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ヒオクダルスの二重螺旋  作者: 矢崎未紗
第17話 メヒュラの操言士と宣戦布告

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6.操文(下)

 優大はまるで自分が第三者であるかのように語るが、殺された国王エンリケは優大の実の父親であるはずだ。優大は家族を殺された身なのだ。けれども、父を喪った悲しみなどおくびにも出さず、優大はとにかく落ち着いていた。


「わたしは、かねてよりエンリケ王から言いつけられていたことに従い、エンリケ王を失って混乱する国を放ってサーディアの北部にある始海の塔を目指しました。そして、我が祖先の血筋にあたる、クォンとラルーカに出会いました」

「わ、私たちもです」


 王子ということもあるが、知的で聡明な空気を優大から感じて紀更は自然と敬語になった。その若い年齢に似つかわしくない優大の厳かさは、これまでサーディアと、そしてその国に巣食うピラーオルドと対峙し続けてきたことにも影響されているのかもしれない。


「紀更殿は、二人からは何を聞きましたか」

「えっと、フォスニアに伝わっている魂や肉の器、心という生物の理のこと、ザンドラ女王のこと。それから、怪魔は生物の理から外れた存在なのではないかと、初めて知ることばかりでした」

「わたしもそうでした。始海の塔を去ったわたしは、続いてセカンディアのステファニー女王と対面しました。不思議なことに、同じタイミングでセカンディアを訪れていたオリジーアのレイモンド王子とも。彼らと話し、しばらくセカンディアに滞在したわたしは考えました。なぜエンリケ王が殺されたのか。サーディアにはどんな意図があったのか。光の神様カオディリヒスと闇の神様ヤオディミス、そして我らの始祖たちに何が起きたのか。そしていま、世界に何が起ころうとしているのか。約五十年前、サーディアに攻め入った我が曾祖母、綾栞(あやしおり)女王は何を思って行動したのか」


 優大の疑問はステファニーが抱いた疑問であり、そして紀更が抱いた疑問でもあった。


「フォスニアに戻ってから、わたしは徹底的に調べました。我が国に伝わる伝承、資料、親から子へ語り継がれるどんな些細なことも。初代のザンドラ女王について、何か少しでもわかることはないか。綾栞女王について知っている者たちは、まだ生きていないか。何か教えてくれないだろうか。そうして少しずつサーディアのことが、正確にはピラーオルドという組織のことが見えてきました」

「サーディアに斥候を送り、偵察を続けているのも敵を知るためですね」


 王黎が問うと優大は頷いた。


「サーディアはエンリケ王を殺害したことで目的を果たしました。それ以降、フォスニアに攻めてきたことはありません。だからこそわたしは、サーディアの動向を探り続けました。次の犠牲が出ることを食い止められないかと」

「ピラーオルドの目的は神の力、四分力の入手ですよね」

「そうです。ピラーオルドはエンリケ王を殺害して、フォスニア王家に宿っていた闇の四分力を入手しました。ですが、それで終わりではありません。残る闇の四分力、そして光の四分力をも手に入れるつもりです。オリジーアの複数の都市部が同時に襲われたのは偶然ではありません。彼らはオリジーアと、そして、セカンディアに攻め入るつもりです」


 紀更たちは表情を硬くした。

 なんとなくわかってはいた。石の村ヒソンファ、ヨルラの里、メリフォース城。サーディアとの国境であるイスコ山地に近い都市部が次々に襲われた。それも、怪魔の活動が活発になる夜ではなく、昼間から堂々と。それは明らかに、誰かの意図によるものだ。


「オリジーア王家のライアン王、そしてセカンディア王家のステファニー女王。その二人を我が父エンリケ王と同じように亡き者にし、その魂に宿っている光の四分力を奪うこと。ピラーオルドの狙いはそれです」

「優大王子」


 王黎が口を開いた。


「僕らも、敵の目的はそうだと考えます。ですが、彼らの持つ手法がわからない。現王と現女王を殺すことで、彼らは四分力を手に入れられるのでしょうか」

「可能です。なぜなら、明確な継承者がいないからです」

「明確な継承者?」


 紀更は首をかしげた。


「各王家の初代が授かった四分力。それは必ず次世代、つまり次の王位継承者へ継承されてきましたが、四分力が継承されるにはふたつの条件が必要です。ひとつは今代が亡くなること、そしてもうひとつは、誰が四分力を継承するのか決まっていることです。次の王が誰なのか決まっていない状態で今代が亡くなれば、四分力は継承されません」

