表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/56

16 作戦会議

 コンコンコンコンコン。扉が五回ノックされた。

 ライリーさんに抱かれたチーは、私に腕を伸ばす。私はチーを受け取った。ローが掛け布団に潜り、チーのスペースを開けた。ベッドに降ろすと、チーも布団の中に入って息をひそめる。

 先ほどのことを覚えていて、自分たちで行動してくれたんだ。


『多分クロエさんとジーンさんだよ。でも、本当に二人だってわかるまでは隠れていようね』


 二人が頷いた。

 ライリーさんが確認しにいく。扉が開き、クロエさんとジーンさんが戻ってきた。『出てきていいよ』と声をかければ、ローとチーが這い出てきた。


「問題なかったか?」


 ジーンさんがローブを脱ぎながら確認する。


「もう一人いなくなったって、清掃のおばさんが教えてくれた」


 ライリーさんはジーンさんとクロエさんに、おばさんに渡された紙を見せる。

 二人は胸を抉られたように顔を歪めた。


「招待状は手に入れた。申し訳ないが、女性たちにはもう少しだけ辛抱してもらおう」


 ジーンさんが濃紺の封筒を懐から取り出した。銀色で描かれたネロセビの花が綺麗なのに、背中を冷気が通り抜けた時のように体を震わせる。不気味な印象を受けた。


「どうやって、手に入れたんだ?」


 ライリーさんが疑問をぶつけると、ジーンさんは険しい表情から一変、口角を上げて笑った。


「僕くらいの美しさがあれば、手に入れられないものなんてないさ」


 事実なのか冗談なのかわからない調子で語る。クロエさんが瞼を下ろして、小さく息を吐き出した。本当は大変だったのかもしれない。

 私とライリーさんが知らない、ジーンさんが隠していることと、関係があるのかな?


「ケデミェの騎士団はすぐに出発してくれるようだが、間に合わないかもしれない」

「オークションまで、時間がないんですか?」

「明日の朝五時だ。今から列車に乗っても、この時間では途中までしか進めない」


 明日だから、続けて女性がいなくなったのかもしれない。

 それに、なんでそんなにも早い時間にやるんだろう? ……人が眠っている間にやって、すぐに列車で移動して女性たちを連れていくってこと?


「今回はオークション中に騎士団に突入してもらわなければならない。これより前のオークションで売られた女性の居所を掴むためには、客も全員捕まえる必要がある」


 オークションは朝の五時から何時までなんだろう? 騎士団が間に合うように、なるべく長引かせないといけないってことだよね?


「女性たちも子供たちの親も、僕が全員買う。……人なんて買いたくないが、そうするのが一番安全だ」


 ジーンさんは頭を掻きむしって、下唇を噛んだ。

 ローとチーがベッドを飛び降りる。ジーンさんの服の裾を掴んで引いた。言葉はわからなくても、ジーンさんの辛い気持ちを感じ取って慰めに行ったんだ。


 ジーンさんが二人を抱えて、そのままベッドに腰を下ろした。頭を撫で回されながら、話を続ける。


「オークション会場には武器が持ち込めない。僕は魔法を制限されるブレスレットをつけられた」


 ジーンさんにはみんなでつけているバングルと同じ腕に、金色の細いブレスレットが付けられていた。


「私は剣がなければ、一般人より多少動けるくらいだ。ライリーとアメリアに任せる部分が多くなる」

「俺が全員を守る!」

「私は魔法を制限されないんですか?」


 ライリーさんが力強く頷き、私は疑問を口にする。


「アメリアは光の魔法使いだと言ってある。光魔法には攻撃魔法がないからね。買った人たちの治癒のため、と言えば問題なかった。アメリアは買った人たちを守るために、結界を張って保護して欲しい」

「もちろんです!」

「もし騎士団が間に合わなければ、フロア全体に結界を張り、外に出さないこともできるか?」

「女性たちに小さな結界を張って、さらに大きな結界を張るってことですよね?」


 ジーンさんが頷く。


「できますが、大きくなればなるほど、強度は落ちます」


 以前、豪雨で避難所に行った時に、避難所全体を覆う結界を張ったことがある。雨風はなんとか凌げたけれど、大きな板が飛んできた時にはヒビが入って壊れてしまった。


「一般人が素手で破れるほど弱いか?」

「いえ、それはないと思います」


 部屋の真ん中で床に手をつく。オークション会場がどれくらい大きいかわからないから、避難所で張った結界の強度くらいで小さな結界を作った。

 ジーンさんが力一杯蹴った。びくともしない。


「ライリー、やってみてくれ。君が壊せなければ、問題ない」

「わかった」


 ライリーさんの足が結界を蹴る。ジーンさんの時には聞こえなかった、空を切る音がして、すごい威力なんだと目を丸くした。


「あっ、ヒビが入った」

「えっ? 本当ですか?」


 ライリーさんに言われて、結界に近付く。蜘蛛の巣のようにひび割れしていた。同じところを数回蹴られれば、穴が空いてしまうだろう。

 子供たちが『ライリーかっこいい!』と小さな手で拍手をした。ペチペチと可愛らしい音が鳴る。


「オークション会場が狭いことを祈ろう」


 ジーンさんが頭を抱えた。


「なんかごめん。ヒビを入れちゃって……」


 ライリーさんが謝るが、何も悪くない。生身の人間でも割れるってことがわかって良かったと思う。

 コンコンと扉がノックされた。

 ローとチーが急いで布団の中に潜り込む。

 ここにはみんないるのに、誰だろう。緊張で顔に力が入る。


「大丈夫だ。僕は招待客になったからね。ドレスコードがあるみたいだから、明日の服を頼んでおいた。それに食事も。アメリア、二人が出てこないように見ていてくれ」

「わかりました」


 ジーンさんに続いて、クロエさんとライリーさんが扉へ向かう。扉が開き、入り口で受け取ったようで、部屋に他の人が入ってくることはなかった。


 クロエさんが服をかけ、ジーンさんとライリーさんがお弁当をテーブルに並べた。

 やっぱりお花の香りしかしないより、食べ物の匂いの方が食欲が湧く。


『もう出てきてもいいよ』


 布団を捲り、ソファにローとチーを座らせる。

 六人分あるが、冷めているものは冷製パスタのみ。食べられるのかな?


『まだお腹は減ってる? ローとチーは冷たいパスタは食べられる?』

『いっぱいは食べられないから、半分こする』


 取り分けて、全員で食事を食べ始めた。


「四人で泊まっているのに、六人分の食事は不思議に思われませんでしたか?」

「ライリーが三人前食べることにしておいた」

「俺、そんなに食べられないけど」





 食べ終わるとローとチーの顔を拭き、順番にシャワーを浴びた。

 明日は早起きをしなければいけない。大きなベッドで、私とクロエさんの間にチーが寝転がった。男性陣もローを真ん中にして横たわる。

 スタンドライト以外の光を消して、眠りについた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