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40 城での戦闘

 美しい中庭を突っ切り、中心にある大きな扉から城内に入った。

 広々としたエントランスホールに、魔族の部隊が整列している。


 ジーンさんがライリーさんから、翻訳機のピアスを奪って自分に付けた。

 大理石の床に、前進してくる靴音が響き渡る。

 ジーンさんが一歩前に出た。


「魔王を救いたい者は止まれ」


 ジーンさんの澄んだ声が部屋に響き渡った。全員が動きを止める。

 足音が嘘のように、辺りはしんと静まり返った。


「僕たちは魔王の封印を解きに来た。戦いに来たのではない」


 魔族たちは視線をあちこちに走らせ、どうするべきか悩んでいるようだ。

 コツコツと奥から足音が聞こえ、魔族たちの隊列が中心で割れる。その間を、甲冑を着たワニのように大きな口と鋭い歯が特徴的な魔族がこちらに向かってくる。この部隊のリーダーだろう。


『本当に魔王様の封印を、解けるのか?』

「解ける」


 ジーンさんは言い切った。私の力を信じてくれているんだ。胸の中が暖かくなる。

 全光魔法同時発動なんてしたことがないから本当にできるのか不安だったけれど、ジーンさんができると言ってくれるなら、できるような気がしてきた。

 リーダーがエントランスホールの正面にある扉を指した。


『あの扉を抜けた先にある階段で、最上階まで登ってくれ。それが一番早く着ける』


 戦わずに通してくれるようで安心した。それなのに、右から多くの足音が聞こえて来た。


『勝手に通してんじゃねーぞ』


 別の部隊が到着した。こちらは戦う気満々のようで、今にも飛びかかって来そうな雰囲気だ。


『あいつらはアジュラ様同様、人間が嫌いだ。俺たちが食い止めるから行け!』


 リーダーが剣先を掲げると、隊列が変わった。二つの部隊が向かい合う。


『なんで私たちのために、味方と戦おうとしているんですか?』

『お前たちのためなわけがないだろう。魔王様のためだ』


 両リーダーが雄叫びを上げると、両部隊がぶつかり合う。剣戟音が響き、悲鳴や呻き声に足が竦んでしまった。


「アメリア、ちょっと我慢してくれ」


 ライリーさんの肩に担がれた。端の方を素早く通り抜け、扉を開けた。

 そっと下ろされる。


「大丈夫だったか?」


「はい、すみません。すぐに動くことができなくて」

 みんなの足を引っ張ってしまった。


「それが当たり前だ。アメリアは戦うことに縁のなかった、普通の女の子なんだから」


 クロエさんが励ますように、私の背中をポンと叩いた。

 今までは守るとか、助けるとかに必死だったから、大丈夫だったみたいだ。今は違った。やっぱりヒトが戦うのは怖い。


「アメリア、いけるかい? 無理なら今度は僕が運ぼうか?」


 ジーンさんは両方の肘を曲げて、手のひらを上に向けた。お姫様抱っこのジェスチャーをされて、思いっきり首を振る。


「いえ、自分で走ります」

「残念だな」


 ジーンさんは肩を竦めると、両手を下ろした。


「というより、お姫様抱っこで階段を駆け上がれないだろ」


 ライリーさんが苦笑するけれど、ジーンさんはとびっきりの笑顔を見せた。


「僕を誰だと思ってるの? 魔法でアメリアを浮かせて、抱っこすれば解決するじゃないか」

「それ、意味ある?」

「僕が楽しい!」

「なんだよそれ」


 ライリーさんは肘でジーンさんを小突いて、眉尻を下げて笑った。

 ジーンさんとライリーさんは、今まで通り変わらない。

 私だけが心を閉じ込めている。ジーンさんと、どう接すればいいかわからない。


「他の追っ手が来るかもしれない。急ごう」


 クロエさんに促され、すぐそばにある階段を駆け登る。

 弓兵部隊が二階で待ち構えていた。矢が上から降り注ぐ。

 とっさに地面で両手をついて、みんなを結界で覆った。


「アメリア、僕が吹き飛ばすから、結界を解いてくれるか?」

「いつですか?」


 三グループが交代で撃っているため、矢が止む時がない。断続的に降り注いでいる。

 ジーンさんはすでに風の魔法を展開しており、結界内を風が暴れ回っていた。私たちは味方の攻撃を無効化するブレスレットをつけているから、無傷でいられる。


「ジーンさん解きます。お願いします」


 結界を解くとともに、風が噴出し、降り注ぐ矢を吹き飛ばした。

 ジーンさんが指先を前へ向けると、風が弓兵たちへ飛ぶ。

 矢が止んでいる隙に、クロエさんとライリーさんが一気に駆け登った。


 クロエさんは抜剣せずに鞘で薙ぎ払い、弓兵は地へ膝をつく。ライリーさんの蹴りで、呻きながらうずくまった。

 近接戦闘は苦手なようで、二人がすぐに制圧する。

 私とジーンさんも追いかけた。


「斬っていないから、後で治療してくれ。急ぐぞ」


 倒れている弓兵を気にした私の手を、クロエさんが掴んだ。さらに上を目指すため、私は懸命にクロエさんに続く。

 三階には誰もいなくて、素通りできた。


 四階で、それ以上階段はなくなった。ここが最上階だ。

 天井に届きそうなほど大きな魔族が待ち構えていた。長い斧を振り回す。ヒュンと風を切る音が響いた。


「近づけないな」

「僕がやろう」


 ジーンさんが炎を噴出すると、斧は水飴のようにドロリと溶ける。

 それに鼻息を荒くして怒り狂い、魔族が突進してきた。


 前に飛び出したクロエさんが脇腹を鞘で突き、ライリーさんが顎に拳を叩き込む。

 膝を折って巨体が床に沈むと、足元が揺れた。

 その脇を通り、煌びやかな両開きのドアを見つける。魔王の部屋だろうか。

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