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ヒオクダルスの二重螺旋  作者: 矢崎未紗
第17話 メヒュラの操言士と宣戦布告

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3.裏切りの理由(上)

「え、王黎師匠……何を言ってるんですか」


 王黎を見つめる紀更は驚愕し、動揺した。

 そんな二人を交互に観察しながら、煙草の煙を深く吐き出す道貴の眉がつり上がる。


「ピラーオルドについて調査せよ。ピラーオルドの正体、目的、対抗策を明らかにせよ。これは、ライアン王直々に下された王命、特務なんです」

――王族からの命令で騎士や操言士が請け負う仕事、つまり特別な任務、特務よ。


 操言院で雛菊がしてくれた講義を紀更は思い出した。この旅は、「操言士紀更」の成長のための旅ではなく、任務のための旅だったというのか。


「王黎師匠、どういうことですか」


 紀更は声を絞り出すように尋ねた。


「ごめん、紀更。キミが操言院を修了したあと、ライアン王から操言士団に命令が出たんだ。当然、操言士団はそれを引き受けた。キミには祈聖石巡礼の旅だということにして黙っていたけど」

「それじゃあ、今まで……」


 豊穣の村エイルー、カルディッシュ城、キフェラ集落、ンディフ墓地。王都を出て歩いてきた道のり。王黎と共に巡った祈聖石。その道中で教えてくれた話。それらはすべて、建前だったというのか。


「紀更、違う。表向きは祈聖石巡礼の旅ということにしたけど、それは嘘、偽りというわけじゃない。キミが操言士として成長できるように、それを願って道中を一緒に歩いてきたのは建前じゃない。僕の本音だ」

「でもっ……ラテラスト平野でライオスさんと交戦したのもカルディッシュ城で怪魔と戦ったのも、ンディフ墓地での戦闘も全部、狙ったことだったんですか!」

「狙ったわけじゃない。ピラーオルドとの邂逅や戦闘は、全部本当に偶然だ。だけど、その偶然が発生することを願っていたのは事実だ。彼らの尻尾をつかむためにね」


 紀更と王黎をかばって傷ついた、エリックやユルゲンたち護衛。そして紅雷たち言従士。彼らの犠牲も願っていたというのか。怪魔に襲われてムクトルが亡くなり、エレノアが涙したのも、特務達成のために望まれたことだったというのか。


(違う、そうじゃないわ)

――切り離すことも覚えろ。

――心が抱く感情は、真実をゆがめることがある。こうあってほしい、と願うからだ。


 悔しくはあったが、感情が沸騰しそうになった紀更の頭の中でなぜかアーサーに言われたことがふっと横切っていった。


(建前とか本音とか……いいの、そんなことは)


 オリジーア王家も、怪魔やピラーオルドの問題を解決したいと思っている。だから操言士団に特別任務を依頼した。そして当然、操言士団はそれを受ける。その時点でピラーオルドに接触したことがあるのは、おそらく自分たちだけだったのだろう。だから国王と操言士団はきっと賭けたのだ。自分たちこの旅の仲間に。何か手掛かりを見つけられるかもしれないと思って。

 祈聖石巡礼の旅に見せかけた、特務のための旅――この旅がそういうものだったらなんだというのだ。各地の祈聖石を巡ることを通して得た経験が、偽りのものになるわけではない。誰かが傷ついた原因は、すべてピラーオルドだ。紀更や王黎のせいではない。


(操言士として成長したかった。でもそれだけじゃなくて、私はピラーオルドをなんとかしたいと思った……そう思うようになった)


 この旅の目的はひとつではない。紀更の中には、確固たる別の目的が生まれていた。


「王黎師匠、すみません」


 自分の呼吸を意識しながら、紀更は努めて冷静に言った。


「この旅が建前か本音か、そういうのはいいんです。いま大事なのは、オリジーアがピラーオルドという存在に対して何ができるか。これ以上の被害を出さないように、ピラーオルドの行為をどう止めるか。そこですよね」


 声に出してみると、あらためて優先順位がはっきりする。

 今さら、青だと思って見上げていた空が実は赤だったからといって、何かが変わるわけではない。過ぎた出来事が偶然だったのか故意だったのか、それを明らかにしたところで前へ進めるわけではない。

 いま必要なのはきれいに取り繕った言葉ではない。次はどうする? 誰に対して何をする? どうすればこの状況を打破できる? そうやって前を見て考え続け、一歩でも足を動かすこと、それだけだ。道は、前に進むことでしか作られないのだから。


