相棒
連れてこられた場所は、キールの雑貨屋と書かれた二階建てのこじんまりした店。その裏口に連れてかれる。
男は鍵を開け
「中に入れ」
俺はUSPタクティカルを引き抜けるようにホルスターに手を伸ばす。
奥へ歩いて行った。
ドアが閉まる音。
俺はホルスターからUSPタクティカルを引き抜きつつ、素早く男の方に振り向き、男にUSPタクティカルを突きつけた。同時に男も俺に拳銃を突きつけた。
「その銃、ドイツ製だな。俺はレッドストームじゃない」
男は日本語で喋り始めた。俺に突きつけた拳銃を下げる。俺も男に突きつけたUSPタクティカルを下げた。転移してから気づかなかったが、俺はムー世界標準語で会話していた。
「その拳銃、グロック17の第四世代だな。サプレッサーにフラッシュライト。その銃に小学生時代の初恋相手の名前、クルミと名付けた。お前の名前は佐藤進。年齢は俺と同じで誕生日は8月31日で左利き。出身地は日本、岐阜県多治見市。時間警察日本支部21世紀局のエージェントだ」
俺は日本語で言った。
「すべて正解だ。お前の名前は加藤拓馬。年齢は僕と同じで誕生日は8月19日。身長は180センチで右利き。出身地は日本、岐阜県岐阜市。ドイツ好きでUSPタクティカルにベルタと名付けている。使用弾薬は9×19ミリパラベラム弾。弾薬を共有するためにグロック17を選択したんだ」
「すべて正解だ」
俺と進は拳銃を自身のホルスターに収めた。
「合言葉は?」
俺は質問した。これで本当に相棒か分かる。
「「最高の相棒」」
なんと表現すればいいのか分からないほど驚きと喜びが混じった感情に支配された。
「進……」
「拓馬……」
俺と進は思わずハグした。
全時代行方不明だった相棒の佐藤進……。異世界で再会した。
まさか、こんな異世界にいるとは思わなかった。元の世界で全時代行方不明だったのも当然だ。なぜなら、別の世界にいるのだから。
「会いたかった」
「ああ、俺もだよ」
「まさか、こんな世界にいたなんて」
「お前こそ、どうやって異世界に……。まさか! 転生!」
「いや、違う、転移ゲートでこの世界に、お前は?」
「レッドストームに無理やり転移された」
「今、なんて!」
「レッドストームだ。彼らはこの異世界に潜伏している」
進から驚きの内容を聞かされた。
「……そうか、今すぐ本部に連絡したいが……。通信が切断された上、転移ゲートが閉じられたから元の世界に帰還すらできない」
「どうして、この世界に?僕を探しに来たのか?」
「いや、調査隊の捜索だ」
俺は相棒の進にブリーフィングの内容を共有した。
半年前、時間警察日本支部21世紀局が追跡していた時間犯罪者が、このファンタジー世界の逃走したこと。
そのファンタジー世界のアルティラス大陸が伝説のムー大陸に酷似しているため、この異世界をムー世界と名付けたこと。
そして一か月前、調査隊を編成。木戸を含む武装したエージェント三名がムー世界に潜入。
彼らはリーニア王国のマリーニ街に滞在して、情報収集していたが、通信途絶。今回の任務に至ること。
「ーー俺の任務はファンタジー世界の冒険者としてムー世界に潜入し、調査隊の捜索、ムー世界に関する情報収集の二つだ。もし調査隊が全員亡くなっていた場合、装備をすべて回収しなければならない……。以上が俺の任務だ……。一人で転移したからーー」
「僕も協力するぞ、相棒だからな」
俺が進に協力を要請する前に進は俺の言葉を遮って協力すると宣言した。
「ちなみに、マリーニ街で木戸を含むエージェント三名を目撃したことは?」
「すまない。見てない」
「そうか……。ところでキールは偽名か」
俺は話題を変えた。
「そうだ。ドイツ好きで、お酒が好きなお前なら気づいてくれると思って」
進はそう答えた。キールはドイツの都市の名前であり、お酒の名前でもある。
「俺の設定はチェルガン帝国出身の冒険者で昔のパーティメンバーを尋ねるためにリーニア王国、マリーニ街に来た。名前はヴァルター・ケーニヒ」
「その昔のパーティメンバーは調査隊三名のことだな」
「そうだ」
「ところで、お前の見た目」
進は俺をじろじろ見ながら
「SF映画の悪役みたいだ。赤いーー」
「笑える。21世紀局の時間管理官にも言われた」
俺は進の言葉を遮って言った。
進が笑った。
「そうだ、ID見せろ」
俺は進に要求した。
「お前もな」
進も俺に要求した。
お互いにお互いのIDを見て確認する。
「問題ないな」
俺は進のIDを進に返しながら言った。
「こっちも問題ない」
進も俺のID返しながら言った。
「あの時、なぜ俺だと分かった?」
「ああ、さっき、女に絡まれていただろ。その時の会話で『お前はどっちの人間だ?俺を裏切る者、死ぬ者と』と発言していた。僕が知る限り、そのようなこと言う人物は元カノに裏切られた親友であり、相棒の拓馬、お前しかいない」
と言いニヤリと笑った。
「進、お前には何があった?」
進は自身の過去の出来事を語りだした。
一年前、潜入捜査中にレッドストームにバレたらしく、気づいたら洞窟の中に連れてこられ、檻の中にいた。
