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ヒオクダルスの二重螺旋  作者: 矢崎未紗
第03話 海の操言士と不思議な塔

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1.ゼルヴァイス城下町(下)

 四人はまず国道通りに向けて北東へ進んだ。国道通りに出ると、ジャヴィット交差点と書かれた看板を左折して、第二城壁を目指す。城へ向かう国道通りは、ラフーアの北坂以上に傾斜のある上り坂だった。

 下層と中層の境目である第二城壁の中門はすでに開け放たれており、徒歩の市民だけでなく、馬車や騎乗した騎士たちが、なかなかの密度ですれ違っていた。


「活気がありますね」

「中層に住んでいる人が下層に下りてきて、今朝獲れた魚を買いに行くんだよ」

「メリフォース城の城下町に雰囲気が似てるな」


 紀更ほどではないが、目線を動かしてあたりを観察していたユルゲンがぽつりと言った。紀更は初めてゼルヴァイスを訪れたが、それはユルゲンも同じだった。


「オリジーアには王都ベラックスディーオの王城以外に四つのお城があるけど、どこも城下町の空気は似てるかもね」

「どうしてですか?」


 紀更は興味深そうに王黎に尋ねた。


「四つの城下町には共通点があるからだよ。漁業なり工業なり、産業が盛んであるということ。それと、ほかの都市部との交流を積極的に行っているってことだね」

「産業と交流……」

「それはつまり、日々何かを新しく作り出すためのエネルギーがある、ということなんだ。そしてそのエネルギーは常に外部の都市部との交流によって刺激され、いつでも熱が下がらない。だから活動的な気持ちでいる人が多いんだよ」


 中門を通って中層に入り、国道通りを進む。しばらくすると、フレチェスト交差点と書かれた看板があり、そこを右折しながら、王黎は説明を続けた。


「ゼルヴァイス城下町は漁業が一番盛んだね。それと、近くのソケズール山から木材を切り出しているから、木を使った産業もね。木から作る紙は貴重だけど、ここでは庶民でも意外と簡単に紙が手に入るよ。それに、ここで作られた紙は王都にも大量に運ばれているんだ」

「ゼルヴァイス以外は、どんな産業があるんですか?」

「王都のすぐ南にあるポーレンヌの城下町は、鉄の加工が盛んだね。オリジーア国内に流通している鋳貨のほとんどは、ポーレンヌ城下町で作られているんだよ」

「鉄の加工……」

「その付近がどんな土地でどんな気候か、それによって盛んになる産業は異なるね。王都の東にあるカルディッシュ城は、物作りというより教育に力が入っているよ。知識を高めたい人たちが集まって、独自の学校を作っているんだ」

「独自の学校なんてあるんですか」

「各都市部に国が設立した光学院よりも、もっと高度な知識を学べる場所だよ。入るためには試験があるけど、いろいろなことを知りたい、学びたいって人には垂涎の場所だね。ほら、ラフーアにもラフーア音楽院があっただろう? あれも、ラフーアという都市が独自に作った学校だよ」

「なるほど……。いろんな場所があって面白いですね」


 光学院で多少の地理や歴史を学ぶとはいえ、教師が授業で教えるのとは違う切り口であらためて教えてもらうと妙な新鮮さがあり、わくわくする。感興がそそられて、もっと知りたいと紀更は思った。

 フレチェスト交差点のあたりは商店街のようだったが、ゆるやかにカーブしている道を北へ進むにつれて段々と店の数は減り、ただの民家が多くなってくる。住宅街に入ってきたようだ。木造の建物はどれも二階建てが基本で、ほとんどが隙間なく、まるでひとつの建物のように密接している。下層の道は土だったが中層の道は基本的に石畳で、それも腕利きの職人が磨いたのか、敷き詰められたどの石も表面がなめらかで、非常に歩きやすかった。

 そんな道を進むことしばらく、細い路地に挟まれた場所に三階建ての建物が見えてきた。それは木造ではなく石造りで、強固に建設されたことがうかがえる。入り口の上部にかけられた看板には「操言支部会館」と書かれていた。


「おはようございまーす」


 のびやかな声で挨拶をしつつ、王黎は会館のドアを開けた。中にいたほぼ全員の視線がいっせいに王黎へ注がれる。そのほとんどが王黎と同じ操言ローブをまとった操言士たちだったが、操言士に用があって訪れていた市民も混じっていた。


