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ヒオクダルスの二重螺旋  作者: 矢崎未紗
第17話 メヒュラの操言士と宣戦布告

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4.侵攻(上)

「そうです、サンディ王子。ピラーオルドは闇の四分力を狙っています。ですが、彼らは闇の力だけで満足するでしょうか。この世界を創ったのは光の神様カオディリヒスと闇の神様ヤオディミスです。その両方の力を手にしたいと望むことは十分に考えられることです。彼らの言う世界の柱とは神のこと、あるいは世界を創り出す力のこと……新たな柱を望む彼らは、光と闇の四分力すべてを手に入れて自分たちが新たな神になりたいと考えているのでしょう」

「光の力……つまりオリジーア王家か」


 国王ライアンと三公団の団長が緊急会議を終えたのち、サンディは事態の状況把握のため、コリンに付いて操言士団本部へやって来た。コリンはサンディが同席していることを王黎に対して隠したが、おそらく王黎も、一から十まですべてを報告したわけではないと考えられるのでおあいこだろう。


「光の神様カオディリヒスは、初代オリジーア王と初代操言士に力を授けた。つまりオリジーア王家、現在はライアン王が光の四分力を持っている。それを手に入れるつもりということですね」

「ええ、そうです。これまでの都市部襲撃、南方で増え始めた怪魔、これらは布石と考えられます」

「コリン団長。ピラーオルドが狙う最後の闇の四分力は王黎殿か紀更殿が持っているそうですが、それが正しいならピラーオルド調査の特務は終了とみなして、二人を即刻王都に帰還させるべきではないでしょうか」


 ピラーオルドを調査せよという操言士団に下った命令は国王直々の命令だ。第二王子のサンディがその命令を終了、あるいは撤回することはできないが、コリンの許可を得てライアンに進言することはできるだろう。


「二人を王都に戻してピラーオルドの侵攻にも備える。そうして王黎殿、紀更殿、ライアン王の三人を守れば、ピラーオルドがすべての四分力を集めることはないでしょう」

「お言葉ですがサンディ王子、それでは肝心のピラーオルドの存在が野放しになったままです」


 サンディの向かいに座っていた幹部操言士ジャックが、たしなめるようにゆっくりとした口調で言った。


「その三人を守るだけでは、ピラーオルドという諸悪の根源は解決できません」

「ですが、今のままでは王黎殿と紀更殿がピラーオルドに狙われます! いや、すでにそうなのでは!? 彼ら二人をいつまでも危険な状況に置いておくわけにはいきません」

「では、王都に軟禁しますか」


 コリンは冷めた表情で意地悪げに返した。


「王黎と特別な操言士に危険が及ぶことを承知であえて行動させ、ピラーオルドについて調査させる。それをすべて、ライアン王は心得ているはずです。そして我々操言士団も承知しました。王黎本人もです」

「紀更殿は知らないはずです! そんな王命が下っていること……自分が半ば囮にされていることなど!」


 サンディのいつも冷静で大人びた、感情をコントロールしている王族らしい表情がゆがむ。そこには、一人の少女を心配する男の顔があった。


「あと何度、彼女はピラーオルドと対峙して危険な目に遭えばいいのですか。まだ一人前になったばかりの若い操言士です。なにも、彼女が前線で調査しなくても」

「年齢も段位も関係ありません、サンディ王子。ライアン王が操言士団にピラーオルドの調査を命じた。操言士団はその命に応えるため、最適、最善と思われる操言士に特務を課した。操言士王黎と特別な操言士にできるのは、操言士団の決定に従い、忠実に王命を果たすこと。それだけです」


 コリンの非情な口調に、サンディは拳を握って唇を噛んだ。

 表情ひとつ変えず、自分が束ねる組織の一員の危険を承知する。それは団長だからできるのか。それともそれができるから、団長という椅子に座っているのか。


「王黎殿からの報告は、わたしからライアン王に共有します。ピラーオルドがオリジーア侵攻を目論んでいるとして、どう対応するかはライアン王がお決めになるでしょう。操言士団は引き続き、アルソーとヨルラの怪魔に対応してください」

