『バレンタイン』と言う名の恋魔法
2月14日、バレンタイン。
―――この日の、とある女の子のお話。
▪▪▪
前日。
高校生の柴山つばきは、手作りチョコの型どりをしていた。
「あら、つばき。誰かにチョコでも贈るん?」
部屋から出てきた、姉のぼたんがそう話しかける。
「……あ、姉ちゃん。そうだけど」
少し顔を上げて返す。
「ええなあ、青春やなー。ウチも欲しいなあー」
「あーあー、分かったよぉ。姉ちゃんの分まで作っとく」
それを聞いたぼたんは、片手を上げる。
「おおきに、つばき」
「もう、姉ちゃんはおねだり上手なんだから……」
そう言いながら、作業に戻る。
(……あれ?)
通り過ぎようとしたぼたんは、一つだけ違う梱包袋を見つける。
(『本命』、居るんやな。頑張って渡してき、つばき)
心の中でそう願った後、その場を立ち去った。
▫▫▫
―――翌日。
手作りチョコを持って、学校へ向かう。
教室に入ると、友チョコを女子友達に渡していく。
「ねえ、つばき。『本命』って誰かに贈る?」
友達の一人、舞桜がそう言う。
「そ、それは秘密……」
少ししどろもどろになりながらも、そう返す。
「まあ、無理に言わんでええわ……ありがと、チョコ」
手を横に振って、彼女が離れていった。
(本当は、居るんだけどね……『本命』)
隣組の篠谷かおる―――
彼は同じ文芸部所属で、共通の作家が好きなことをキッカケに話すようになった。
……まあ、それがいつしか『好き』って感情を抱いたんだけどね。
(はあ、まだ朝礼終わってないのに今から渡すの緊張してるわ。私らしくない)
『本命』のチョコを作るってこと、実は今回が初めてだった。
それで何時にもなく緊張しているのだ。
(流石に、気持ちを切り替えなきゃ)
そう思い、席に着いた。
▪▪▪
放課後。
この曜日は、全部の部活動が一斉休部という事になっている。
それを狙って、つばきは彼にチョコを渡そうと校舎を出た。
(どこに居るのかな……)
そう思って、校門近くまで寄った時だ。
彼……かおるの姿が見えた。
でも、誰かと一緒に居るみたいだ。
(………!)
もう一人の顔を見た瞬間、表情が固まるのが分かった。
紛れもない、舞桜だ。
そして彼女の手に持っている物は―――
「………ッ」
色々悟ったつばきは、話しかけること無くその場を走り出す。
―――何でか分からない。モヤモヤした気持ちなんだけど、この場を離れることしか出来ない。
歯を食い縛りながら、つばきは走っていった。
▫▫▫
大学受講後のパートを終えたぼたんは、帰り道の土手を自転車で走っていた。
その時、見たことがある制服を着た女子が土手に座っている。
(あれ、つばき?)
自転車を降り、つばきに近づく。
―――どうやら、泣いているようだ。
「……つばき、どないしたん」
思わず、ぼたんが話しかける。
つばきは顔を上げる。
彼女の目は真っ赤で、まぶたがやや腫れている。
「……う、ひっく……」
ぼたんは隣に座り、背中をさする。
「……何があったんやと思うけど、収まるまでゆっくり待つよ」
つばきのカバンに、個包装のチョコを見つけた。
それも『本命』らしき方、だ。
(……なんとなぁく、分かった気するわ)
思ったことが本当か聞き出したいけど、今はそれどころではない。
「あの、柴山さん」
男性の声が聞こえた。
二人がそっちの方を見ると、男子高校生がそこに立っていた。
「……し、篠谷君」
つばきがそう返す。
「柴山さんが立ち去ったのを見て、探していました……今、お話大丈夫ですか」
「大丈夫か、つばき」
「う、うん」
ぼたんは、立ち上がる。
「ほな、またな。あとはお二人でね」
そう言い残し、ぼたんは自転車を押して離れていった。
▫▫▫
こうして、二人きりになった。
「……あの、篠谷君」
つばきは口を開く。
「今日……バレンタインじゃん。本当は、『本命』のチョコを篠谷君に渡したくて。でも、他の子が渡すのを見て……それで」
そう、包み隠さず話す。
もう渡せない、そう思ったからだ。
「実のところ、あの方からのチョコは断りました」
「え?」
思いがけない言葉に、つばきは驚く。
かおるは苦笑いをしながら言う。
「好意を持っていない人から『本命』を貰ったところで、嬉しいとは言えませんから」
意外な展開になった。
―――もしかしたら、そう思いが過る。
「あ、あの」
「はい、柴山さん」
カバンから、チョコを取り出す。
「この気持ち、今更だと思うけど……受け取ってくれますか」
「はい、喜んで」
▪▪▪
つばきは家へ帰った。
「ただいま」
「お帰り、つばき」
「なぁ、姉ちゃん……」
つばきは事を、ぼたんに話した。
「あー、そうやったんねえ。でも渡せて良かったやん」
「うん」
ぼたんはつばきに近づき、頭を撫でる。
「酸いも甘いも、青春の内やで……つばき」
「……うん!」
―――こうして、この日はつばきの『思い出』となった。




