一般開放や稀に講演等も行われる施設。学生たちは皆”フリーの体育館”というらしい。弌茄君が指定したのもまさしくそっちだ。


無駄に広い学園内を歩く。……別の体育館とは真反対の方角にあるため、普段フリー側周辺には休日以外あまり人がいないハズなのに……いつの間にか夥しい数の女子生徒が、何故か私を追いかけて集まり散らかしていた。その様子を何かの催しかと勘違いした男子生徒もちらほら見受けられる。


何度も彼らを撒こうと試みたが結局追いつかれ、数はますます増えていくばかりだ。


「もぉ~~~……!何かした私!?何で付いてくるの!?二人っきりになりたいのに………」


だって、弌茄君から直々に()()()()()だよ!?……もしかしたら私の事思い出してくれて………”やっぱりお前の方が好きだ”的な事……?!略奪婚ルート……?いや聖海ちゃんには申し訳ないけどきっと応援してくれるよね!?



もはや”男装している”&”正体を明かせない”というリスク等が諸々すっぽ抜けた頭で、私は望まぬギャラリーたちを引き連れてフリーの体育館前に到着した。


そして……入り口には、愛しの弌茄君が……なぜか体操服を着て直立していた。




「………?」




どういうこと……?制服は…………?


………はっっっっっ!!えっ!?


……………()()()()()()()()ってコト!!?!??何とは言わないけど!!!


告白してくれるのは前提で、もうその先の()()も考えてるって事なのかな!!??!大丈夫!?こんなギャラリーいるけど!!弌茄君以外に私絶対見せたくないんだけど色々!!!



すっかり脳内妄想上映のレイティングシステムがGからR18+へと切り替わった所で……ついに弌茄君が口を開く。


一秒ごとに速さを増す心臓。深くなる呼吸。


目線が、意識が、彼の口元に集中してしまう。


私の十年分の想いが……やっと彼に伝わって………




「井原。俺と………」


「あ………あぁ………」


「………」




………焦らすねぇ弌茄君!!三点リーダーがニクいね!!!


いや全然いいよ!?このドキドキもかけがえない思い出になるんだもんね!


私はもう当たり前だけどこめかみに銃突きつけられてても絶対に答えはYESですから!?弌茄君のタイミングでいいからね!!!ただこれ以上は心臓が限界というか既に生命維持装置として大丈夫かどうかグレーな所なので出来ればもう告白してくれても……




「俺と………………()()してくれないか………」


「はい!!!!こちらこs……………え…………え、しょ……勝………負…………?」




彼から告げられたのは、愛の告白でもなんでもなく………私に対する”宣戦布告”だった。



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