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ヒオクダルスの二重螺旋  作者: 矢崎未紗
第03話 海の操言士と不思議な塔

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6.出航(上)

「自分以外の言従士も知っていますけれど、その方々の出会いは存じませんわ」

「そう……残念だわ」

「言従士と操言士がどんな風に出会うのか、どんな風に感じ合うのか。それは様々だと思います。すぐに惹かれ合うこともあれば、時間がかかることもあるでしょう。他人とは比較できないものです。二人だけの絆ですから」

「絆……」

「やだ、なんかそれって、運命の恋人同士みたいですね~」


 ヒルダの頬が真っ赤に染まった。最美はふんわりとした笑みを浮かべる。


「ええ、王都で人気の恋愛小説みたいですよね」

「そう、それです! 操言院にいた時、本を持っている子がいて……つらくなるとよく見せてもらいました。運命的な出逢いをした少年と少女が、いろんな苦難を乗り越えていく物語……素敵だったなあ」


 ヒルダはその恋愛小説を思い出したのか、目がハートになりぽわんとしてくる。

 その様に不安を覚えた紀更はヒルダのグラスを観察し、色味の濃いそれが果実水ではなく酒であることに気が付いた。


「ヒルダさん、もしかして酔ってますか」

「やだ~、紀更ちゃんいいの~。さんなんて付けないで、ね? 同い年なんだし、仲良くしよ、ね? うふふっ……ふふっ」

「酔っていますわね。アルコールに強くないんでしょうね」


 力なくほろろと笑うヒルダ。

 最美もアルコールを頼んで口にしていたが酔うことはなく、酔っ払い初心者のようなヒルダにあたたかい眼差しを向けた。


「ねえ、ヒルダと紀更はいないの? 自分の言従士」

「え?」


 目的だった最美と話ができたことで少し気持ちが落ち着いたのか、カタリーナは紀更とヒルダに問いかけた。紀更は思ってもいなかった質問をされて、返答に困った。


「そう、ですね……えーと」

「操言士だって自分の言従士について何かわかるんでしょ? どうなのよ」

「わた、しはわかりま、せ~ん。でも、言従士を、従えている、ってちょっと、カッコいいな、って思いま、す~」


 すっかり酔いの回っているヒルダは舌足らずに答える。

 最美は店員を呼び止めると、ヒルダのために冷水をひとつ頼んだ。


「私も、よくわかりません」

「そうなのね。まあ、言従士は珍しいって言うものね」


 紀更が首を横に振ると、カタリーナは意気消沈した。

 正直、紀更にもそれらしき覚えはあった。最美の言う、ふいにやってくる胸の痛み。その感覚を紀更は知っている。けれども果たしてそれが、自分の言従士と関係があるのかはわからない。

 そもそも、操言士たるもの、全員が言従士を従えるわけではない。言従士を従える操言士は、それだけ操言の力が強くて優秀だという噂がある。最美は否定したが、王黎を見ていると、その噂はすべてが嘘とも言いきれない気がする。


(王黎師匠みたいに強くて立派な操言士だけが、言従士と出会えるんじゃないかしら)


 操言士を主として仕え従う、言従士。

 操言の力を持って生まれた操言士も不思議な存在だが、言従士はそれ以上に不思議な存在かもしれない。操言士と違って《光の儀式》のような判別方法などなく、自己申告しなければ他人にはわかりようがない。その数は操言士以上に少なく、いるようでいない。国や人々のためではなく、主である操言士のためだけに生まれて生きているような存在だ。


(そうだ、次に操言士と話す機会があれば、私も訊いてみようかな)


 あなたは言従士を従えていますか。

 どうやって出会ったんですか。どうしてわかったんですか。

 カタリーナのように臆することなく質問してみれば、何かわかるかもしれない。ジャスパーに言われたように、自分から人に話しかければ、自分の知らないことをもっと知ることができるだろう。


