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ヒオクダルスの二重螺旋  作者: 矢崎未紗
第17話 メヒュラの操言士と宣戦布告

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4.侵攻(下)

「怪魔!」


 ルーカスとエリックが長剣を握り直し、怪魔に向かって横並びになる。


【清らかなる純白の輝きよ、邪なる悪を滅し屠る神気となりて、彼の者に聖なる力を授け給え!】


 その二人のうしろに立った紀更が、ミズイヌ型の紅雷と人型のマークを左右に侍らせて、前衛の騎士二人に向かって操言の加護を飛ばした。出現したクフヴェ二匹とキヴィネ一匹に対して、彼らの攻撃が有効になる。


「紀更、背後は任せろ! 紅雷、マーク! お前らは絶対に紀更を守れ!」

「わかってる!」


 後衛にいるユルゲンが叫ぶと、短剣を握りしめたマークも叫んだ。


「かはぁーかはぁー」


 ニドミーが不気味な息を発する。それは怪魔への命令なのか、二匹のクフヴェが左右からまったく同じ角度で複数の蔓を伸ばして攻撃してきた。


「せやぁっ!」


 エリックとルーカスがそれぞれ左右に分かれて、クフヴェの蔓を斬り落とす。しかしクフヴェは気にすることなく、二人の騎士の視界をふさごうと、自身の樹木のような身体から葉っぱのようなものを放ってきた。


【宙を舞い飛ぶ無数の葉、赤き炎に包まれ、命を失い灰となれ!】


 紀更は葉が燃えるイメージを描きながら、言葉を紡いで操言の力を使った。すると、エリックとルーカスの視界を覆うように飛んできた葉はみな空中で炎に包まれ、燃え尽きて消えてしまった。


「紀更ちゃん、やるじゃん」

「その声は奈月さんですね!」


 姿を見せない声の主の正体に気が付いた紀更は周囲を見回した。しかし、見える範囲に奈月の姿はない。


(暗幕で姿を隠してる!)

「無事でよかったよ、紀更ちゃん。カギソのおじさんと闇神様の言うとおりだった」

「アルソーやヨルラ、この街を襲ったのは奈月さんたちなの!? どうして!」

「紀更ちゃんたち闇の子がなかなか来てくれないからだよー。馬龍のおじさんが言ったんでしょ、来いって。まあ、それ以外の目的もあるけどね」


 エリックとルーカスがクフヴェに向かっていく。しかし、その二人めがけてキヴィネの電撃が飛んできた。


【硬き鉄の盾、光の電を受け止めよ!】


 王黎が後衛から操言の力を使って、キヴィネの電撃から二人を守る。


「あーあ、邪魔だなあ。ほんとオリジーアの操言士団……操言士ってうざいね」

「奈月さん! でも、あなただって操言士でしょう!」

「違う! あたしは操言士団の一員なんかじゃない!」


 エリックとルーカスはクフヴェに幾度かダメージを与えるが、キヴィネからの攻撃も避けなければならないため、決定打に欠けていた。


「紀更様、カルーテが来る! 力をください!」


 都市部の外側からカルーテの匂いが近付いてきたのに気が付き、紅雷が叫んだ。必然的に、マークは紀更の少し前に立って紀更をかばう体勢になった。


【二対の鉤爪、長さは三倍、力は五倍。光を凝縮した鉱物がごとき力は、悪しき魂を引き裂き滅す!】


 紀更は紅雷に、操言の力で作り出した鉤爪という武器を与えた。紀更の操言の力は紅雷の身体をふわりと包み込み、紅雷に物理的、精神的心強さをもたらす。


「奈月さん、どこにいるの! ほかのピラーオルドの人は! どうすればこんなこと、やめてくれるの!」

「やめない! あたしたちはみんな、ゆがんだ世界の柱が正しくなることを願ってる! 闇神様がそれをやってくれるの!」

「ゆがんだ世界の柱って何!? それは、あなたたちが誰かを憎んでいるということ!? あなたたちの憎しみの原因ってこと? 闇の四分力をすべて集めてどうしたいの!」


 五匹のカルーテの群れが、紀更めがけて走ってきた。そのすべてに紅雷が一人で立ち向かう。しかし、二匹が紅雷の脇をすり抜けて紀更に飛びかかろうとした。


「紀更、下がれ!」


 マークが紀更の身体を自分の背中に隠して、短剣をカルーテに向ける。


――ずしゃっ!


