キールの雑貨屋
「うぅ……。飲みすぎた」
顔が赤い進の肩を組んで帰宅した俺はリビングの椅子に進を座らせ、コップ一杯の水を渡した。
「まさか、異世界で再会するとは思わなかったよ」
「そうだな」
しばらくして、俺は酔いが覚めたらしい進に話しかけた。
「今後についてだが……」
「ああ」
進は話を聞く姿勢になった。
「俺の理想は、調査隊を捜索しつつ元の世界に帰還する方法を調べる。元の世界に転移したらレッドストームを捜査するべく、特殊部隊をムー世界に送り込む……。進、地下室はあるか?」
「ある。機密捜査か」
「そうだ。地下室を拠点にしたい」
「了解だ」
「他に元の世界に帰還する方法を探している奴はいるか?」
「僕が知っている限り……いない」
「そうか……」
進が立ち上がりながら左手で持っていたコップをテーブル、俺のリュックサックの隣に置き
「地下室はあっちだ。物置部屋、作業部屋としても使っている」
左手で地下室へ続く階段を示す。
地下室へ降りていくと、進はドアの前に立ち止まり、紐に繋がれたカードケースを取り出し、そのカードケースに繋がれた鍵を鍵穴に差し込み、ドアの鍵を開け
「では、お入りください」
と言った。
「灯かりは?」
俺は尋ねた。
進が壁に取り付けられたボタンを押すと、暗い地下室から薄暗い地下室に変化した。地下室には作業机と棚が置かれていた。
「魔道具の力だ」
「そうか」
俺がそう言うと進は作業机の方へ歩いていき、作業机の上に置かれたメモ帳を俺に差し出しながら言った。
「お前以外見せていない」
俺は差し出されたメモ帳を受け取り、何枚か、めくった。そのうちの一枚に目を止める。汚い字でこの世界と元の世界との共通点が多い事が書かれていた。
「見せてないじゃなくて、見せられないじゃないか?」
「まぁ、そうだけど……」
「字が汚くて」
「悪かったな。字が汚くて!」
「いや、何も変わってなくて安心したよ。進」
「この世界にパソコンがないから、手で書かないといけないんだよ。めんどくさいし、手は汚れるし、最悪だ」
「それで、何か分かったことは?」
「今はアルティラス暦500年、6月10日。このアルティラス暦というのは、魔王を倒した記念に作られたんだが……。魔王を倒した初代勇者が元の世界の時間犯罪者の可能性があるんだ……」
「根拠は?」
「ヴンダーヴァッフェ」
進はドイツ語ーーいや、チェルガン語で答えた。
「ヴンダーヴァッフェ?」
ヴンダーヴァッフェはドイツ語で奇跡の兵器だ。
「それが、図書館にあるアルティラス歴史書に記載されていて、その描写が元の世界の兵器としか思えないんだ」
「それは書き写ししなかったのか?」
「めんどくさい。明日、定休日だから、この街の図書館に行こう」
「分かった」
俺は改めてメモ帳を見た。
進は自分で調べた内容をメモ帳にメモしていた。字は汚いが……。要約すると
自分がいる惑星は「地球」と呼ばれており、太陽や月も存在していること。太陽は東から上り、西へ沈み、元の世界と変わらない。
アルティラス大陸はムー大陸に酷似している。そして、この世界の創造神を崇めている宗教が存在している。
アルティラス大陸には10の国があり、自分がいる国はリーニア王国。海は大西洋があり、東側は大東洋と呼ばれている。
言語は元の世界と同じ言語が使われる。世界各地で英語(標準語)、チェルガン帝国ではドイツ語(チェルガン語)が使われている。
化学技術は中世ヨーロッパに近いが魔法が発達している。
リーニア王国の気候は日本と同様に四季がある。そして、カレンダーも元の世界と変わらない。
それらの事を踏まえて元の世界と共通点が多く、元の世界の時間犯罪者が異世界に介入したとしか思えない。
中世ヨーロッパ風のゲームみたいなファンタジー世界と言うべきか?と締めくくられていた。
書かれている内容は概ねブリーフィングで聞いた内容と同じだ。
俺は顔を上げ、作業机の壁を手で示して
「ここの壁一面にドイツ製の銃を飾りたい」
「お前は僕の家を犯罪組織のアジトにしたいのか? というか、そのドイツ製の銃はどこに?」
「冗談さ」
「お前なら、やりかねない……。そうだ、思い出した。金を買い取りするぞ」
進は話題を変えた。
「いつから鑑定士になったんだ?」
俺は尋ねた。
「商人になった時に」
進は答えた。
俺と進はリビングに戻った。
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