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41 光魔法

 ライリーさんが扉を押す。重い音を立てて扉が開いた。

 広い室内の玉座の前に、石化した魔王が立っている。


 一メートルほどの身長で、ピンクの肌をした子供の魔族が二人、布で魔王の身体を拭いていた。

 私たちに気付いて、魔王の前に立ち、通せんぼするように両手を横に伸ばす。カタカタと震えながら。

 戦うことはできないのだろうけれど、魔王を必死に守ろうとしていた。


『戦うつもりはありません。魔王の封印を解かせてください』


 魔族は恐怖で私の声が届いていないようで、身体を震わせたまま動かない。

 私は目線を合わせて頭を下げた。


『あなたたちの大切な魔王を助けたいです。そこを退いていただけますか?』


 二人はゆっくりと顔を見合わせて、おぼつかない足取りで魔王の横にずれる。


『ありがとうございます』


 私はお礼を言って立ち上がる。近くで見ると、魔王はスタイルのいい女性だった。

 扉が勢いよく開き、魔族が侵入した。


「アメリアは魔王に専念してくれ。後ろは僕たちに任せるんだ」

「はい、お願いします」


 クロエさんとライリーさんが駆け、その後ろからジーンさんの水の魔法が奔流となって兵士に向かっていく。クロエさんとライリーさん以外は部屋の外に押し流された。


「何もすることがなかった」

「私とライリーは外で待機していよう。中に入る前に食い止める。その方がアメリアも集中できるだろう」


 ライリーさんとクロエさんは部屋から出ていき、扉を閉めた。

 ジーンさんが私の隣に立つ。


「できそうかい?」

「やります!」


 みんなが私を信じて任せてくれているんだから。

 何度も深呼吸をして、心を落ち着ける。

 魔王に手をかざす。治癒魔法と結界魔法と身体強化魔法の同時発動。


「いきます!」


 魔王の身体を光が包む。でも、それだけだ。結界魔法が発動しなかった。

 自分の両手をジッと見つめる。治癒魔法と身体強化魔法は同時に発動した。私は結界魔法も使ったはずだ。それなのにどうしてダメだったんだろう。使ったのに、発動しなかった魔法は初めてだ。


「アメリア、どうした?」

「結界魔法が発動しませんでした。同時発動は順番に使うよりも、魔力を消費するみたいです。そう何度も試すことはできません」

「分かった。一緒に考えよう。どうして発動しなかったのかを」


 魔力切れではない。

 ジーンさんが私の肩をポンとした。私はジーンさんに目を向ける。


「大丈夫。アメリアならできるから」


 ジーンさんは力強く頷いた。

 ダメだったのに、まだ私にできるって信じてくれている。

 一回失敗したくらいで弱気になっていた。両頬を思いっきり叩いて気合を入れる。頬がヒリヒリと痛み、そのおかげで余計なことを考えなくて済んだ。


「アメリアはいつも対象に、手をかざして光魔法を使うよね」

「はい、そうです。こうやって手をかざして治癒魔法と身体強化魔法を使います。……あれ? 結界魔法は地面に手をついて発動しています」


 魔王に手をかざしながら言葉にすると、結界魔法だけ発動方法が違う。普段当たり前にやっていることだから、見落としていた。


「アメリアは手をかざして結界魔法を発動できる?」


 魔王に手をかざしたまま結界魔法を使おうとするけれど、何の反応もない。


「できません。でも、手を地に付いたら、治癒魔法と身体強化魔法は魔王に向きません」


 お父さんは三つを同時に発動して魔王を救おうとしたと言っていた。お父さんはできたんだ。絶対にできないわけではないはずなんだけど。コツを聞いておけばよかった。


「大丈夫だよ。地につかなくても発動できるよね? 列車の中ではテーブルに手を付いていた」

「はい、下に手を付くと発動します」


 ジーンさんは魔王の足元にしゃがみ込んだ。手招きをされて、私もその場に膝をついた。


「列車ジャックの時、僕に触りながら治癒魔法を使ったよね?」

「すみません。本当は近くでかざすだけでいいのですが、犯人に悟られないために触れました」

「それは全然構わない。むしろ君の好きな時に好きなように触れてくれ。でだ、手を下につけたいなら、足で試してみないか?」


 足か。確かに足なら触れられるし、下に手をつける。


「やってみます」


 魔王の足の甲に両手をついた。

 瞼を閉じて集中する。

 外が騒がしくなり、爆発音に驚いて振り返った。扉があったはずなのに、なくなっていた。部屋の中でライリーさんとクロエさんが、扉と一緒に横たわっている。


『魔王様に触れるな!』


 ビリビリと肌を刺すようなプレッシャーに身体が震える。ジーンさんが「大丈夫」と手を握ってくれた。

 こちらに足を進めるのは、赤い肌に大きな角を生やした、端正な顔の魔族だ。


「待て、アジュラ!」


 お父さんが叫びながら、その後ろから斬りかかる。アジュラは振り返ってお父さんに手をかざした。大きなお父さんが軽々と後ろに飛ばされる。

 お父さんは壁に足をつき、膝を曲げて衝撃を和らげた。壁を蹴って再びアジュラに斬りかかる。


『本当にしつこいやつだ』


 アジュラはかわすと、腰の剣を抜いた。

 金属がぶつかる音が鳴り響く。二人は剣を振り、避けては踏み込んで剣で突いた。剣技は拮抗していて、一進一退の戦いが続く。

 ジーンさんが私の前に立った。


「アメリアは僕が守る。アメリアならできる。魔王を頼んだよ」


 ジーンさんの前には先の尖った氷がどんどん生成される。氷の矢だろうか。

 身体を押さえながら、ライリーさんとクロエさんが立ち上がった。


 私は魔王に目を向ける。みんなが頑張ってくれている。私は私にできることをしなきゃ。

 再び魔王の足の甲に手をついた。


 集中するんだ。瞼を閉じると、小さな手が私の手の甲に重なる。驚いて目を開くと、魔王のお世話をしていた、二人の子供だった。この子たちも魔王を助けたいんだ。応援してくれている。


 大きく息を吸って、深く吐き出した。

 治癒魔法、結界魔法、身体強化魔法を同時に発動するために、全魔力を注ぎ込む。

 お願い、成功して!

 祈りながら全光魔法を同時に発動した。

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