47.5話 九と楚のトーク画面
さえき ちか「こんばんは!!早速RUINしちゃった!」-19:00-
さえき ちか「今日は何から何まで助けてくれてありがとう。帰りまで送ってもらってごめんね」-19:01-
さえき ちか「イバちゃんは、ちゃんと帰れた?心配です」-19:05-
さえき ちか「イバちゃん?」-19:37-
さえき ちか「大丈夫?」-20:05-
さえき ちか「え」-20:10-
さえき ちか「不在着信」-20:10-
さえき ちか「不在着信」-20:30-
いばら「返信遅れてごめんね!!今帰ったよ!!心配かけてごめんね~!」-22:02-
さえき ちか「今!?何してたの!?大丈夫!?」-22:02
さえき ちか「不在着信」-22:02-
いばら「ごめん、今ちょっと死ぬ程息切れてるから、活字でしかやり取り出来ない……」-22:03-
さえき ちか「何があったの!?ていうかイバちゃん家、近くじゃなかったの!?」-22:04-
いばら「いや……寄り道してて……」22:04-
さえき ちか「寄り道だけで死ぬ程息切れるかな……」-22:05-
さえき ちか「何があったの!?」-22:05-
いばら「あの」-22:06-
いばら「実は、帰り道で変な男達に絡まれて」-22:10-
さえき ちか「不在着信」-22:10-
いばら「大丈夫だから!!何もされなかったよ!」-22:11-
いばら「助けてくれたの」-22:11-
さえき ちか「本当に?本当に大丈夫なの?助けてくれたって、警察の人?」-22:12-
いばら「ううん、弌茄君が」-22:13-
さえき ちか「なんて読むのその漢字?!昔の中国の偉い人?」-22:13-
いばら「説明無しにごめんね。”いつか”って読むんだけど、私の」-22:14-
いばら「友達。男の子の」-22:20-
さえき ちか「男達って言ってたけど、いつか君一人でやっつけちゃったって事!?」-22:20-
いばら「うん」-22:20-
さえき ちか「本当に!!?嘘じゃないよね?ちゃんと無事なのイバちゃん」-22:21-
いばら「本当だよ!弌茄君一人で三人全員気絶させて」-22:21-
いばら「そして色々あってロボになっちゃって、大暴れしてるところを警察に見つかって逃げたけど結局補導されて、今二人ともその警察の人に家まで送ってもらったの」-22:22-
さえき ちか「不在着信」-22:22-
いばら「本当だって!!」-22:23-
さえき ちか「絶対嘘じゃん!!赤ちゃんでももっとマシな嘘つくよ!!!」-22:23-
いばら「マシな嘘吐く乳幼児はちょっとしたホラーだと思うけど……」-22:24-
さえき ちか「やっぱり何かあったんでしょ!?イバちゃん家教えて!今行くから」-22:24-
いばら「何もなかったって本当に!!それに、私も鍛えてるって言ったでしょ!?」-22:25-
さえき ちか「言ってたけど、男の人三人はどうしようも」-22:25-
さえき ちか「やっぱりイバちゃん一人にするんじゃなかった。私のせいだ」-22:26-
さえき ちか「ごめんなさい。ごめんなさい」-22:26-
さえき ちか「イバちゃん?」-22:37-
いばら「"写真が送信されました"」-22:38-
さえき ちか「え」-22:32-
さえき ちか「石?」-22:33-
いばら「今、ちょっと外に出て大きめの石三つ拾ってきた」-22:34-
さえき ちか「何で!?」-22:34-
いばら「左、中央、右、どれか一つ選んで」-22:35-
さえき ちか「急にどうしたの!?」-22:35-
いばら「証明するから、選んで」-22:35-
さえき ちか「イバちゃんさっきから変だよ!?ロボいつか君とか石とか」-22:36-
いばら「通話が開始されました」-22:40-
◇
「イバちゃん!!?やっと出てくれた……今どこにいるの!?本当に家にいる!?怪我は!?今行くから場所教えて!!警察には連絡してるの!?」
「だっ……だから大丈夫だって!!心配しすぎだよさえちー……」
「あっ……」
スマホを通して曇りの無い私の声を聴いた彼女は、安堵の声と共に少し鼻を啜っていた。
「本当なんだね!?本当に何もされてないんだね!?」
「うん、大丈夫だよ。ありがとう」
