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草食恐竜ホラー集  作者: IV-7のらくがき置き場
3/3

狂える竜のこと(下)

破れた蛍光イエローの布切れがひらひらと風にあおられ、ボンネットに大穴が開いた車は無力なまま沈黙している。頼もしい存在もいまや、鉄くずに過ぎない。

旅の前に最新の地形情報を端末に読み込ませておいたのが、唯一の救いだった。AIが判定した目的地までの最短ルートがすぐに算出される。問題は、そこが本当に安全なのかどうかだ。


私の問いに対する端末AIの答えは、期待通りといえばその通りだった。


「大規模な水場は危険です。アロサウルスをはじめとする肉食恐竜が多く、ゴニオフォリス類のワニも生息しています。これらのワニは人を襲えるサイズのものが複数確認されています。また、水質は有機物や微生物による汚濁が深刻で、飲用には適しません。煮沸処理ではリスクを完全に排除することは難しいでしょう」


少し間をおいて、端末が付け加える。


「ただし、小規模な湧水地があります。こちらなら比較的安全に水を確保できる可能性が高いです。湧水を水源としており、動物やワニとの遭遇リスクが少ないですが、この地域の水源は殆どで重金属汚染が確認されており、人体に影響を確実に及ぼす量ではないものの注意が必要です」


画面に映し出された湧水の位置は森の奥、今いる場所から約1キロ。比較的近いが、慎重に進まなければならない。


「つまり、『完全に安全』ではないってことだな」と、半ば呆れながらつぶやく。


端末は私の声を拾い、「現状で最適な選択肢を提示したつもりですが、ご不満ならアロサウルスのいる大水場も案内可能です」と、軽い調子で返してきた。


たった一本の命綱である情報端末を握りしめ、私は息をひそめて周囲を見回す。葉を齧るキリギリスほどの虫の食べる音や、樹上をハツカネズミ程度の大きさの多丘歯類が一匹駆け抜けていく音すら、私の

耳をつんざくように聞こえた。ここでは、ごく僅かな動きが命に直結する。

ふと空を見上げる。明け方の空は淡い紫色で、恐ろしいほど澄み渡っている。だんだん青くなっていく、雲ひとつない宝石のような空の中。2羽の翼竜の翼が白く光っていた。太陽の光を受けて光り輝く姿はなんとも神秘的で、ゆったりとしたペースでくるくると、優雅な舞を披露している。見る分には優雅だが、起きているのはなわばりを掛けた激しい巴戦だ。相対距離があるせいでゆっくり見えるが、両者はときに、時速50㎞ほどの速度を出しているはずだ。

カメラを構える余裕があれば、さぞかしいい写真が撮れたかもしれない。まだカメラは手放せず腰に下げているが、今はそういう事態ではない。写真以前に、私の命がかかっているのだ。証拠を残すツールとしての撮影なら、なんでもいい。何にでもカメラが付いている時代だから。それでも、かさばる生物観察用のカメラはどうしても捨てられず、腰の負担になっていた。私が私であるために。

日はまだ登り切っていないが、空気は既に熱を帯びている。二酸化炭素濃度が現在の何倍もあるこの時代。世界中亜熱帯か熱帯に支配されたこの灼熱の地球においては、飲み水なしには一日持たない。さらにこの大地は特殊な気流と気候のため、たとえ水場であっても、空気は砂漠地帯のようにカラッと乾燥している。乾燥した熱風が常に皮膚をなで、どんなに汗をかいてもそれは一瞬で蒸発してしまう。ジメジメとした不快さはないが、その分、体内の水分が急速に奪われていく。


飲み水がなければ、ここでは生き延びることは不可能だ。

しかし肝心の水が、大部分は先ほど踏みつぶされたテントの中にあった。数本の小さなペットボトルがサバイバルバッグに残されているが、それだけでは数時間が限界だと分かっていた。風が運ぶ乾いた土の匂いを吸い込みながら、私は考えを巡らせた。この暑さの中、日が昇り切るまでにどう行動するかが、次の命運を決める。


私は腰に下げたカメラを手に取り、ファインダーを覗いた。双眼鏡ではなくカメラを使ったのは、そこにあったからであり、どうせなら役立てたいと思ったからだ。少なくとも、大型恐竜の姿は見当たらない。だが、安心するには早すぎる。木の葉が揺れる音や草むらのかすかな動きに耳を澄ませながら、慎重に周囲を確認する。