 しかし飛びかかってきたカルーテは二匹とも、ユルゲンの両刀でばっさりと両断され、黒い霧になって消えた。


「いいぞ、マーク。そのまま紀更を守ってろ」

「あ……ああ」


 涼しい顔で両刀を構え直すユルゲンに、マークは少し気の抜けた返事をする。

 ユルゲンが後衛の王黎護衛のために下がると、三匹のカルーテを屠った紅雷が紀更の隣に戻った。


「作り直すのよ。今の世界の柱はゆがんでるから、ゆがみを正すの。そうして新しい世界になる。あたしたちみんなが望む、新しい世界」

「ゆがみって? 奈月さん、ねえ、教えて」


 紀更は奈月に語りかけながらも、目を閉じてあたりの波動を感知しようと集中した。

 奈月が操言の力で自分の姿を見えなくしているなら、その力の波動がどこかにただよっているはずだ。それを感じ取るのは紀更の苦手なところだが、そうも言っていられない。


「あたしは話したでしょ、紀更ちゃん。操言士団があたしにどんな仕打ちをしたのか。それがゆがみだよ」

(奈月さんの波動はどこ……)


 自分の身の危険性は無視して、紀更は神経を研ぎ澄ませる。わずかに悲しみを含んだ奈月の声に、言葉に、耳をかたむけながら。

 その時、奈月の波動ではなかったが何か妙なゆらめきがあることに紀更は気が付いた。


「ニドミー?」


 正面中央、怪魔キヴィネの背後に隠れているニドミーから操言の力をかすかに感じる。


「ニドミーは怪魔……どうして」

「あ、気が付いた? ニドミーはね、普通の怪魔と違うんだよ。肉の器を魂につなぎ止めるための軛がちゃーんとあるんだ」

「軛?」

「オリジーアの憎い操言士のね、操言の力だよ。あたしはよくわからないけど、カギソのおじさんがたくさん実験して工夫してようやく成功したんだ、って楽しそうに言ってたよ」

「実験? それって、誘拐した操言士を?」

「そうだよ。あははっ! いい気味だなあ。馬鹿な操言士団の操言士が、怪魔ニドミーの一部になったんだから!」

「どういうこと……」


 紀更の声が震える。

 確かに、ニドミーはほかの怪魔と違って見た目は完全にヒューマだ。その存在を作り出すために操言士が誘拐されていた? 操言の力を軛として利用するために?


【隠者を覆う暗幕よ、雲の上、天上一面の日光にさらされて、役目を終えて消え失せよ】


 王黎が紀更の背後で操言の力を使う。すると、紀更の前方でパンッという音がして、ニドミーから少し離れた北側に小柄な少女の姿が現れた。


「奈月さん!」

「ちぇっ、見つかっちゃった。じゃあね、紀更ちゃん。早くピラーパレスに来てね。闇神様が待ってるから」

「待って!」


 奈月は笑顔を浮かべ、紀更に手を振った。もう片方の手には何かを持っているようだ。

 奈月の背後に縹色の三日月が浮かび上がり、それが消えると同時に奈月の姿も消え、代わりに新たに怪魔ドサバトが三匹と、無数のカルーテが現れた。



     ◆◇◆◇◆



――師匠! 今日はわてが先に達成じゃ!

――おや、よくやったね、稲美子。じゃあ次の課題だ。


 懐かしい。とても懐かしい声と笑顔だ。

 師の教えは一見すると、なんの意味があるのかわからないものばかりだった。けれど、自分で考えて調べて実践して失敗を重ねてそうして初めて成功してみると、その課題がなぜ必要だったのか、どんな意味があったのか、すべてがつながって視界が一気に開けたように見えて爽快だった。


――稲美子、ずるいぞ! その言葉を考えたのは俺だ!

――使わねば意味がない! 何事もやってみたもん勝ちじゃ!


 兄弟子とはよく言い争った。しかし、思えばそれさえも修行のひとつになった。


――二人は元気だねえ。そんなに元気なら、僕の研究を手伝ってくれないか。

――なんじゃ師匠、研究とは。

――歴史だよ。僕ら操言士がなぜ生まれたのか、操言の力はとは何なのか。考えて、仮説を立てて、資料を探して、試して、理由を見つけるんだ。それがわかれば、操言士として生きていくキミたちのこの先の人生が、もっと意味あるものになるだろう。


 師匠は君たちと言ったが、正確には自分自身のことだったのだろう。

 自分が持って生まれたこの操言の力とは何なのか。誰の何のために、力は使うべきなのか。どうして自分だったのか。どうしてこんな力を人は持っているのか。すべてを知り、そして安心したかったのだろう。


――師匠、簡単じゃ。初代操言士が光の神様カオディリヒスから力を授かったんじゃろう。それが操言士の起源じゃ。

――うーん、それは本当のことかな。初代操言士が神様から力をもらうところを誰かが見ていたのかなあ。それに、それが本当ならどうして神様は力をくれたのかなあ。ほかの人じゃなくて、どうして初代操言士その人だったのかなあ。

――それはわからん!

――だから、それを研究するんだよ。


 少し呆れた顔の師匠。己の研鑽も歴史の研究も、そして二人の弟子の指導も、寝る時間を惜しんで取り組んでいた。

 そんな師匠の、穏やかなようでとても情熱的な陽だまりのもとで過ごした時間をどうしていま、こんなにも鮮明に思い出すのだろう。


〝彼らを西へ……海へ……船がある〟


 遠い霞の向こうから、懐かしいあの声がする。


(鳳山師匠?)



     ◆◇◆◇◆

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