酒場
酒場に向かう道中、進と肩を並べて歩きながらマリーニ街の話を聞いていた。
マリーニ街は三方を自然の防壁となる川に囲まれた丘の上に建てられ、残る一方(東側)には城壁、堀などが築かれた。街の中心部には中央広場がある。酒場はその中央広場から南の橋の近くにある。進の話によると料理、酒が安く、質が良いそうだ。
「ーーあと歩くのが早いぞ。僕に合わせてくれ……」
「それ、クエストを手伝った少女にも言われたんだが……」
「その話詳しく、転移してから僕に再会するまでの話をしてくれ」
テーブル席についた俺達はメニューを取った。
「ここのビールは最高だぞ」
雑多な種族がひしめく賑やかな店内を見回した俺に進が話しかけてきた。
「どんなのがある?」
俺が尋ねると進はニヤリと笑った。
「お前の大好きなドイツビールみたいなやつだ。僕のおすすめは……。えーと」
と言いながらメニューから何かを探す。
「あった。チェルガンビール。これだ」
言いながらメニューを俺に見せる。
「最高だ」
俺と進はビールとポトフに似た料理を注文した。待っている間、俺は転移してから再会するまで何があったかを進に話した。
「ーー臨時で報酬を貰った後、女に絡まれて、そして捜査の現場に出くわしたところにお前が話しかけてきたんだ」
「その美少女二人について詳しく」
「どうせ、元カノのように裏切るクソ女さ」
「それは言い過ぎでは」
「そうか、まぁ二度と会わないが」
俺が話し終えたタイミングでウェイトレスが注文したビールと料理を運んできた。すぐにジョッキを持って
「最高の相棒の再会に乾杯だ」
「「乾杯!」」
ジョッキをぶつける。
俺はジョッキを口に運び、ビールを口の中に流し込む。甘く、まろやかでフルーティーな小麦ビールだ!
なんてことだ!異世界にもこんな美味しいヴァィスビアがあるなんて!
「ワインはどうだ?」
俺は進に尋ねた。
「ああ、チェルガンワインね。とても良いよ。そういえば、お前の20歳の誕生日にお前の母親が辛口のドイツワインをプレゼントしたな」
「そうだ。本当はドイツビールを飲もうと決めていたんだけどね」
この話は進にしか話したことがない。
「お前はドイツビールのイベントで飲みすぎたよな。今回も飲みすぎるなよ」
「分かっているさ。飲みすぎないように気をつけるよ……。というか、お前はお酒に強すぎるんだよ」
「なんで、一人で来たんだ?」
「いろいろあったのさ」
「そ、そうか……。今は聞かないほうがいいかな」
「そうしてくれ」
「……この後はどうする?」
進が尋ねた。
「元の世界から持ってきた金を売る、どこか、金を買い取りできる所はあるか?」
「僕が買い取ろうか?」
「お前が? お前の店、雑貨屋だろ」
「相場で買い取りしてやるよ。商人だからな」
「そうだったな……。その後は宿屋を探すよ」
「同居するか? 寝室の一つが空いている」
と進が言い、笑いかけた。
「いいのか?」
「相棒だからな」
「ありがとう、キール」
俺は進の偽名を使った。進は周囲を見回すと
「明日は、ちょうど定休日だから、図書館と冒険者ギルド……。あと、武器屋にも行かないとな」
「そうだな……。昔のパーティメンバーを見つける間、この街にどのくらい滞在するか分からないから、生活費を稼ぐためにも冒険者に登録しないと」
最後に進とビールを飲みながら会話したのはいつぶりだろうか? いや、そんな事はどうでもいい。
「そろそろ行こうか」
俺達は勘定を済ませて、酒場を後にした。
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