幹にしがみついたまま、恐る恐る視線を下に向ける。10メートル下に広がる地上は、普段なら高さを気にすることもない程度だ。しかし、今日は違う。背筋に冷たいものが走り、ぞわぞわと肌がざわめく感覚に襲われる。この高度が唯一の安全圏だ。

そして、いったん降りてしまえば最後、とっさにこの10mを登って逃げ切ることはできない。

ふと、がさりという大きな音とともになにかが動いた気がしてぴたりと息を止める。目をやれば、50㎝ほどはあろうかという大きなムカシトカゲ類がいた。パッチリとした大きな黒い瞳。背中にはギザギザとした突起が並び、頭には王冠のような瘤がある。彼は現在であれば、大きなトカゲだっただろう。しかしこの世界においては、彼はごく小さな低位の草食動物に過ぎない。にもかかわらず彼はまるで動じず、あたかも悠然とした王者のように、堂々としている。周囲に茂るシダ植物をぱくっと、実にのんびりとした動きで齧り取る。口に含んだシダの葉を、ごっくん、と、これまたのんびりと飲み込むのであった。

私はほっと息をついた。

彼がのんきにシダを食べているということは、安心できる状況なのだろう。


私は再び、のそり、のそりと、音を立てないように注意しながら足を進める。ムカシトカゲが草をはむ音。多丘歯類が跳ねる、リズミカルで軽やかな音。そしてキリギリス類が葉の上を歩き、葉を齧るごく小さな小さな、カサカサとした音。ほかに、動くものはいなさそうだ。

しかし突然、その静寂はうち破られた。

頭上でガサガサと激しい音が響き、私は息をのむ。

心臓が一瞬、止まったかのように感じる。そして、それに続いて耳をつんざくようなギャアギャアという大きな鳴き声。

はっと顔を上げて見れば、はるか頭上の樹冠が揺れ動いている。


はるか上空で空戦をしていた翼竜はついに絡み合い、樹冠に不時着したようだ。2羽はこれで決着がついたのか、それとも興が冷めたのか、再び飛び立っていく。残されたのは、揺れ動く樹冠と、いくつか折れた枝だけだった。

私は胸を押さえ、荒い息を整えた。胸の鼓動がようやく落ち着きを取り戻すのを感じる。だが、安堵するのはまだ早い。見下ろせば、地面までの距離は3メートルを切っている。あと少し――その「あと少し」が最も危険な瞬間だと知っている。木登りでの事故は、油断が生まれるこのタイミングで起きるのだ。


手足の力がじわりと抜けそうになる感覚を振り払うように、私は幹にしっかりと手をかけた。足場を確かめ、次の動きを慎重に計画する。焦りは禁物だ。この3メートルは、今まで登り降りしてきたどんな高さよりも重い意味を持つ。滑れば、地面に叩きつけられるだけでなく、その音が潜んでいる何かを呼び寄せることになるかもしれない。


指先がざらついた木の表面に触れる感覚を頼りに、体重をかける場所を探る。一歩、また一歩と、できるだけ音を立てないよう静かに降りていく。風が枝葉を揺らす音が、自分の動きの音をかき消してくれるのが救いだった。


ついに地面に足が届く。その瞬間、足元の土の感触が妙にリアルで、重く感じられた。これが地に足をつけるという感覚――安心するのは一瞬だった。


耳を澄ます。樹のざわめき。草むらの微かな揺れ。遠くで響く翼竜の鳴き声。どれも自然の音のはずだが、この時代ではどんな音も油断を許さない。私は身を屈め、地面と一体化するようにして周囲を警戒した。


「さて……」と心の中で呟く。これからどう動くかが、私の命を繋ぐ鍵になる。


私は水場に向けて足をすすめた。AIがいうように、本当に「比較的安全」なのだろうか?


