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38 再会

 二時間ほど走ると馬車が停止する。

 降りると、薄暗い森の中だった。伸びた枝がトンネルのように頭上を覆う。ところどころ細い光が、地面を照らしていた。


『この森を抜けると、すぐに魔王様のお城です。みなさんとはここでお別れになります』


 ガマさんが一人一人と握手をする。ガマさんにはお世話になりっぱなしだった。お礼を伝えて、馬車を見送る。


「心の準備は?」

「大丈夫だ」

「問題ありません」


 ジーンさんが全員に視線を移す。ライリーさんとクロエさんが頷いた。


「私もバッチリです!」


 胸の前に両手で拳を作って、グッと脇をしめる。気合いじゅうぶん!

 十分ほど歩くと森を抜けた。


 魔王の城というからには、禍々しい建物を想像していたけれど、煌びやかな宮殿のようなお城だった。

 余計な争いを避けるために、城門から離れた場所へ回る。


 ジーンさんが全員を風の魔法で浮かせて、白い柵を越えた。

 白い大理石で作られたお城は、荘厳で華やかな外観だった。中庭には、大きな噴水や繊細な彫刻が配置されている。緑豊かで、爽やかな風が吹く神秘的な場所だった。


 中庭を少し進むと「どこから入った。出ていけ」と厳しい口調で叫ばれた。懐かしい声に、私は自然と駆け出していた。


「お父さん!」


 懸命に走って思いっきり飛びついた。お父さんに軽々と受け止められる。

 胸に埋めていた顔をあげた。


「お父さん」


 もう一度呼べば、お父さんの口元が震えた。


「アメ……リ、ア」


 信じられないものを見るように、お父さんの目は見開かれた。

 先ほどかけられた声とは打って変わり、私にしか聞こえないような声量だった。


「そうだよ! アメリアだよ」

「アメリア」


 太い腕に抱きしめられる。私たち家族を守ってくれる、強くて優しい腕だ。何も変わっていない。

 私は子供のように声を上げて泣き続けた。落ち着くまでお父さんはずっと抱きしめてくれた。


 鼻を啜り、深呼吸をすれば、お父さんの身体が離れていく。お父さんは私の肩を掴んで、視線を合わせるように身を屈めた。


「アメリアがなんでこんなところにいるんだ?」


 お父さんは私の後ろに目を止めた。


「お父さん、一緒に旅をしてる勇者のライリーさんと騎士のクロエさんと魔法使いのジーンさんだよ」


 ライリーさんとクロエさんが会釈すると同時に、お父さんが片膝をついて頭を下げた。


「ユージーン殿下」


 ……ユージーン殿下?

 理解ができなくて、ジーンさんに目を向ける。ライリーさんもジーンさんに困惑の表情を向けていた。

 ジーンさんはフードを間深く被る。


「僕はただのイケメン魔法使いだよ」


 辺りは静寂に包まれる。

 沈黙に耐えられなかったのか、ジーンさんは大きなため息を吐いてフードを取った。


「ガイラ、久しぶりだな。跪かなくてもいい」

「殿下もお変わりないようで」


 お父さんが立ち上がる。

 殿下? ジーンさんが?

 謁見の間で王子様が一人いらっしゃらなかったのは、一緒に旅をするからだったの?


 頭の中がぐちゃぐちゃで、その場に立ち尽くす。

 ライリーさんがジーンさんの前で正座をした。ジーンさんを見上げて口を開く。


「俺は処刑されるのでしょうか?」


 ライリーさんは覚悟を決めたような、しっかりとした口調だった。ジーンさんは目を瞬かせて首を傾ける。


「ライリーは処刑されるようなことをしたのか?」

「初日に締め技をかけました」


 ライリーさんの言葉に、お父さんが目を点にして口をあんぐり開けた。


「彼は好青年風なのに、危ない子なのか?」


 お父さんに聞かれるけれど、クロエさんがキッパリと否定した。


「いえ、ガイラ様。彼は見た目通り真面目な好青年です。私とアメリアが一緒にお風呂に入ろうとしたところ、ユージーン殿下も入ってこようとしまして。私が彼に殿下を止めるよう、頼んだことによる行動です」


 クロエさんが必死に弁明すれば、お父さんは両手で顔を覆った。


「殿下、なにをしておられるのですか……」


 クロエさんがユージーン殿下と呼んだ。今まで一度もジーンさんの名前を呼ばなかったのに。本当に王子様なんだ、と飲み込める。

 私もライリーさんの隣で正座をした。


「アメリアも何かしたのか?!」


 お父さんが顔を引き攣らせる。


「バートと間違えて、ベッドに引き摺り込もうとしました」

「待ってくれ! 理解が追いつかない。バート君については聞きたいけれど、アメリアはもう大人だし、口を出さない方がいいのか」


 お父さんがぶつぶつと自問自答をし始めた。


「アメリア、バートは弟だって言ったじゃん」


 ジーンさんが嘆くような声を上げる。


「はい、弟ですよ」

「なんでガイラが息子のことを知らないの」

「バートはお父さんが遠征に出て、半年後くらいに生まれたからです」


 お父さんが顔を輝かせる。


「本当か? じゃあ、妻が書いていた、いいことって……」


 お父さんがポケットに手を突っ込んで固まる。全てのポケットを裏返してみても、何も出てこなかった。

 お父さんは顔を青くして、この世の終わりのような表情を見せた。


「アメリア、お守りを探しているんじゃないのかな?」


 ジーンさんに言われてハッとする。ポケットから取り出して、お父さんのものを差し出した。

 お父さんは安堵の笑みを浮かべる。


「良かった。これだけが俺の拠り所だった」


 お父さんは両手で受け取ると、中から色褪せた紙を取り出した。私たちが書いたメッセージだ。


《いいことがあったの。帰ってきてからのお楽しみね》


 お母さんの文字で、そう書いてあった。きっとバートのことだ。


「そうか、息子がもう一人いるのか」


 お父さんが目に涙を浮かべる。

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