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ヒオクダルスの二重螺旋  作者: 矢崎未紗
第17話 メヒュラの操言士と宣戦布告

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2.師匠対師匠(中)

 メリフォース操言支部の一階の奥に進むと、そこには人だかりができていた。その中心にいる人物がどうやらメリフォース操言支部の支部長のようで、操言士たちからの報告を聞いては指示を出していた。


「どうなってるんだ」


 エリックがその状況を見て呟く。

 道貴は人だかりに構わずずんずんと進み、支部長の肩をたたいた。


「オマール、どうした。何があった」

「おう、道貴か。ちょうどいい、お前も聞いてくれ」


 王黎は隣にいる紀更にこそっと耳打ちをした。


「紀更、赤毛の彼が、メリフォース操言支部の支部長、オマール・クベロさんだ」


 オマールは二度手をたたいて全員の視線を集める。それから、大きな声で言った。


「休みの者も含め、だいたいそろったな。全員、聞いてくれ。ヨルラの里とアルソーの村に、大量の怪魔が出現した。上位種はゲルーネもキヴィネもいるらしい」


 集まっている操言士たちが、一気にざわざわと騒ぎ始めた。


「ゲルーネ!?」

「昼間なのに!」

「祈聖石はどうしたんだ。効果が切れていたのか」


 オマールは続ける。


「即時対応できた操言士が数名、すでに騎士と共にヨルラ救援に向かった。残りの俺たちもヨルラの応援、およびここメリフォースの守りを固める。王都の操言士団本部にも連絡したから、別途指示があるかもしれん。メルゲントの傭兵たちにも、おそらくメリフォース城城主から依頼が入るはずだ。必要とされる加護は、余裕を見て与えてやってくれ。緊急事態のため、全員で事に当たる。役目がない者は、しばらくここで待機。段位が師範、九段、八段の者は、二階の会議室に移動してくれ。いいな!」


 操言士たちは互いに顔を見合わせ、言葉を交わした。これまでも怪魔による都市部襲撃はあったが、今回は何かが違う。誰もがみなそれを感じ取り、不安に思っているようだ。


「道貴、王都との連絡担当になってくれないか。最近開発された連絡用生活器、お前なら普通に使えるだろう」


 オマールからそう頼まれると、道貴は眉間に皺を寄せた。


「あれなら確かに連絡は早いが、扱いが面倒なんだよな。現場に行かせてくれよ」

「現場にも行ってもらうさ。お前の戦闘力はまだ衰えていない。こちらとしても存分に活用したい。けど、そのためにも情報は多くつかんでから行ってくれ」

「へいへい。支部長さんの命令には従うよ。ちなみに、たまたま元弟子たち一行がいるんだ。オレ様の近くにいさせていいか」

「元弟子……王黎か」


 オマールは道貴の背後、人だかりの一角に見知った人物がいることに気が付き、一瞬懐かしさに顔をほころばせた。だが、すぐに表情を引き締めて頷いた。


「メリフォース操言支部の所属でない操言士に俺は命令できんからな。道貴に任せる」

「おうよ。高段位者には何をさせるんだ」

「低段位の操言士と班を組ませる。ポーレンヌ操言支部が先にやっていた取り組みだ。操言士の単独行動は禁物だからな」

「怪魔を殲滅する前に攫われちゃ話にならねぇもんな。わかった、しばらく連絡室にこもるぜ」

「頼んだ」


 オマールは道貴の肩をたたき、急いで階段を上っていった。


「王黎、紀更、オレ様と一緒に来い。まずは情報収集だ」


 道貴は紀更たちに声をかけると、オマールの後を追うように階段へ向かう。紀更たち一行もそのうしろに続いた。



     ◆◇◆◇◆



「アルソーとヨルラに怪魔か。これまでの案件と同一か? それとも違うのか」


 王都ベラックスディーオの王城にある会議室に、国王ライアンと三公団の団長が緊急集合していた。ライアンは緊急事態の真相を推し量ろうと、コリンに尋ねる。


「ふたつの都市部に現れた怪魔の数は、これまでのレイトやラフーア、ポーレンヌの比ではありません。昼間にもかかわらず、最強の怪魔ゲルーネの出現が確認されています。また、二か所同時に襲撃されたことからも、今回は今までと同一とは言えないでしょう。ですが、襲撃の裏にいる組織は同じです」

「ピラーオルドか」

「十日ほど前の王黎からの報告によると、ピラーオルドは怪魔を操る術を持っているとのことです。ここのところ、国の南方で怪魔が多発していたのもピラーオルドの何か思惑があってのことかと」