AIに再度尋ねた。

「特有の重金属汚染って、何」

AIはあっけらかんと答えた。いや、躊躇なく答えたという方が正確か。

「ウランです」

私はその言葉を聞いて、青ざめた。目の前が一瞬、真っ暗になるような気がした。

原子力エンジンで飛ぶ旅客機があたりまえ、原子炉を何十機も備えた時空を超える旅すら可能な時代である。しかしウランというのはだからこそ、私たちの時代に恐れられているといっていい。容易な原子力エネルギー源として、「安全」という概念が発明されていなかった黎明期の核開発に濫用され、時には愚かにも兵器として用いられ、人類史にその爪痕を何度も残してきた物質。

「ウランって、あのウラン…?」

端末は一切の躊躇なく、文字列とピンポイントの地図を記載した。

「そうです。この森は私の時間軸であれば1億5000万年後、ウラン鉱山として掘り起こされるでしょう」

その瞬間、私は端末の指し示す地図を見た。私が立っている場所に、確かに「ウラン鉱床」というマークが浮かび上がっていた。

飲めば放射能。飲まなければ渇いて死。

そういう世界に、いま私はいる。


「モリソン層は初期のロッキー山系に降った雨が長い間地下を浸透した水が湧き出す地です。その過程でウランを濃縮しますが、その量は微々たるものなので、日常的に飲んでも確実な影響はないでしょう。むしろ長い間大地にろ過されていて、水は綺麗ですよ」


もう気にしても無駄だ。今すぐ命に係わること、それは3つ。狂った繁殖期のカマラサウルスに噛み千切られ踏みつぶされること。これはもう大損害を受けているが、接近は比較的感知できるはずだ。

もうひとつ。腹を空かせたアロサウルスに接近されれば、気づいた時には喉元を貫かれる。これは本当に警戒すべきだが、幸い相手は身長が3mほどもある。生い茂るシダの茂みを音もなく徘徊できるとは思えない。流石に気づけるだろう。

そして最後の3つめ、渇きで命を落とすこと。これは残酷なことに、逃げようがない。


私は周囲を見回し、そして歩みを早めた。


一つ目の関門がやってきた。森の奥から重い足音が響き、前方に巨大な影が見える。昨日カンプトサウルスを襲撃した個体と恐らく同じ、雄のカマラサウルスだ。

あの痛烈な一撃を思うと、背筋に冷たいものが走る。

「カマラサウルスの成体は高さ1m以下のものは襲いません。すぐ身をかがめて四つん這いで移動してください。立っていた時の場所は記憶され襲われる危険があります。姿勢を低く保ちつつ、すぐに場所を移動してください。」

AIの指示が画面に表示される。それを読む間にも、足音が大地を揺るがしながら近づいてくる。私はすぐに腰を落とし、四つん這いになった。大地は乾燥しており、厚く積もった乾いた針葉樹の小枝と葉はチクチクと手に突き刺さる。

ゆっくりと移動を始める。できるだけ音を立てないように、膝を滑らせるようにして進む。腰ほど以上もあるシダ植物が視界を妨げ、それに紛れて落ちた木の枝がたびたび現れ、足元をすくわれかけた。一旦止まり、むんずと掴んで避けながら進む。さながら、藪漕ぎだ。息を殺し、頭をできるだけ低くしていたため、周囲の状況を確認するためにはたびたび顔を上げなければならなかった。

彼は、昨日「刈り払った」森の中心で仁王立ちとなっている。

背筋に冷や汗を流しながら、静かに、できるだけ目立たないように進む。

私の周囲の音に耳をそばだてながら。私の体重が足音として響く度に、その音が耳に突き刺さる。

そのときだった。

突然、腹の底を震わせるような振動と衝撃じみた重低音が響き渡る。

私の心臓が止まりそうになった。息を殺したまま硬直するしかなかった。

まるで、ウシガエルをゾウの大きさにしたようだ。


先ほど仁王立ちになっていたのは、叫ぶための場所確認だ。

足をしっかりと踏ん張り、森の木々が揺れるほどの大声で何度も、何度も叫んでいる。

虫の這うような音にすら耳を澄ませていた私は、あまりの音量に完全にやられてしまった。

もはや、聴音が索敵に役立たない。

カマラサウルスはひとしきり鳴くと、また歩き始めた。

・・・こっちに来てない?

