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拓馬の過去

 俺はテーブルに置いた自分のリュックサックに収められていた金を取り出した。その金を進に手渡す。


「こちらの買い取りでよろしいですか?」


 進は貴金属買取店の店員のような笑みを浮かべて尋ねた。


「はい、お願いします」


 俺がそう答えると進は売場の方へ向かった。俺は椅子に腰掛けて査定を待った。


 進が売場へ向かって数十分過ぎた時だった。足音が聞えた。売場の方を見るとトレイを持った進がリビングに入ってきた。問題なかったようだ。進はテーブルの向かい側に椅子を持ってきて座るとトレイをテーブルに置いた。


「十万リーニアフランで買い取りをさせていただければと。よろしいですか?」

「はい」


 この状況に俺と進は笑い出した。元の世界から持ってきた金は十万リーニアフランになった。お金を受け取った俺は進に二階の寝室に案内された。


「ここが空いている寝室だ」

「ありがとう」


 言いながら俺は寝室に入ってリュックサックをベットの上に置き、MP7A2を取り出しながら


「これが何か分かるよな」

「MP7A2。ドイツ製……。おい、あのセリフ言うなよ」

「いや、言うさ。ドイツの銃は世界一イイィィ!」

「コイツ言いやがったぞ」


 進は呆れたように言った。


「USPがあるのに別の銃に浮気か?」


 進が続けて、そう尋ねた。


「違う! 浮気じゃない! 第三の妻のドーラだ」

「ふん」


 進が鼻で笑った。


「USPには、ベルタ。HK416には、クリスタ。MP7には、ドーラか、ドイツばっかりだな。名前とお前の偽名を含めて。本当の彼女すら作れないーー」

「彼女なんか要らない。作る予定もない。お前だってグロック17に初恋相手の名前を与えただろ。今も彼女いないだろ?」


 俺は進の言葉を遮って言った。


「そうだよ……。僕も、お前が何も変わってなくて安心したよ。拓馬」

 進が答えた。


「ちょっと、やる事があるから、くつろいでいて」


 進はそう言うと寝室から退室した。


 一人になった俺は身につけている装備を確認した。フレイムウルフとの戦闘でUSPのマガジン二個と手榴弾一個を消費した。

 リュックサックから小型ヘッドセットを取り出した時、不意に曾祖父のことが頭をよぎった。小型ヘッドセット耳に装着して、ダメもとでムー世界調査本部に通信する。


「こちらギフ(ワン)。本部応答せよ。本部! 頼む!」


 返答はなかった。


 俺がため息をついた時だった。


ドアをノックする音。


「拓馬?」


 数十秒間をおいて、再びドアをノックする音。


「ドア開けるぞ」


 ドアが開けられる音。

 後ろを振り向くと進が部屋に入っていた。


「ノックぐらいしろよ」

「したけど返事がなかったんだ……。大丈夫か?」

「すまない、ちょっと考え事を……」

「どうした? そんな深刻そうな顔をして」


 進は言いながら俺の耳に装着した小型ヘッドセットに気づいたようだった。


「ダメもとだ……。念のため、一週間後に報告する」


 俺は言いながら小型ヘッドセットを外し、机の上に置いた。


「元の世界に問題を残したまま、こっちの世界に転移したから……」

「一人で悩むな。俺達は最高の相棒だろ。話せる範囲で話してみろよ。気が楽になるかも」

「ありがとう。どっちみち、お前しか話せる相手はいないからな……」


 俺は話せる内容を頭の中で選別して進に話した。


「いろいろあったんだ。まず、お前が全時代行方不明になった後、極端な歴史改変が発生したんだ。すべての元凶は日本の武装歴史改変グループーー戦艦大和を崇めるグループだ。奴らが行った歴史改変にレッドストーム、他の歴史改変組織が介入したんだ。詳しい内容は話せないが、歴史は修復されたはずだったんだ……。なのに、実家に帰ったら曽祖父が生きているんだ!」

「ッ!? 曽祖父、戦死したはずでは……」

「史実ではそうだった。改変世界が生み出した矛盾で修復もできない……」

「何があった?」

「それが分からないんだ」


 史実では曽祖父は坊ノ岬沖海戦の大和で、アメリカ軍機の機銃掃射を受けて戦死していた。


「戦死した曽祖父が生きているという矛盾の影響は、俺と時間警察関係者以外の人間が存在しないはずの曽祖父の歴史、曾祖父は太平洋戦争を生き延びたと認識してしまったことだ……。進、俺はどうすればいいんだ?」