「げ、ん従士~って……あたし、は~……うーん……お肉、おいし……いですね!」

「ヒルダさん、お水です。少し飲んだ方がいいですわ」

「あら~あり、がとう……ござい、ます~」


 店員が持ってきた冷水のグラスを、最美はヒルダに差し出した。

 最美は結局、あまり具体的には答えてくれない。

 操言士と言従士、二人だけの絆。

 紀更には想像することしかできないが、それは二人にとってとても大切なもので、他人に説明できるような、単純明快なものではないのかもしれない。


「ヒルダさんは、お酒を嗜むなら少量にした方がよさそうですわね」

「あら~……そ、うですか~……そう、ですね~」


 酔ってくだを巻いているヒルダを見守る、最美の優しい横顔。

 今後、最美と王黎が話しているところを見たら、紀更は今日の話を思い出してヒルダのように頬が赤くなってしまいそうな気がした。




「いや~こういうのもいいですね、男だけで飲み交わす夜も!」

「あなたは酒が美味いだけだろう。二日酔いはごめんだぞ」


 初っ端から勢いよく酒を煽った王黎のテンションはいつになく高かった。ゼルヴァイスに来てようやく酒を口にできたからだろう。

 女子会席とは反対側、店の端っこで丸テーブルを囲む男四人。

 二十代のルーカスとユルゲンは酒より食い気らしく、果実水と一緒に肉やら魚やら、なるべく安くて量のあるメニューを頼む。一方の王黎とエリックは、つまみのようなメニューをちょこちょこ頼んで酒を楽しんでいた。


「このお店、値段が全体的に高いですね」

「まあ、お城のお嬢様のお気に入りの店だからね。仕方ないよ~」


 ルーカスが残念そうに言うと、王黎は苦笑した。路銀に余裕がないこともないが、宿や酒場の依頼掲示板で依頼を受けて、小銭を稼ぎたいところだ。


「あちらは何を話しているんでしょうね」

「言従士についてだと思うよ~。カタリーナお嬢様はたぶん、言従士だからね~」

「ええっ!?」


 いつもより軽い口調の王黎の発言に、ルーカスは盛大に驚いた。


「そ、そうなんですか!?」

「まあ、僕のカンだけど。彼女、塔に行きたがってたでしょ? その理由は、ジャスパーさんに手紙を託したフォスニアの使者について知りたいから。その使者はたぶん操言士で、その人を見かけたことで、カタリーナお嬢様の中の言従士としての本能が目覚めちゃったんじゃないかな~」

「なぜそこまでわかるんですか?」


 ルーカスは目を丸くした。


「カタリーナお嬢様のお転婆ぶりは有名な話で、城主の娘なのに漁に出たくてこっそり船に忍び込んだとか、ソケズール山に行こうと一人で城壁を出て大騒ぎになったとか、まあ、いろいろ逸話があるんだ。だけど塔へ行きたい気持ちは、ただの好奇心旺盛なお転婆のそれと違うと思う。とてもまっすぐなんだ。愚直で、真摯で、まっすぐな気持ち。言従士が操言士に向けるものに似ているな、と思ったんだ。あとはまあ、お嬢様の気持ちが向いている人物が操言士だと仮定すれば、だいたい辻褄が合うでしょ?」

「はあ……。言従士って……その、なんというか……操言士に盲目的なんですね」

「言従士によるだろうけど、そういうタイプが多いかなあ。どうしてだろうね?」


 王黎はサラダを口に運びながら、けらけらと笑った。


「でも言従士の数って、昔に比べると減っているそうだよ。昔はもう少し多かったらしいね。だから、言従士についての謎は深まる一方だね」

「確かに、言従士だという方はほとんど見かけませんね。こちらが知らないだけかもしれませんが」

「今の操言士はどちらかというと、騎士と組んで怪魔退治に励むことが多いよね。でも昔は騎士じゃなくて、言従士とペアで戦闘をすることが多かったんだ。建国直後ぐらいまでさかのぼれば、操言士は言従士を従えていて当たり前、という時代があったかもね。自分の師匠からそう聞いただけで、ホントノトコロは僕も知らないけどね~」

「王黎にも師匠がいるのか。今日一番の驚きだな」


 驚きと言いつつ、ユルゲンのその仏頂面にほとんど変化はない。王黎は楽しげにくつくつと笑った。


「師弟関係は終了してるけど、僕だっていたいけな弟子の時代があったんだよぉ~」

「師匠の苦労が想像できるな」

「ひどいなあ、エリックさん。あの師匠相手に苦労したのは僕の方ですよ!」

「王黎殿の師匠ってどんな方なんですか」

「超マイペース! もうね、こっちの都合なんか聞きやしない」

「なるほど、師匠に似たのか」


 自己紹介でもしているのかと思う王黎の熱弁に、ユルゲンは冷ややかに言った。


「紀更殿はあなたに似ないでほしいな」

「それは大丈夫じゃないでしょうか。うまく反面教師にしてもらえれば」


 エリックがため息をつき、ルーカスがフォローする。


「そういう紀更殿も、いつか言従士と出会うのでしょうか」

「どうだろうね~。一生出会わない可能性もあるからね~。それか……むふふっ」


 王黎はにやにや笑うだけで、その先は続けなかった。

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