「オリジーア王家は王子が二人、つまり継承者候補が複数いる。ライアン王を殺すなら、継承者未確定の今がチャンスってわけか」


 ユルゲンがそう言うと、優大は頷いた。


「わたしはエンリケ王の一人息子です。妹が一人おりますが、わたしと妹のどちらが父の跡を継ぐのかは、まだ正式には決まっていませんでした」

「だからエンリケ王が亡くなったあと、優大王子に四分力は宿らなかったんですね」

「そうです。どんなに願っても、わたしのひたいに闇の四分力を宿す者の証である暗紋は浮かびません」


 優大はさらさらの前髪を上げてひたいをあらわにした。ステファニーは少し意識するとそこに輝紋を浮かび上がらせることができたが、自分で言うとおり、優大のひたいに何か変化が起きる兆しはなかった。

 優大は前髪を下ろして続ける。


「セカンディアは、そもそも今代が亡くなったのちに次の王位を決める制度です。つまり、オリジーアもセカンディアも、次の継承者は現時点では決まっていない。万が一の場合、四分力はライアン王とステファニー女王の魂から離れてしまうでしょう」

「そこを、ピラーオルドはとらえる気なんですね」

「そうです。宿主を失った四分力が実際にどのような挙動をするのかは不明ですが、可能性として一番高いのは、宿主が亡くなった瞬間に魂水晶になることです。物体になってしまえば、奪うのはたやすいでしょう」

(それはだめ……)


 紀更はぎゅっと手に力を込めて拳を握った。


(闇の四分力を持っているだけで、ピラーオルドは怪魔を作り出して人々を脅かしてきた。そんな人たちに、光の四分力まで持たせてはいけない!)


 闇の四分力を使って、彼らは怪魔を作り出した。もしも光の四分力を手に入れたら、次は何をするかわからない。奈月やアーサーのように明確にオリジーアを恨んでいるメンバーは、今以上にオリジーアに対して敵対するかもしれない。


「優大王子、なぜあなたは、紀更をここへ呼んだのでしょうか」


 王黎は話題を変えた。

 王黎がステファニーから受け取った手紙には、「優大が紀更を待っている」と書かれていたが、その理由は書かれていなかった。


「ピラーオルドを止められるのは特別な操言士……紀更殿だからです」


 優大は間を含み、ぎこちなく答えた。


「紀更殿が、後天的に操言の力を授かった特別な……不思議な操言士であることは聞いています。それがどうしてなのかはわたしにもわかりません。ですが、紀更殿は我が祖先ザンドラ女王と同じ、後天的に操言士になった唯一の人だ。闇の四分力を持つピラーオルドに対抗できるとすれば、あなたしか考えられない」


 優大の目は少し力を失い、(こいねが)うような色になる。その目を見て、紀更は一呼吸するとゆっくりと話した。


「優大王子、私はザンドラ女王とは違います。私が後天的に授かったのは〝操言の力〟であって、四分力ではありません。ザンドラ女王と同じではないのです」

「ですがっ」

「大丈夫、ピラーオルドに対して何もしないと言っているわけではありません。彼らの蛮行を止めたいという思いは私の中に強く存在しています。私がこれまでに見聞きして、そして考えたことを聞いていただけませんか。王黎師匠も」

「うん、いいよ」


 アーサーたちと話して気付いたこと、始海の塔に軟禁状態だった時に内省して気付いたこと。紀更は、王黎だけでなくエリックやユルゲン、紅雷たちにも聞いてもらおうと、自分の頭の中にある考えをゆっくりと語った。


「私たちがいるこの世界は、光の神様カオディリヒスと闇の神様ヤオディミスによって創られました――」


――世界を創った神様。光と闇、昼と夜。それは決して切り離せない表と裏。

 光があるから生物は活動し、闇があるから生物は休息する。その繰り返しでこの世界は回っている。世界には光も闇も等しく必要で、どちらかが一方的に善になったり悪になったりすることはない。