 俺の脳裏に時間警察を退職という言葉が浮かんだ。


 進は考える表情を浮かべ、


「……すまない、分からない……」

 

と答えた。


「それで、いいんだ。進、修復作戦すら無駄だった……。時間管理本部とその上の連中は無能だからな」

「そうか?」

「もし、有能なら、元の世界にタイムマシンなんか存在しない!」


 俺は断言した。話を戻して、進に俺が関わった捜査について説明した。


「日米歴史改変者によるグレート・パシフィックウォー計画。1931年に日米が衝突したら?という歴史改変の観察を目的とした時間犯罪ーー」

「加賀型戦艦や十三号型巡洋戦艦、巡洋戦艦のレキシントンを見たかっただけだろうな」


 進が遮って言った。


「その通りだ」


 俺はそう答え、話を戻した。 


「天一号作戦が成功し、大和が沖縄の海岸に座礁。46センチ砲を備えた要塞としてアメリカ軍を砲撃するという歴史改変。大和をサンフランシスコのゴールデンゲートブリッジの下をくぐらせる歴史改変。オイ車と六号重戦車を日本本土決戦で戦わせる歴史改変の妨害。これらの捜査、時間犯罪者を逮捕したんだ」


「六号重戦車ってドイツのティーガーのことだろ?」

「ティーゲルだ。20世紀の時代の作戦ばかり、俺ら21世紀局所属なのにな。1945年日本支局も無能だ。日独が戦う歴史改変にはもう飽きた……。なんで、みんな歴史を変えたがる?」

「……僕らのことはどうなるんだ?」


 進が尋ねた。


「俺らの事はカバーストーリーでなんとか誤魔化してくれるだろう」

「そうか……それなら、いいけど……」

「ああ、あと、その日は非番だったが、21世紀に現れた22世紀の時間犯罪者の逮捕に協力した」

「他には?」

「あとは……。とあるゲーム機を史実よりも大人気にさせて、2009年に発売されたゲームの続編ーー史実では中止された開発、発売を行った時間犯罪者を逮捕したんだが、俺とおまえを足したような奴だったな。動機が面白くて、『そのゲーム機のことを友達に話したら何それ? 車? って言われたんだよ』って文句言ってた」


 進が笑い出した。俺もそれにつられて笑みを浮かべた。


 この時、俺はレッドストームの罠で大勢の仲間を失った事を言わなかった。いや、伝えられなかった。取り乱すと思ったからだ。


 極端な歴史改変が修復された後、レッドストーム撤退作戦の陽動として行われた作戦ーーニセ情報で時間警察特殊部隊を誘き出し、アンデッド部隊でこれを叩くーーで、時間警察特殊部隊は奴らによって大変な目に遭わされた。


 その時、日本支部21世紀局特殊部隊のほとんどがレッドストームを壊滅させるために出動したにもかかわらず、最初の戦闘で包囲され、大勢の仲間を失った。

 倉庫に突入した俺の所属する部隊はレッドストームの戦闘員および、アンデッドと交戦。結果、俺の部隊は俺と一部の隊員を残して壊滅。隊長、副隊長が死に、作戦は失敗。

これが陽動だと分かった時には、レッドストームはどこかの時代に撤退し、行方をくらました。時間警察はレッドストームを深追いしすぎ、戦車隊と航空機の攻撃によってさらに部隊を失い、重大な被害を被る事になった。レッドストーム撤退作戦成功の一因はここにあると言われている程だ。


 俺と進は共に島流しの状態だ。俺は仲間を連れてこなかったというミスを犯した。進がいなければ耐えられないだろう。

 俺は辛い過去の出来事を思い出してしまった。考えていくうちに不安に駆られた。なんで、こんな事をしているんだろう?唐突にそんな考えが頭をよぎる。そして、絶望感に包まれた。


「拓馬、何があっても僕はお前の味方だ。見捨てはしない」

「約束してくれ、一緒に元の世界に帰ると」

「もちろんだ。約束する」


 進は言いながら、励ますように俺の肩を叩いた。


 時間警察を退職することは仲間を大勢失ったことと共に元の世界に帰れたら話そう。俺は気持ちを切り替えた。

読んでいただきありがとうございます。

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