表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/56

55 祝福

 闘技大会は勝ち上がりのトーナメント式。


「皆様、本日は闘技大会にご来場いただき、誠にありがとうございます! 勇士たちの熱い魂がぶつかり合う、白熱の戦いをどうぞお楽しみください!」


 司会者が前口上で盛り上げ、名前を呼び上げる。


「ガイラ・フローレス、グリフィス・メナール」


 初戦はお父さんとライリーさんのお父さんだ。


「一回戦でどちらかが敗退するのか」

「実質これが決勝なのでは?」


 ジーンさんとクロエさんが真剣な表情で呟いた。


「騎士団の隊長として数々の実績を誇るガイラ・フローレスだが、昨年の覇者グリフィス・メナールとは二十年以上前から五度闘技大会で戦っており、接戦の末に毎度敗れている。二十年の時を経て、ガイラ・フローレスはグリフィス・メナールに勝利することができるのか?!」


 お父さんとグリフィスさんがリングに上がる。


「また戦えて光栄です」

「手紙を頂き、ありがとうございます」


 二人とも小さく会釈をする。


「それでは、構えて。……試合開始!」


 司会者の合図で剣を抜き、開始の合図とともにぶつかり合う。剣の衝突する金属音が高らかに鳴った。

 お互いが最初から全力で攻めている。


 試合前は盛り上がって騒がしかった会場には、剣戟音が響いているだけ。

 誰もが瞬きも惜しいというほどに、夢中になって試合を見ている。


 お父さんが突き、それを受け流して、グリフィスさんが薙ぎ払う。攻撃をしながら、相手の攻撃もいなす。両者一歩も譲らない戦いだ。


 決着は一瞬だった。お父さんは完全に交わしたのに、追撃したグリフィスさんによって、剣を弾き飛ばされてしまった。

 動きを止めた二人は、汗だくになり、息を上げながら握手を交わした。


 お父さんは悔しそうに顔を歪めて「また来年、リベンジさせてください」と頭を下げた。ライリーさんのお父さんは真剣な面持ちで「よろしくお願いします」と答えた。

 そこで一気に歓声が湧き、ビリビリと会場全体が震える。


「いい決勝戦だった」


 ジーンさんが拍手をする。クロエさんは涙を浮かべて「本当に」と頷いた。


「ライリーは?」

「もう終わりなの?」


 ローとチーが悲しそうな表情でオロオロしている。子供たちがジーンさんの冗談を信じてしまった。


「まだ始まったばかりだよ。ライリーさんが出てきたら、いっぱい応援しようね」


 私の言葉に、二人は「よかった」と胸を撫で下ろす。

 その後も試合が続くけれど、初戦が激しすぎて、なかなか盛り上がらない。


 ライリーさんが出てきた時には、みんなで叫んで応援しようって言っていたのに、一瞬でかたがついて、試合中に声を上げることはなかった。





 ライリーさんは順調に勝ち上がり、決勝戦でグリフィスさんと戦うことになる。


「ライリーのお父さん強いよね」

「ライリー勝てるかな?」


 ローとチーは心配そうに見守る。


「二人が応援したら、ライリーは負けないんじゃないか?」


 クロエさんは優しく微笑む。


「クロエも応援してよ」

「ライリーはクロエに応援されたいよ」


 二人もライリーさんが望んでいることを理解している。


「さぁ、とうとう最後の試合になりました。グリフィス・メナール、ライリー・メナール。なんと、親子の対決です。息子は父を超えられるのか。父はまだ超えられない壁として立ちはだかるのか! それでは、構えてください」


 二人は抜剣して、全く同じ構えをとった。


「試合開始!」


 ライリーさんが一瞬で距離を詰め、斬りかかる。グリフィスさんは冷静に受け止め、ライリーさんの剣を押すとすぐに剣を振り下ろした。ライリーさんは危ないながらも受け止める。