「操言士団守護部所属の王黎と申しまーす。支部長にご挨拶に来ましたー」

「支部長は二階です。どうぞお上がりください」


 ラフーアの受付操言士よりはまだ愛想のいい女性の操言士が、指をそろえて階段を示す。

 王黎は短く礼を言うと、軽やかに階段を上っていった。紀更、最美、ユルゲンの三人がそのうしろに続く。

 二階へ上がった王黎は、階段を上りきった正面にあるドアをノックした。


「どうぞ」


 返事とともにドアが開けられる。開けたのは二十代前半と思われる、若い男性の操言士だった。


「おはようございまーす。弥生ちゃーん、会いに来ましたよー」

「う~るさいねぇ~。それに遅い! 朝一で来いと伝えただろう、ひょろひょろ王黎!」


 支部長用のデスクに向かって座っていたのは、若い頃に多く日焼けをしたのかシミと皺の目立つ肌で、やけに眼光の鋭い、歳を重ねた白髪の女性操言士だった。

 椅子から立ち上がり、来客と向かい合うためにセットされた応接用ソファに移動しながら、女性操言士は王黎に向けて顎をしゃくる。それが座れの意味だと熟知している王黎は、すたすたとソファへ歩き、腰を下ろした。同じように座っていいのか紀更は戸惑ったが、王黎が手招いたので隣に座ることにする。最美とユルゲンは座ることなく、ソファから少し離れた壁を背にして立っていることにした。


「弥生ちゃん、今日も素敵だね」

「けっ! ひょろ坊は今日も口が達者だね。それにムダにうるさいねぇ」

「紀更、紹介するね。こちらは操言士団国内部所属の弥生さん。このゼルヴァイス操言支部の支部長だよ」

「は、はいっ……あの、初めまして……紀更、と申します」


 リラックスした表情の王黎と違って、初めて「支部長」という役職付きの操言士と対面した紀更は、緊張で肩に力が入ってしまった。


「話は聞いてるよ、()()()()()()。ああ、正確にはまだ見習い操言士だったね」


 そんな紀更を、弥生は値踏みするようにじろじろと見つめた。

 その時、ドアを開けた若い男性操言士がトレイを持ってきて、脚の短い応接テーブルにカップを並べて温かいお茶を淹れてくれる。そのカップを手に取って口を付けながら、王黎は紀更に話し始めた。


「弥生ちゃんは、支部長になるまではずっと守護部にいたんだ。弟子も何人かとって、その都度祈聖石巡礼の旅をしている。守護部の僕にとっては頼れる大先輩なんだよ」

「何度も巡礼の旅を! すごいですね」

「昔の話さね。国内をうろちょろしなくなって、今はほっとしているね」

「最近のゼルヴァイス周辺はどう? 弥生ちゃんがいるから、大丈夫だと思うけど」

「怪魔が多発しているかどうかを訊いているなら、答えは否だね。レイトとラフーアで騒ぎがあったらしいが、ここはいつもと変わらんよ。けど、万が一に備えてできることはしている。あんたが心配することは何もないさね」

「さすが弥生ちゃん。どこかの支部長とは大違いだ」


 王黎は言外に、ラフーア操言支部の支部長を非難した。王黎のその言葉の意味がわからない紀更は不思議そうに首をかしげたが、深追いはしない方がいいような気がして声に出して尋ねることはしなかった。


「王都の操言士団からはなんて聞いてる?」

「まず都市部周辺に怪魔が多発し、それから祈聖石が無効化されて、夜間の都市部内にも怪魔が出現した……それがレイトとラフーアの共通点だと聞いてるよ。だからゼルヴァイスでは、都市部内の祈聖石に〝現在地捕捉〟の効果を施して、もしも別の場所へ移されでもしたら気付けるようにしている。無効化されたかどうかに気付く効果は、一応検討中だが難しいね」

「うんうん、頼もしいね。ちなみに、紀更に祈聖石を巡らせたいんだけど、その現在地捕捉効果の邪魔にはならないよね?」

「いや、邪魔だね。ヒュー!」


 弥生はそう答えると、室内に待機していた若い男性操言士、ヒューを手招きした。


「ちょいと頼むよ。ひょろ坊とお嬢ちゃん、ヒューに手のひらを出しな」


 ヒューと呼ばれた男性操言士は、紀更と王黎が座るソファのうしろに立つ。そして、二人が振り向いて差し出した手のひらにわずかな隙間を空けて自分の手のひらを重ねると、小声で何かを呟いた。操言の力を使っているようだ。


「終わりです」

「ヒュー、ここはもういいから、あとは頼んだよ」

「はい」


 ヒューは無表情で会釈をすると、支部長室を出ていった。


「今のは……」


 紀更と王黎は不思議そうに自分の手を見つめる。だがそこに変化らしい変化は何も見つけられない。


「祈聖石の現在地捕捉効果は、今のヒューが発案して施したんだ。そのヒューがいま、ひょろ坊とお嬢ちゃんの操言の力を把握した。もし二人が祈聖石にふれても、祈聖石に異常があったとは判断しないように、祈聖石に施した効果にちょいと仕掛けを追加するのさ。実際に祈聖石ひとつひとつに施すわけじゃないがね。ひとまずこれで大丈夫さね」

(発案……仕掛けを追加……)


 弥生の説明がわかりにくいわけではないが、現在地捕捉効果だの仕掛けだの、具体的なことがわからない紀更は、「わからない」という表情のまま首をかしげた。

 しかしそれ以上詳しく説明することはなく、弥生は話題を変えた。

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