彼は「巣」を離れ、私が向かっている大きなけもの道に向けて歩みを進めていた。

避けるべきなのか、それとも無視するべきなのか…AIの助言を仰ぐ。

「繁殖期のカマラサウルスはあまりにも凶暴なため、大型肉食恐竜は活動できません。むしろなわばりの周囲にいた方が安全です。さいわい、彼の行き先の方角は同じようです。同じ水場を目指しているかもしれません」

ようやく茂みを抜け、広々とした…とはいっても幅2mほどの土でできた道に出た。

恐竜のけもの道はよく踏みしめられていて、一見すると未舗装の道路のようだ。

端末をふと見てみれば、AIが一言告げていた。

「いったん縄張りを離れてしまえば、身をかがめなくても大丈夫ですよ」

巨大な尾が左右に揺れるのをみながら、こそこそとかがみこみながら足を進めていた私は、はっと気づいてゆっくりゆっくり、おっかなびっくり背を伸ばした。


カマラサウルスはのしのしと、巨体からは思いもよらないほど軽々と歩く。速さはだいたい、人間の歩調と同じくらい。

この時代の巨大な恐竜といえばディプロドクス科と、ひたすら背が高いブラキオサウルスの印象が強く、カマラサウルスというと個体数が多いこともあって大きさに関しての認識が薄れがちである。しかしながら、全体に”短い”だけでカマラサウルスの体躯もそれに決して負けていない。

腕だけでも私の2倍はありそうで、腹の下は、少しかがめばくぐれそうだ。

首をゆったりと、左右にほんの少しずつ振りながら進んでいる。この独特の動きにより、周囲の360度を高さ8mから見渡すことができるようだ。私の姿は常に視界に入っている筈だが、まったく気にする様子はない。


巨大な恐竜に挑むものもなく、森は静かだ。時に森のはるか向こうで何かが逃げることもあるが、殆どの動物は繁殖期の凶暴な草食動物が歩くだけで身を潜め、逃げ出すらしい。そのため、比較的安心して歩みを進めることができた。縄張りを守っていない今、いい水先案内人といえるだろう。

中生代の森にはいろいろあるが、現代の森とはかなり違う、らしい。とはいえ、現代の原生林を歩いたことはほとんどないが…。針葉樹と木性シダが優占することが多いが、ここの森においては針葉樹の大きさはかなり小さく、細い。火山活動があまりない土地であるにもかかわらず、森全体が若い印象がある。特に、背丈ほどしかない若木のみがみられる区画がぽつぽつとある。カマラサウルスの繁殖行動によるものであることはほぼ間違いなかった。

そうした場所に近づくと、雄のカマラサウルスは立ち止まり、周囲を見回し、また進むのだった。

私はカマラサウルスと一緒に立ち止まり、若木の新芽の間に目を凝らせば小さな首が、いくつか動いている。身長1mもなさそうなほどの、小さなカマラサウルスの幼体だ。

しかし、あの行動が子供を育てるための”畑づくり”だというのはあまりにも知恵を仮定しすぎであるように思えてならなかった。おそらく、食べごろの葉を準備することにより雌の気を引き、その場に留めて交尾機会を増やすためという方が考えやすい。あのような大きな鳴き声をあげることからも、おそらく雌を新しく作った「庭園」に呼び寄せるか、他のオスに自信の存在をアピールするのが考えやすい。

カマラサウルスと一緒に”巣”を見回りながら、ついに水場へとたどり着いた。

水場には小型の鳥脚類が3頭いたが、カマラサウルスの接近を見るなり逃げ出した。

水場は紅茶色の小さな池だった。真っ黒いといってもいいほど濃いがよく澄んだブラックウォーターが、白砂によく映える。水源を辿ると、紅茶色の水が湧き出しているのが見える。

飲むのに安全かどうかはわからないが、ひとまず詰めるだけ詰めて、あとで適宜濾過するとしよう。

水場は恐竜ももっとも集まる場所。長居は無用だ。

私はそろそろとその場を離れ、長い旅路へと戻った。

その後も色々あったが、なわばりの中以外では竜脚類のあとをつければ基本的に安全に変えることができた。

街に戻った時には目を丸くされたものだ。

そしてぺしゃんこになった車の賠償もとんでもなかったが、幸いかなりの部分が保険がきいた。

~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「なんだかんだ、自力で動ける拠点を失ったときを考えると、すぐ逃げられる自走できる拠点で寝泊まりした方がいいって思ったね。だから以降は車で寝泊まりすることにしたよ、暑さ寒さもしのげるし、竜脚類とタルボサウルス以外は好き好んで車を襲ったりはしないから」

