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48 王都到着

 翌朝、ホテルのロビーに行くと、従業員の人たちにものすごく謝られた。お父さんを始め、騎士の人たちが設備や従業員管理について、厳しく指導したようだ。





 列車に乗り、指定された個室では、先にジーンさんとライリーさんが並んで座っていた。クロエさんがその向かいに座っていて、私は開いているクロエさんの隣に腰を下ろした。


 ライリーさんとクロエさんって、隣に座らなくていいの? と首を傾ける。

 列車はすぐに動き出した。駅を置き去りにするように加速する。


 昨日のハグ以降のことはわからないけれど、今までと距離感や雰囲気が変わらないような気がする。


「どうした?」


 クロエさんに顔を覗き込まれる。驚きすぎて背を逸らすと、後頭部を壁にぶつけて痛い。声にならない悲鳴を上げて、両手で押さえた。


「大丈夫?」


 ジーンさんの戸惑いの声が掛かって、何度も頷いた。恥ずかしい。

 さすって痛みを逃して顔を上げる。


「何か悩み事があるのか?」


 ライリーさんまで心配そうに目を向けてくれる。クロエさんとライリーさんのことが気になっているって聞いてもいいのかな。

 少し悩んだけれど、好奇心には勝てずに聞くことにした。


「あの、クロエさんとライリーさんは、一緒に過ごしたんですか?」


 クロエさんとライリーさんではなく、ジーンさんが否定した。


「ガイラが僕の部屋を調べ終わってすぐに、二人が僕の部屋に来た。アメリアが心配だったようだ。ガイラの部屋に送ったと言えば安心したようで、なぜかライリーが一人で出て行こうとするから止めた」


 なんでライリーさんは一人で出て行こうとしたのだろう。


「あの部屋にクロエにいてほしくなかったから、ジーンと一緒なら安心かなって」

「私はライリーと一緒の部屋で過ごすつもりだったのに」


 クロエさんがライリーさんにジト目を向ける。


「だって俺といるより、クロエにとってはジーンの方が安全なんだって」


 焦るライリーさんを、クロエさんはさらに睨みつける。


「クロエはライリーが帰った後、あの木石漢が! と悪態を吐いていた」


 ジーンさんに暴露されて、クロエさんが大きなため息を吐いた。


「当然ですよね? あの場面で私を別の男性と二人にする意味がわかりません」

「それは僕も思う」


 クロエさんとジーンさんの視線を受けて、ライリーさんは怯んだ。私も首を捻る。


「だってジーンはアメリアしか見ていないから、安全だろ。俺はクロエが好きなんだからダメだ」

「なぜだ! 私もライリーがいいと言っているのに」

「きちんとご挨拶をしてからじゃなきゃダメだろ。クロエを大切に思っているから、軽々しい関係になりたくない」


 ライリーさんの言葉に私たちは動きを止めた。ライリーさんは古風な考えを持っている方なんだな。でも誠実さが伝わって、素敵だなって思う。

 クロエさんは眉尻を下げて笑った。


「大切にしろとは言ったが、そこまでとは……」

「当たり前だろ!」


 クロエさんとライリーさんは今まで通りの空気感だけれど、気持ちが通じ合って確実にお互いへの想いの強さは変わったんだな、と微笑ましくて頬が緩む。


 列車がスピードを落として駅に止まった。ホームに掲げられている看板を見ると、王都の一つ前の駅だった。本当に旅が終わってしまう。


 さっきまで楽しい気持ちで列車に乗っていたのに、今は風通しが良くなったように、心が冷えている。

 列車が動き出した。次は王都だ。


 視線を落として、足の上で組んだ指を見つめる。

 最初は聖女だと言われてもピンとこないし、生活があるからと断った。私はお給金と報奨金に釣られて旅に出た。


「私、みなさんと旅ができてよかったです。いきなり聖女だと言われた時は戸惑ったし、魔王を倒せって、戦えないのに怖いし不安でした。でも、旅をしなければ知らないことがいっぱいでしたし、なによりみなさんと仲良くなれたことが嬉しかったです」

「それなら俺もだよ。俺だって観光してたら勇者の剣が抜けちゃって、いきなり城に連れて行かれて勇者だって言われてさ。無理だって言える状況じゃなかったから、旅に出たって感じだった。でも今はその状況を作ってくれて、感謝してるかな」


 ライリーさんも旅の始まりを思い出して苦笑した。


「私もいろんな経験ができました。聖女と勇者の護衛役に選んでくださり、ありがとうございます」


 クロエさんはジーンさんに頭を下げる。


「僕も王都にいては気付けなかったことがあった。とくにチサレバでは、自国の民が苦しんでいた。助けられたのはみんなのおかげだ」


 旅の思い出を語り合っていると、あっという間に王都に着いてしまった。

 列車を降りて、ホームを人の流れに沿って進んだ。ここは相変わらず人が多い。


「アメリア、掴むかい?」


 ジーンさんが自分の袖を指す。初めて駅に着いた時に、はぐれそうだったからジーンさんの袖を掴ませてもらった。

 私は首を振る。もう、ジーンさんを頼ることはできない。


「大丈夫です! ちゃんと着いていきます」


 拳を握って意気込むと、その手をジーンさんにとられた。袖を掴ませられる。


「僕が迷子にならないように掴んどいて」


 ジーンさんの口元は、穏やかに広げられた。

 迷子になんてならないはずだ。でも一度掴んだら、離したくなくなった。

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