 それなのに、いつしか人は闇を恐れた。闇を忌んだ。闇を疎んじた。自分たちに必要なのは善である光のみと考え、悪である闇はなるべく遠ざけた。

 ヤオディミスはきっと悲しかっただろう。すべての生物に安息の時間をもたらすのは静かな闇夜なのに、それを悪しきものと決めつけられて忌避されたのだから。

 ところが、ある女性は闇を愛した。人々が避けていた闇をただ一人、好きだと言った。それが嬉しかったヤオディミスは、その女性に自分の力、闇の四分力を授けた。その女性が、のちに初代操言士と呼ばれた。

 世界を創ることのできる神の力とは、どういうものなのか。

 ひとつはヤオディミスが持つ想像力――魂を作る力。

 もうひとつはカオディリヒスが持つ具現力――魂を肉の器に入れる力。

 初代操言士は、ヤオディミスの「想像力」の一端を授かったのだ。

 そして同じように光の神様カオディリヒスは、のちに初代言従士と呼ばれる一人の男性に光の四分力を授けた。

 闇の四分力を持つ初代操言士と、光の四分力を持つ初代言従士。二人は深く愛し合い、やがて〝反転〟という事象が起きる。それぞれの魂に宿っていたはずの四分力が入れ替わってしまったのだ。

 闇は光に、光は闇に。それでも表裏一体、比翼連理。ふたつの力は、二人の心は、決して切り離せない――。


「――初代操言士と初代言従士は亡くなりました。光と闇の四分力は、今も彼らの魂に宿っていると思います。私は、確かに後天的に操言士になりました。でも後天的に四分力を授かったわけじゃない。現代の私たちが操言の力と呼んでいる、操言士が生まれつき魂に宿しているその力は神様の力ではありません。人の力……きっと、人自身が生み出した力なんです」

「驚いた……」


 優大は呆けたように感心した。


「紀更殿、今の話はどこで? なぜ、初代操言士が闇の四分力を授けられた経緯がわかるのですか。それに〝反転〟とは? 初耳です。どこでそれを知ったのですか」

「えっと」


 次々と優大に尋ねられた紀更は、ためらいの表情を浮かべて王黎を一瞥した。すると、王黎は頷くことで許可の合図を出す。紀更は優大に包み隠さず答えた。


「ロゴイエマレスという方が書いた『空白の物語』という本に、反転のことが書かれていました。経緯についてはその本の内容と、ピラーオルドのカギソという人物が語っていた内容をつないでみたんです。だから、正確な事実ではありません。いえ、あの、ごめんなさい。ほとんど私の勝手な想像です」


 紀更はごそごそと、ショルダーバッグの中から二冊の本を取り出して優大に手渡した。


「それが『空白の物語』です。とても不思議な本で、ある言葉を呟いたら、その本に文字が浮かび上がったんです。うしろの方のページの文字が」


 優大は二冊の本にさっと目を通し、それからその二冊をうしろに控えていた操言士の和真に渡した。和真も優大と同様に、無言で本に目を通す。

 読み終わった和真から本を受け取ると、優大は和真に尋ねた。


「和真、どう思う?」

「おそらく、操文ではないかと。それに、著者名のロゴイエマレスは……」

(そうもん?)


 優大と和真が不思議な会話をしているので、紀更は首をかしげた。

 その優大が紀更に向き直り、驚きの事実を告げる。


「紀更殿、この本の作者ロゴイエマレスは、フォスニアの人物かもしれません」

「えっ!?」

「フォスニアは初代操言士の娘であるザンドラ女王が建国した国ですが、もう一人、初代操言士の血縁者でフォスニアでは少し名の通った人物がいます。その名はレイスロマエゴ。初代操言士の孫で、不死の操言士と呼ばれた人物です」

「孫のレイスロマエゴ……不死の操言士?」


 新しい情報が一度に耳に入ってきて、紀更は自分がどの言葉に驚いているのかわからない。しかし優大は紀更の戸惑いには構わず、さらに続けた。

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