「そして今回もか。防衛状況はどうなっている。それと、ピラーオルドがオリジーアの都市部を襲う理由だ。奴らを食い止める方法はないのか」


 ライアンは苛立ち、少し声を荒げた。


「ポーレンヌからアルソーへ、メリフォースからヨルラへ援軍を出しています。そうでなくても、南方に戦力を少し移動させていましたから、被害は出ますがなんとか殲滅できるかと」


 騎士団団長のジャンピエールがそう告げると、ライアンは息を吐いた。自分がこうして会議室で苛立っている間に現場で怪魔と戦い、痛みを負っているのは騎士や操言士、民たちだと自分に言い聞かせる。


「これまでの案件では、ある方面から怪魔が押し寄せ、別の方面で操言士の誘拐が行われた。陽動はピラーオルドの常套手段だろう。それを踏まえて、この状況をどう見る?」

「王黎の報告によれば、ピラーオルドはサーディアと関係を持っています。彼らは国境であるイスコ山地を超えてオリジーアに侵入し、怪魔を操っていると考えられます。もしもアルソーとヨルラが陽動だとするなら、サーディアとサキトス湾を挟んでいるゼルヴァイス城方面が危ないと思われます」


 コリンはライアンにそう答えながらも、果たして本当にそうだろうか、という疑念が消せなかった。

 ピラーオルドが海を越えてゼルヴァイス城方面からオリジーアに侵攻する? 南方の怪魔多発はその目くらましだった? だが、大量の怪魔を連れて海を越えるだけの船がピラーオルドやサーディアにあるのか? 船ではなく、例の円盤を使うのか? それに、何のために? 怪魔は大陸各地に出現する人間の脅威だ。ピラーオルドの狙いはオリジーアだけでなく、セカンディアとフォスニアも眼中にあるのではないか?


「ライアン王、平和民団はそうは考えません。これは明らかに前例のない事態です。過去に起きたことのない事象として、あらゆる可能性を考えるべきでしょう。騎士団、操言士団ともに、全力で民を守るべきです」


 平和民団団長のドナルドが、険しい顔でいかにも重要なことを主張しているといった口調で言った。いつもながら騎士団と操言士団に平然と犠牲を強いる平和民団の発言に、ジャンピエールとコリンはそろって閉口する。

 念押しのように言われずとも、騎士も操言士も常日頃から、国民を守るために身を犠牲にしている。その苦労を知っていてなお、今の発言があるのか。それとも、現場の騎士や操言士の苦労など知りもしないから、そんな発言ができるのか。

 ドナルドに言ってやりたい不満は山のようにあったが、それはこの場面で最も意味のない行為なので、ジャンピエールもコリンも大人の分別でこらえた。しかしドナルドは、さも建設的に話を進めているという態度で続ける。


「ピラーオルドの狙いがわからなければ、こちらは対策のしようがありません。起きた事態に対して後手に回るしかない。騎士団と操言士団の調査はどうなっているんです?」

「調査は進めています。現に、ピラーオルドの物と思われる生活器を発見したうえに、ピラーオルドが怪魔を操っているという情報をつかんでいます」


 コリンはドナルドに向かって、無表情で返した。

 ピラーオルドの調査を国王から命じられてはいるが、ピラーオルドに関しては三公団一丸となって――つまり、平和民団も自分事として取り組まなければならないはずだ。いったいいつまで、平和民団は他人事でいるつもりなのか。

 一方ジャンピエールは、平和民団は相手にせずライアンに向かって発言した。


「ライアン王、騎士と操言士は民を守るために全力を尽くしています。これまでも、これからもです」

「ピラーオルドの調査も、引き続き操言士王黎に進めさせます。平和民団からも、ピラーオルドについての何かしらの報告が上がることを期待します」

「わかった。前線で戦う騎士と操言士のためにも、国一丸となって立ち向かおう」


 ライアンがコリンの要望に同意したかのように頷いた一方で、厄介事をなるべく背負いたくない平和民団のドナルドは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべたのだった。



     ◆◇◆◇◆



「ここは連絡室。最近開発された、連絡用の生活器を使うための部屋にしたんだ」


 道貴がそう言って案内したのは、二階にある小部屋だった。大きめの窓ガラスで採光している室内には大きなテーブルがひとつと、その周囲に背もたれのない椅子が複数設置されていた。そしてテーブルの上には五、六人分の野菜炒めでも盛れそうな大きな銀の皿が二枚あり、その皿の中心には黒い球がちょこんと置かれていた。

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