・・・ゼナはその後も何回も、その死ぬかもしれない思いをしたジュラ紀の地球に通い続けている。

好きとはそういうものなのだろう。


私はその後もゼナがジュラ紀のモリソン層に通っていることを知っていたので、その武勇伝を半ば呆れながら聞いていたのだった。出張先で恐竜ウォッチングに誘われたら、丁重に断ることとしようか。

カマラサウルスの生態について。

本作における生態はフィクションですが、ある程度の根拠を持って推測しています。

カマラサウルスは幅広い年齢層の個体が見つかっており、モリソン層にあたる地域で繁殖していたと考えられます。当時の高温な地球では卵は加温せずともよくかえったでしょうが、幼体の成長には問題があります。というのも下層植生を占めるシダ植物はカロリーが低く、爆発的に成長し20~40年ほどで最大サイズに達する竜脚類の成長を支えるには不十分です。有力候補は針葉樹とトクサ類です。しかし開けた日なたの水辺に生育するトクサ類は開けた場所に生息し長い首で広範囲を食べられるような大型竜脚類に主に消費され、幼体の竜脚類の餌には向かないでしょう。さらに、巨大な体で体温調節する動物(習慣恒温性)で、幼体が日のよく当たる場所にいつもいればオーバーヒートする危険もあります。

つまり、幼体の竜脚類には大量の生育初期もしくは低い枝の針葉樹が、大型恐竜の行動を妨げるような場所・・・森林内などに必要と考えられます。しかし針葉樹の実生や低い枝は現在の樹林をみるとほとんどなく、針葉樹林にできたギャップをあたる必要があります。しかしギャップもまた、そう簡単にできるわけではありません。

そもそも、成体の竜脚類も当時の高さ数十メートルに達する針葉樹の葉を食べるにはまったく不十分でしょう。大量の餌を要する竜脚類は林内において、餌に飢えていたはずです。

そのため、今回は木を倒して雌を餌で釣り、そのおこぼれにあずかって幼体が育ち、せっかく作った餌場を荒らしにくるカンプトサウルスなどの中型草食動物や餌場を横どりしようとする雄を攻撃する、という生態をデザインしました。


植生や動物について

乾燥地にもかかわらずチェカノウスキアが出現するのはモリソン層の大きな謎ですが、それについては詳しく触れませんでした。ニューメキシコ州の花粉相からはケイロレピディア科一強ではなく、スギ科やナンヨウスギ科、そしてシダ植物もある程度の勢力を持っていたことがわかります。しかしモリソン層でも地域により花粉フロラは大きく異なり、地域により様々な針葉樹植生があったようです。材の構造特性は繊維径から推定できるため、木材利用などに関しても考察できそうですが、それはそれでいくつかネタが書けてしまうのでここでは詳しい考察を省きます。

もっとありそうな環境を思いついたためです。多丘歯類や様々な昆虫の食性や生態、恐竜の糞のあと始末については、別に色々考えているところではあるので、またそのうち書くことになりそうです。



水について。

モリソン層はウラン鉱床であり、ウラン鉱床だからこそよく調べられ恐竜もたくさん出たという面もあるので、モリソンの話をするのにウランの話をしないのは片手落ちといったものです。珪化木や恐竜の骨がウラン鉱石にされたという話もあるほどです。原始的なロッキー山脈に降った雨は地下でウラニウムイオンをかき集めながら長距離を移動し、出口で地下水の湧出が盛んかつよく乾燥するモリソン層に蓄積することとなりました。なお、ウランの生態濃縮率は低く、無脊椎動物でよく蓄積されるものの脊椎動物においてはむしろ生態系の上位ほど低濃度になる傾向すらあります。

針葉樹は分解が遅く、分厚い腐植層を形成して腐植酸が流出し、土のアルミニウムや鉄イオンを溶出させて白砂層を伴う熱帯ポドゾルを形成します。地下水位が高い場合とくに顕著です。大量の有機酸はブラックウォーターを形成します。低pHにより細菌の繁殖が抑えられ、しかも分解ペースが遅いために貧栄養でよく澄んだものであったはずです。比較的には食あたりしにくいかもしれません。

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