「道貴さん、王黎師匠との交換条件には乗らなくてもいいです。船の用意も、いざとなれば自分でなんとかします。だから止めないでください。私は王都に戻りません。ピラーオルドの本拠地、彼らのところへ行かなきゃいけないんです」


 闇の子と称され、ピラーオルドから狙われている自分たちが――闇の四分力を持っているかもしれない、自分と王黎の二人が。ピラーオルドの誘いに乗って彼らの本拠地に行って、そして取り返さなければいけない。ピラーオルドが不当に奪った闇の四分力――闇の神様ヤオディミスの力を。それが、彼らを止める唯一の手段。怪魔からこの国と民を守る唯一の方法なのだ。


「お前ら、師弟関係を結んでまだ半年も経ってないはずだろ。なんで妙に似てるんだよ」

「似てませんよ。僕と違って、紀更は駆け引きなしで素直に本音を言えますからね」


 表情を崩した道貴に、王黎も少し穏やかな顔になった。


「道貴師匠、紀更の言うとおりです。道貴師匠が僕らに勝手をさせたくなくていまここに連れてきたことがわかっていたので、僕もちょっと反抗してみました。メリフォース城の城主に船を手配してもらえたら助かるというのは本音ですけどね。でもいいです。その代わり、コリン団長に言うべきことだけ言って、僕らは好きにさせてもらいます。メリフォース操言支部の所属じゃないですしね、僕ら」


 王黎がちらっと舌を出して道貴に言うと、道貴のこめかみがぴくりと揺れた。


「生意気言うんじゃねぇぞ。操言士団は組織だ。その操言ローブを羽織って操言ブローチを付けている限り、お前らもその一員だ。勝手が許されると思うなよ」

「道貴師匠ってば、いつからそんな常識的なことを言うようになったんです?」

「アホ抜かせ。オレ様は昔から常識的だろうが」

「いや~。僕が教わった道貴師匠はとてもそんな普通の人ではなかったですけどね~」


 王黎はにやにやと道貴に笑みを向ける。

 その時、貝伝器の片方の黒翡翠がチカッと明滅した。


「コリンだな」


 道貴が集中して、いくつかの言葉を紡いで操言の力を使う。

 その様を見ながら、紀更はやはり、道貴がコリンと呼び捨てたことが気になった。



     ◆◇◆◇◆



 操言士団本部の敷地へ戻ってきたコリンの姿を見つけるなり、国内部部長のダミアンは走った。そして王黎からの伝言を告げると、コリンと共に急いで本館二階の連絡室へと戻る。


「人払いをしなさい。室内の操言士はジャック、ラファル、ダミアンとします」

「ヤホス、席を外してくれ。通信はわたしがやる。大会議室に守護部部長のラファルがいるはずだ。ここへ来るように伝えてくれ。それから、しばらくの間この連絡室に人が入らないよう、廊下で待機してくれ」


 ダミアンに言われ、ヤホスは無言で頷いて連絡室を出ていった。そしてまもなく、ラファルが怪訝そうな表情で連絡室に入ってくる。


「団長、何かあったんで?」

「王黎から連絡です」


 ラファルに問われたコリンは短く答え、貝伝器の乗ったテーブルを囲む椅子に座った。一瞬で表情の険しくなったラファルがその向かいに、ラファルの隣にジャックが座り、そしてコリンの隣には、コリンと共に王城から来た男が座った。


【陰影の暗幕、暗影の閑寂、我らの声を覆え】


 コリンは操言の力を使って連絡室全体に防音の効果を施した。


「ダミアン、通信を」


 コリンの指示が出ると、ダミアンはいくつかの言葉を慎重に紡いだ。すると、貝伝器の片方の器に乗っている黒翡翠がチカッと明滅する。


「こちら、王都操言士団本部。国内部部長ダミアンだ」

『こちらはメリフォース操言支部の道貴だ』

「よく聞こえている。こちらにはコリン団長がいる。早速だが王黎に話してもらいたい」


 ダミアンが貝伝器に向かって話すと、少し沈黙があったのち、道貴とは違う声が聞こえてきた。


『守護部所属の王黎です。コリン団長はいますか』

「ええ、ここに。人払いと防音もしました。さあ、話しなさい」

『その前に、そこにいて僕の声が聞こえている人物が誰なのか教えてください』

(素直に話せばいいものを、疑り深い奴め!)


 貝伝器の向こう、遠く南のメリフォースにいる王黎の態度にラファルは頭を抱えた。

 しかしコリンは王黎の性格を心得ているようで、無表情で淡々と答えた。

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