「わかりました」


 サンディが努めて事務的に告げたので、コリンもただ一言返事をするだけだった。



     ◆◇◆◇◆



「きゃっ!」

「なんだ!?」


 地震のような揺れの中、全員は連絡室のテーブルに掴まった。数秒経つと揺れはおさまったが、道貴は急いで窓の外の様子をうかがい、王黎は連絡室のドアを開けて廊下に出た。


「紀更様、大丈夫ですか」

「うん、平気よ」


 いち早く紀更に駆け寄った紅雷が様子をうかがうと、紀更はこくりと頷いた。


「道貴師匠、怪魔です!」


 廊下の先、階段の下の方から操言士の誰かが怪魔だと叫ぶ声を拾った王黎が、血相を変えて連絡室に戻った。


「アルソー、ヨルラ、メリフォース……ほんとに、これはピラーオルドのオリジーアへの侵攻かよ」


 道貴は切羽詰まったため息をつく。


「紀更、みんなも。僕らは怪魔殲滅に行こう」

「はあ!? 王黎、駄目だ。闇の四分力だかなんだか知らんが、ピラーオルドはそれを狙ってるんだろ? んで、最後の四分力はお前か紀更が持ってるそうじゃねぇか。オレ様の予想通り、ピラーオルドの狙いはお前らだったわけだ! そんなお前らが戦場に出ることは、ピラーオルドに狙ってくれと言ってるようなもんだ。攫われたらどうすんだ!」


 道貴の言うことはもっともだった。しかし、言われた側の王黎は鼻で笑う。


「道貴師匠も聞いたでしょう。コリン団長……操言士団は引き続き僕らに、ピラーオルドについて探れと言いました。都市部を襲う怪魔との戦闘の先にピラーオルドがいるなら、僕らは行かなきゃいけないんですよ」

「そんな命令、無視しろ。特務なんてクソ食らえだ」


 道貴がそう言うと、王黎は苦笑した。


「それは無理です。僕自身がピラーオルドをなんとかしたいんですよ」

「道貴さん、私もです」


 閉口する道貴に、紀更が前のめりになって主張した。


「ピラーオルドをなんとかしないと、根本的な国の脅威がなくならないんです。操言士として人々を守るために、ピラーオルドを止めたい。それが私の意志です」


 紀更は先ほどまで、王命だとか特務だとか、そういう大義名分のもとに自分が旅をさせられていたことを知らなかったはずだ。ただ純粋に、操言士として成長するために旅をしているのだと思っていたはずだ。それなのに、ピラーオルドをなんとかしたいと自発的に思っている。誰かに言われたから、させられているから、義務だから仕方なく――という理由ではない。操言士として生きなければならない自分のさだめを受け入れたうえで、そう思っているようだ。


「はあ~」


 道貴はため息をついた。

 きっと、「危ないから行くな」なんて言葉はもはや届きはしないのだろう。それだけ、この若者たちは苦難の道を歩いてきた。そして引き続き歩いていく覚悟をもうしている。


「どうなってもオレ様は知らん。が、行くと言うならこれだけは言っておく。死ぬんじゃねぇぞ、誰一人な」


 紀更と王黎は真剣な眼差しで頷き、足早に連絡室を退出した。




「最美、上空からの偵察を頼んだよ」

「畏まりました、我が君」


 メリフォース操言支部の建物を出ると、最美はニジドリの姿になって空へ飛んだ。王黎は上空の最美と通信するために、通信用の柘榴石の付いたヘッドセットを方耳に装着する。するとすぐに、上空の最美からメリフォースの状況が入ってきた。


「怪魔は北側に出現。カルーテが二十弱、クフヴェ、ドサバトが五ずつ、キヴィネが一か」

「昼間とは思えない戦力だな」

「メリフォースの操言士は一部がヨルラに赴いたあとですよね。大丈夫でしょうか」


 最美からの情報を繰り返す王黎に、エリックとルーカスは難しい顔になった。


「王黎師匠、私たちは怪魔ではなくピラーオルドを捜すべきです。誰か幹部が、あるいはローベルさんのようなメンバーがここにいるかもしれません」


 紀更が意見すると王黎も同じ考えだったようで、すぐに最美に指示を出した。


「最美、ピラーオルドの誰かの姿は補足できないかい?」


 最美からの返事はなく、少し間が空く。そうしている間にもメリフォース城下町には混乱が広がり、操言支部から複数の操言士が慌てて出てきて城下町の北へと走っていった。


「わかった、向かうよ。見失わないでくれ」

「いたか?」

「怪魔の姿しか見えないようです。ただ、城壁の北側、穀倉地帯と街の境界線に動かない人影がいると」

「ピラーオルドでしょうか」


 紀更が呟くと、王黎は首を横に振った。


「わからない。でも最美が怪しいと思うなら何か変なことは確かだ。行ってみよう」


 七人は王黎を先頭に、メリフォース城の城壁の北側へと走った。



     ◆◇◆◇◆

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