「「ライリー頑張れ」」


 手に汗握る戦いは、また周りから音を消し、ローとチーの叫び声が響いた。

 徐々にグリフィスさんの方が押してきた。ライリーさんは攻撃が減り、受けるのに手一杯。


「ライリー、絶対に勝て!」


 クロエさんが立ち上がって叫び声を上げる。

 ライリーさんがグリフィスさんの剣を避けて、一歩踏み出した。勢いのまま薙ぎ払い、カウンターが決まってグリフィスさんが膝を付いた。

 クロエさんが呆然としたまま、イスに座る。


「勝者はライリー・メナール!」


 司会者の声で、会場から歓声と拍手が溢れ返った。


「ライリーが勝った」

「ライリー強い」


 ローとチーは手をパチンと叩き合って、喜びを分かち合う。


「クロエさん、ライリーさんが勝ちましたよ」

「あ、ああ、そうだな」


 クロエさんの肩を叩くと、我に返ったようにクロエさんは微かに笑った。


「クロエの喝が効いたんじゃないか?」


 ジーンさんが揶揄うような口調で言うが、私もそう思う。クロエさんの声が届いたから、ライリーさんは勝ったんだ。


「今の気持ちをお聞かせください」


 司会者がライリーさんにマイクを向ける。ライリーさんはこちら、というより、クロエさんを見据えて笑った。


「クロエ、結婚してください!」


 ライリーさんの公開プロポーズに、客席から今日一番の歓声が上がる。そして、クロエはどこにいる、と会場はソワソワとし始めた。

 クロエさんは顔を覆って俯く。見えている耳は赤い。


「ライリーはこんなことするやつではないだろう」

「父親に勝てたのが、よっぽど嬉しかったんじゃないのか? ハイになっているのだろう」


 クロエさんは恥ずかしいと顔を見せず、ジーンさんは腕を組んで大きく頷いた。


「よろしくお願いします」


 全く別の場所に座る女性が立ち上がった。

 会場がプロポーズの返事に拍手喝采。

 ライリーさんは口をポカンと開けて固まった。


「ご結婚、おめでとうございます」


 司会者にお祝いの言葉を述べられて、ライリーさんは慌てて否定した。


「あの、クロエじゃないです」


 司会者も困惑の表情に変わった。


「私の名前はクロエです」

「私もクロエです」

「私も!」


 何人もの女性が名乗りを上げた。ライリーさんはハンサムで強いから、女性たちを虜にしてしまったらしい。


「クロエは珍しい名前じゃないからな」


 ジーンさんが冷静な声で呟く。


「クロエさんも名乗り出てください!」


 私が拳を握って言えば、クロエさんが顔を上げて目を見開いた。


「ジーンみたいに魔法が使えたらいいのにね」

「そうしたらクロエをビューンってライリーのところに連れてけるのにね」


 ローとチーの言葉に、ジーンさんが片方の口角を上げた。その案に乗った! と顔が言っている。私もクロエさんをライリーさんのところに連れて行って欲しい。


「いえ、待ってください」


 クロエさんは冷や汗をかきながら、ジーンさんに向かって首を振る。


「二人に魔法を使わせてあげよう。なんでもいいから魔法の呪文を唱えてみて」


 ローとチーは顔をパッと明るくした。ライリーさんに指を向ける。


「「クロエ、飛んでけ!」」


 二人が叫ぶと、ジーンさんの風の魔法がクロエさんの体を浮かす。


「えっ、嘘ですよね?! ちょ、待ってください!」


 クロエさんの声を無視して、ジーンさんは「ライリー、受け取れ」とクロエさんを飛ばした。

 ライリーさんの頭上でクロエさんはピタリと止まり、ゆっくり降りてくる。ライリーさんが両肘を曲げ、クロエさんをお姫様抱っこで受け止めた。


「クロエ!」

「あっ、良かった。クロエさんが出てきてくれて」


 顔を輝かせるライリーさんを見て、司会者も安堵の息を吐いた。


「あの、下ろしてくれ!」


 恥ずかしがって暴れるクロエさんを、ライリーさんはそっと下ろした。


「クロエの声が聞こえたから勝てた。ありがとう」

「いや、ライリーが頑張ったからだろう」

「……それで、返事は?」


 ライリーさんが恐る恐る訊ねた。クロエさんの返事を、会場中が固唾を飲んで見守る。


「いいに決まっている! ずっと待っていた!」

「本当? あっ、父さん。俺、クロエと結婚するから」


 近くにいたグリフィスさんにライリーさんが報告する。クロエさんは勢いよく頭を下げた。


「クロエさん、ライリーをよろしくお願いします」


 グリフィスさんは優しく微笑んだ。

 会場中が祝福をする。鳴り止まない拍手に包まれて、闘技大会はライリーさんの優勝とプロポーズで幕を下ろした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