悲哀を微塵も孕んでいない声色から、本当に私が無事であることを理解したのだろう。
「…………よかっ……たぁ………ぅ……うぅ………よ”かっだよぉ………!!うぅ~~~~………」
堰を切った様にぐしゃぐしゃの涙声を零し始めるさえちー。
今日初めて会った人間の事でここまで心配をしてくれるとは……対する私は胸が痛い。
「な、泣かなくても……大袈裟だなぁ」
「大袈裟じゃないよ!!本っっ当に心配してたんだからね!!?全然既読付かないし電話も出ないし、天井先生に連絡しても”戻ってない”って言うし……!!外に出て探そうと思ったら返信来たけど………そしたら男の人に絡まれたって………ぅう~~~~~~」
もし私を探して彼女が無闇に外を出歩いていたら、そっちの方が危なかったかもしれない。鋭く胸を刺す痛みと、そうならなかった事への安堵、そして如何に彼女が友人思いで優しい子なのかを再認識したことで、私も思わず目の奥が熱くなるのを感じた。
「…………もう次から、私がイバちゃんを送っていくから。私だけ休みの時もイバちゃんが帰る時間に出勤して送っていくから」
「な、何言ってんの!?そこまでしなくて良いって!」
「ダメ!!絶対送っていくから!!」
もはや怒号にも近い決意表明に、思わずたじろいでしまう。……正直に話すべきじゃなかったかもしれない。
彼女の確固たる意志を認識し、私は一つ呼吸を置く。
そして、通話を音声のみの状態からビデオ通話に切り替えた。
「えっ?」
「さえちー、見える?」
内カメラの状態で手を振る。突然の出来事に困惑した声を上げるさえちーだが、私はそこから更に外カメラに切り替えた。
画面に映るのは当然私の部屋。そして中央に備わるテーブルには、先程送信した写真と同様三つの石が乗っている。どれもアパート近くの砂利道で拾って来たもので、握り拳大以上のものを厳選して来た。
「み、見えるけど………石が……」
「じゃあもう一回聞くけど、どれか一つ選んで」
「だから何で!?そもそも女の子の部屋にデカい石が三つ並んでる状況って何!!?」
「さん、にー、いち……」
「えっえっ……!?っ……と……………じゃあ、右!!」
有無を言わさないカウントダウンに急かされ、反射的に石をチョイスするさえちー。
右の石は三つの中でも特に大きく黒々としていて、四捨五入すればもう岩といっても割と過言ではないくらいの石だ。
私は彼女の選択に従い、右の石を掴んで持ち上げる。
「?………何するのイバちゃん………」
「証明するって言ったでしょ?」
「な、何を……」
「鍛えてるって…………事っ!!」
割合で言えば、一割七分ほどの力を石に込める。
直後、威圧感さえ放っていたそれは一瞬にして粉々に弾け飛び、部屋中に大小問わない破片が飛散した。
重力に従い落ちる破片がフローリングや直下のテーブルに着弾するが、その音はどれも鈍く重く、砕いた物体が自然界の生み出した純然たる鉱物質の塊であることをまざまざと示す。
「えっ…………」
「あ、手だけ映ってても説得力無いかな……。じゃあ次は全身映しながら割るね」
再び内カメラに切り替え、自撮りの要領で全身と残りの石を映す。そして次は真ん中の石を利き手ではない左手で掴み、握りこんで砕く。
「左手だとちょっと時間かかるんだけど………じゃあ、最後ね」
最後の一つは、握らず手刀を叩きこむ。表面に左手の側部が触れた瞬間に動きを止めると、数秒後、”ゴトリ”という音と共に、真っ二つになった石の断片がテーブル上に転がった。
断面には微塵の起伏も無く、宛ら撫で磨かれたかのような光沢さえ湛えていた。
「……………」
「これくらい出来れば、暴漢一人くらいなら私だけでもなんとか出来そうでしょ!?ね!だから心配しなくて大丈夫!!」
………鼻息荒く宣言する。しかし彼女からの返答がない。
一体どうしたのだろうと次第に不安が立ち込めるが……数十秒の沈黙の後、漸くスマホの向こうから声が聞こえた。
「……………警察、行こっか。大丈夫、私も……一緒に償うから」
「こっ…………殺してないよ!!?」
満を持してさえちー側のビデオ通話が開始する。
画面に映った彼女の頬を伝う涙は、友人の身を案じて溢れた安堵ではなく、大事件を起こした我が子に対する悲哀の様なものを孕んでいた。




