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21話 三度目の出会い

「………と、いう訳で……。アタシが勝手にアナタを不審者だと勘違いしてしまったの。………本当にごめんなさい……!!」


眼を覚ました弌茄君はその直後、目の前に広がっていた異次元に驚愕し恐れ慄いていたが……なんとか天井さんが介抱し、ようやく会話が出来るくらいには落ち着きを取り戻していた。


次に天井さんは、今度は弌茄君に対してフローリングめり込み土下座を披露し、全身全霊で謝罪の意を述べ始める。



「いやいや止めて下さい!!あ……天井さん……でしたっけ………?ろ、碌に確認もせずお店に入ってしまった僕の責任ですから!!頭を上げ……ってそれ大丈夫ですか!!?フローリングにめり込んでますけど!!?」


「これはさっきめり込ませた窪みだから大丈夫よ」


「少なくとも一回はめり込ませてらっしゃるんですか……!!?」


かくいう私はというと……ただひたすらに”終わった”という諦観しかない脳を引っ提げて、その場に呆けた顔で立ち尽くしていた。


「…………あ、あの……」


「………」


「あ……あのっ!!」


「ひゃっっっ……ひゃは……はい!!!」


いつの間にか、弌茄君が私を見ていた。……そして私を呼んでいた。つい上ずった地声が出てしまう。


「本当に……すみませんでした!!」


「えっ!?」


「着替え中に勝手に入ってしまい、あろうことかその………あの………も、もう本当にすみませんでした!!!」



”あろうことか”の先は、最早言わずもがなだった。ていうかチョップで記憶消えてないじゃん。


……そして今度は弌茄君が私に対して土下座をする。只今店内の2/3、約67%の人間が土下座状態という驚異的な”土下座密度”の中で……私は慌てて腰を落とす。



「や、やめてよ弌茄君!弌茄君は悪くないって……!わ、私が看板裏返したからだし……ぜ……全然怒ってないから……!ね……?」


「………」



そこで、急に肩を軽く小突かれる。驚き横を見ると……いつの間にか土下座から立ち上がっていた天井さんが、何故か焦った表情を浮かべつつ、小声で私に訴えかけた。



「ち、ちょっと楚ちゃん……!!」


「な……なんですか……!?」


「”なんですか”じゃなくて……!だ、大丈夫なの!?」


「え……?」


「だから……!”弌茄君”って…………!」


「………………あ」


……まだ、彼は自分の名を名乗っていない。


「あの……重ねて失礼な質問なんですが……俺……ぼ、僕達って、どこかで面識ありますか……?僕の名前、ご存じのようですけど……」


「えっ!!?め、面識!?え……ーーっとぉ……いやぁ、あはは……め、面識……面識ねぇ……」



ゴリッゴリにあるでしょうが!!!まだ思い出せないの弌茄君!!?もーーーー本っ当に鈍感だなぁ!!でも好き!!!!!


「………」


………でも、ここまで思い出せないものなのだろうか。


自惚れじゃないけど、十年前とはいえ一時期はあれだけ一緒に行動を共にしていた人間と対峙して、知らないハズの名前も知っている私の事を………


い、いや、あり得るよ!だって十年……そう、十年も会ってなかったんだし!すぐには思い出せないよね……


「そ、それに……貴女(あなた)はその……聖海ともお知り合い……ですよね?」


「ま、聖海……ちゃん……?」


そうだ。先日も私は、聖海ちゃんの家から男装を忘れて出て行った瞬間、弌茄君とバッタリ遭遇してしまったんだ。


「ま、聖海ちゃん……とは元々……()()()から友達……で……」


「(ち、ちょっと楚ちゃん!?さっきから踏み込み過ぎじゃない……!?バ、バレてもいいの!?)」



再び、天井さんが耳打ちする。

……私も、自分で何をしているんだと思う。


でも……


「へ、へぇ!そうなんですね!アイツに甲殻類以外の友人がいたなんて知らなかった……!いつもお世話になっております」


”聖海ちゃんと十年前から友達”という事実を聞いても、彼の表情に大きな起伏は無い。

……鼓動が、徐々に速まっていく。前のめりになる意識を抑えられなくなっていく。


勘違い。私の杞憂。だって弌茄君は鈍感だから。きっとすぐに私を……



「じゃあ、俺の事も聖海から聞いてたんですね!」


「う………うん。そう。聖海ちゃんから………」



正体を知られたくなかった。思い出してほしくなかった。私だと、気付いてほしくなかった。

でも今は……それが全て台無しにしてしまう行動だとしても……



「自己紹介、まだだったよね」


「えっ?」


「私の………()()



そんなはずない。暴れる動悸に搔き乱される思考の中で、私はただ縋るように口を動かしていた。

だって私は……私はずっと……ずっと君の事だけを……



(いばら)……っていうの。私の名前」


「なっ……!」



天井さんは、私の唐突な告白に言葉を失っていた。同じく弌茄君もその名前を聞いた瞬間、口を開けたまま、まるでフリーズしたかのように動きを止める。


……上京する前から懸念はあった。名をそのまま姓に置き換えた無茶な偽名も、その不安の表れだった。

あの時も、あの時も、そして今も。彼の表情は同じ。


そんなはずない。そんな……事……


「いばら……?」


弌茄君が、虚ろにその名を声に出す。


「いばら……いば……ら………」


そこで、彼は霹靂に打たれたかのような表情を浮かべる。


「もっ………もしかして………”いばら”って………!!!」


「っ……弌茄君……」



そうだよ、私だよ……!ずっと君の事を見てたんだ。君の事だけを考えて私は……

例え記憶の片隅に追いやられていても、私は弌茄君の記憶の中に……



()()ヒロ……君の……妹さんですか!!??」


「………………え」


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