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14話 ニヤつく彼女

「好き………いや、()を……見せたな………と、言おうとしただけだ」



50000番煎じの様なテンプレ”好き”発言誤魔化しチャレンジを終えた所で、少し困惑しつつも納得したらしい弌茄君は、



「……悪いな井原、変な抱え方しちまって」



そっと足先から私を下ろした。叶うならあと八世紀くらいそのままの体勢でいて欲しかったけど致し方ない。名残惜しさを隠しつつ、固い地を踏みしめる。


ただ依然として動悸と激しい呼吸が収まらず……このままだと弌茄君の顔見ただけで脳が溶け出てしまう気がしたので、私はそそくさとその場から離れる。



「………ありがとう」



辛うじてその五文字だけは彼に伝え、ふらふらになりながら教室を出る。



「えっ楚……井原君!?もうすぐ授業……」



………少なくとも今日の一限は、出られそうにない。




◆◇◆




井原が教室を出て十数秒が経った。


随分顔が赤くフラついていたが……熱でもあるのだろうか。敵ながらかなり心配だ。今日は冷え込むから一層部屋を暖かくするように、後で忠告でもしとこうか。



……ていうか、井原がいなくて聖海だけ……って、これ相当気まずい状況なんじゃないか!?あのキスを目撃してからまともに話すらしていないし、勝負にも負けたし……。


くっ……少し前までは、何も考えずとも会話が続くくらい気が楽だったのに!!今はどんだけ考えても会話が失敗するビジョンしか浮かばない!!……ホームルームが始まるまでのたった数分が、永遠の様に感じる。



「………何?」



突然、聖海が頬杖をつきながら俺の眼を見て言う。いつのまにか、無意識で彼女を見てしまっていたらしい。


今までで一度も見たことのない淡白で、冷徹な眼差しと声色。………う~~~~~ん、正直……良い。これはこれでなんかこう……くるものがあるというか。



「い、いや……」



自分の中で生じた新たな目覚めに困惑しつつも、しどろもどろな返答をする。


……このまま、何事もなかったように会話を終わらせ、席に着こうかとも思った。……だが、



「俺は……必ず強くなって見せる。アイツに、井原に負けないくらい……」



思わず、口に出てしまっていた。周囲の喧噪で殆ど声は掻き消えてしまったようだが……どうやら、聖海の耳には入っていたらしい。



「……脳筋め。そんなことより、お前はまず女が喜ぶものを知る必要がある。いくらパワーがあっても話すら合わない相手に、女がなびくと思うか?」


「………え、でも話は結構合ってたような」


「黙りな。……とにかく、そういった知識も経験もまるで無い内は……井原君との差は縮まらないよ」



急に饒舌になってお説教をかましてきた聖海。想い人ながら「お前の立場でそういう事言う?」とつい脳内で突っ込んでしまったが……それ以上に、体へ電流が走った。


そうだ。彼女の言う通り俺は、世間一般でいう”女の子が好きそうなもの”というジャンルに毛ほども精通していない。ザリガニを砂場で散歩させる様な奴に恋してしまったのも相まって全くの未知だ。


でも、そんなこと言うってことは……聖海もそういう大衆的なカルチャーが好き……という事なのだろうか。だとしたら俺はどうすれば……一体、何を学ぶべきなのだろうか……。



頭を抱えて熟考に耽る。……すると、突然スマホの通知音が軽快に鳴った。……恐らくトークアプリのものであろうその音の発信源は、井原の机に、彼が置き忘れて行ったスマホからだった。


一瞬、通知内容が表示された画面に目が行ってしまう。盗み見になるので咄嗟に逸らしたが、送り主の項目にあった”姉”という文字だけ見えてしまった。


「………そうだなぁ」


数秒後、聖海が口火を切る。


逸らしていた視線を戻すと………なぜか彼女は、不敵にニヤついていた。



「女の子が喜ぶ店とか……知っておいた方がいいかもね」


「……店?」


「そう。例えば………」


聖海は、手に持ったカップを口に運ぶようなジェスチャーと共に言う。


「喫茶店………とか」


その視線は俺ではなくなぜか……もう通知画面の消えた、井原のスマホに向いていた。


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