表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
49/56

49 帰宅

 駅を出ると、名残惜しく思いながらも手を離した。前を向いてお城に向かって進む。

 途中で下町に向かう道で、足を止めそうになった。


「もうすぐ帰れるよ」


 ジーンさんは私の気持ちを察知して、優しい言葉をくれる。

 お城で平和条約の報告をしたら、お父さんと家に帰るんだ。

 ジーンさん、今までありがとうございます。心の中で呟く。


 活気あふれる平民街と、煌びやかな貴族街を抜けると、お城に着いた。

 旅を始めるときにも思ったけれど、大きすぎててっぺんが見えない。


 衛兵が扉を開けてくれて、オドオドしながら入る。二回目だけれど慣れない。ライリーさんも居心地が悪そうだ。


 謁見の間に続く扉の前で、私たちが前に出され、騎士がずらりと後ろに並ぶ。

 重厚な扉が開き、謁見の間に足を踏み入れた。


 正面にある階段の上に、玉座に座る王様と王妃様。その傍に控える第一王子様と王子妃様。本来なら、ジーンさんもあそこに並んでいるんだ。

 全員が足を止めて跪く。


「ご苦労だった。足をつかなくていい。楽にしなさい」


 王様の言葉で立ち上がった。王様はゆっくりと立ち上がり、階段を下る。私たちと同じ高さまで降りてきた。


「よく無事に帰ってきた。平和条約締結の貢献に感謝する」


 王様が頭を下げて、場が騒然となった。

 王様は神のような存在だ。頭を下げるなんて前代未聞のこと。


「王ではなく、この国の民として礼を言う」


 私たちと同じ高さで話している。同じ人間として、言葉をくださった。

 動揺のあまり頭が真っ白になって、全然耳に入ってこない。


 王様がお父さんと、平和条約について話しているようだ。

 魔族もこの国で移住や就業を積極的に受け入れる、というようなことを言っていた。


 話が終わったようで、全員が退室する。私も早足で扉に向かおうとするけれど、ジーンさんに腕を掴まれた。

 驚きすぎて、身体を跳ねさせる。


「僕、アメリアと結婚するから」


 ジーンさんは王族の皆さんに向かって宣言した。

 しんと静まり返る。私は反応が怖くて俯いた。


「アメリアが好きだよ。僕と結婚してください」


 プロポーズと結婚宣言が逆などとつっこめる人はおらず、ジーンさんは私の手を掬って片膝をついた。

 私は俯いたまま首を振る。


「できません、ごめんなさい」


 身体がカタカタと震えた。平民が王族になるなんて、やっぱり無理だ。

 ジーンさんが立ち上がった気配がした。


「申し訳ございません。アメリアも戸惑っているのだと思います。落ち着いたころに、また返事をさせていただけないでしょうか?」


 お父さんが私の肩を抱いて、ジーンさんに頭を下げる。

 ジーンさんは小さく息を吐いた。


「そうだね。アメリア、僕は絶対に君と結婚するし、すると言うまでしつこいからね」


 ジーンさんの明るい声が聞こえるけれど、顔を見ることができなかった。

 お父さんに支えられて退室する。


 帰る前に報奨金を受け取るけれど、全く気持ちは晴れなかった。最初の目的はこれだったのに。家族にお腹いっぱい食べさせられると旅に出た。お金の詰まった重たい袋は、お父さんに渡す。





 家に向かいながら、お父さんと話をした。


「聞いてもいいか? アメリアはユージーン殿下のことをどう思っているんだ?」


 お父さんは私の歩幅に合わせて、ゆっくり歩いてくれる。

 私はジーンさんが好き。でも、気持ちを閉じ込めることしかできない。

 私が黙って俯くと、お父さんの大きな手が頭を撫でる。穏やかな声が降ってきた。


「俺しか聞いていない。アメリアの素直な気持ちが知りたい」

「……私はジーンさんが好き。でも、ジーンさんがいいと言っても、王子妃になんてなれない。私は好きになれて幸せだった」


 短期間だけど、ずっと一緒に旅をして、濃い時間を過ごした。いっぱい助けてもらったし、辛いこともあったけれど、楽しいこともたくさんあった。

 本心を吐露して、涙が溢れないように下唇を噛んで耐える。


「親としては、本当に好きになった人と一緒になって欲しいがな」


 それには私が王族になるしかない。どう考えても無理だ。





 家の前に着き、沈んだ顔を見せないように頬骨を上げる。


「ただいま」


 扉を開いて声を上げると、中から全員が駆けてきて、家が縦揺れを起こした。

 私と並ぶお父さんを見て、お母さんは飛びついて泣きじゃくった。亡くなったと聞かされていたお父さんが、五年ぶりに帰ってきたんだ。


 お母さんの後から、上三人の弟妹がお父さんに抱きつく。お父さんは全員を受け止めて、キツく抱きしめた。


 幼い三人は私にしがみつく。お父さんのことを覚えていないから、不思議そうな顔で見ていた。バートにいたっては、お父さんに初めて会う。


「お父さんだよ。抱っこしてもらお」


 三人の背を押して、お父さんの方へ歩かせる。


「おいで」


 お父さんの目には涙が滲んでいる。人見知りしているのか、もじもじとして私の後ろに隠れた。

 お母さんに一人を抱かせ、私は片手で一人ずつ持ち上げた。この重みが懐かしくて愛おしい。

 そのままお父さんにひっついて、全員で抱き合った。


 近所の人たちも集まってきて、私とお父さんの帰りを喜んでくれた。

 下町の塗装の剥がれている集会所に集まって、料理を持ち寄りパーティーをした。

 下町の人たちの温かさで、楽しく過ごすことができた。


 でも私の心の真ん中には、ジーンさんがいる。

 そんなに簡単に忘れることなんてできない。忘れられるような人じゃない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