そこでエルフの子供を見て驚いて、他の囚われた者たちに話を聞き、ここがファンタジー世界だと理解したそうだ。
その後、看守の目を盗んでクリップでピッキングして鍵を開け、装備を取り戻し、レッドストームの戦闘員からAKS-74Uを奪い、囚われた者たちと脱出。
その際、マモルと名乗った冒険者とパーティメンバーに感謝された。
マモルたちの話によるとリーニア王国にはブラッククロスという盗賊団が存在しており、進はレッドストームと何らかの関わりがあると推測。
実際にブラッククロスの一人がマカロフを所持していたそうだ。
マモルたちにはブラッククロスが未知の武器を使っているというカバーストーリーを与えた。
彼らは協力者として情報を収集、共有している。進は冒険者として変装し、キールという偽名を使って情報収集を行い、マモルの出身地のマリーラ村へ。そこからマリーニ街にたどり着いた。
そこで、元の世界の物や左利き用の道具、フィギュアや模型を作り、販売して、成功してしまった。
マリーニ街で転生者、転移者と接触し「悪魔の森」の存在を知り、マリーニ街の中古物件を安く買い、 元の世界に帰還するために調査を独自に開始した。
悪魔の森とは、別の世界から転生、転移した人たちが出現する森で、悪魔がこのようなことをやっているのではないかと噂されている。俺が転移したダンジョンも悪魔の森の中に存在する。
進は冒険者兼商人として活動する。その裏で、非公式にブラッククロスに関する捜査に協力していた。マリーニ街に自分の店を置いたのは元の世界に帰還できる可能性が高い「悪魔の森」を調査するためだった。
「他にレッドストームの存在を知るものは?」
俺は進に尋ねた。
「いや、いない。カバーストーリーで誤魔化している 」
「それで、何か分かったことは?」
「帰還に関する情報は何も……」
俺は自分が転移したダンジョンについて共有した。
「そんなダンジョンが悪魔の森に存在するとは、知らなかった」
「転移ゲートは閉じられたから、島流しの状態だ。元の世界からムー世界に繋がるゲートがあるなら、こちらの世界から元の世界に繋がるゲートを開くこともできるはずだ」
「そうだな、この異世界で活動するなら身分を冒険者にすれば都合がいい。冒険者ギルドで登録しよう」
「ああ、そのつもりだ、お金も稼がないといけないしな」
「次はお前の番だ。僕のいない間、何があった?」
「進、お前のいない一年、最悪だった。お前ですら話すことができない極端な歴史改変が発生して……。本当に最悪だった……」
「てことは、時間管理本部より上の連中が直接介入したのか」
「そうだ……。だが、話したくない……」
「分かった。無理に話さなくてもいいさ。話したくなったら、いつでも話してくれ」
進は察してくれた。
「奴らがこの世界に存在する証拠はあるか?」
俺は進に尋ねた。
「ある」
進はそれだけ言うと部屋の隅に置かれている金庫に歩いていき、ダイアルを回す。
進は周囲を警戒しながら見回すと金庫を開けた。
布に包まれた物を取り出し、それを近くのテーブルに置く。
布を取る。現れたのは、このファンタジー世界に存在してはいけない武器AKS-74Uレッドストーム仕様だった。
マガジンは抜かれている。
「コイツを奪って逃げることができたんだ」
俺に振り向きながら進が言った。俺はAKS-74Uを手にとり、構えた。
「極端な歴史改変が修復された後、奴らの戦力の一部が全時代行方不明になったんだ。まさか、こんな世界に逃げ込んで潜伏していたなんて」
「レッドストームの目的はなんだろうか?」
「それが分からない」
俺は言いながらAKS-74Uをテーブルに置き、布で包み、進に渡す。
「元の世界ではレッドストームの残党が『聖なる戦い』のアレンジバージョンを歌いながら時間警察に復讐を開始したんだ」
「この世界に存在するレッドストームは、この異世界の乗っ取りを計画しているのだろうか」
進は言いながらAKS-74Uを金庫にしまい、鍵をかけた。
「その可能性が高いな……。そうだ、一応、調査隊三人の写真を持ってきたんだ」
「この世界にはまだ写真の技術はないが……。まぁ、絵を描くのが超上手い人が描いたことにすれば誤魔化せるかも……。そうだ、酒場に行こう。再会したお祝いさ」
進は唐突にそう言い話題を変えた。
「相棒に再会できたんだ。おごらせてくれ」
「お前に渡すものがある」
俺はリュックサックをテーブルに置き、リュックサックの中からお守りとマルチツールを取り出して
「お守り、落としただろ? あと、これは誕生日プレゼントとして渡す予定だったマルチツールだ」
俺は進にお守りとマルチツールを差し出した。
「……ありがとう」
進はお守り、マルチツールを受け取り、マルチツールをポケットに収め、紐に繋がれたカードケースを取り出し、お守りをカードケースにしっかりと結びつけた。カードケースには紐に繋がれた鍵も結びつけられていた。
「これで落とさない」
進は言った。
「ここは……」
俺は部屋を見回した。
「リビングか?」
「そうだ。あっちには売場がある」
店の正面、売場へ歩きながら
「そのメガネは変装用か?」
「そうだ、これを身に着けるだけで、奴らは僕の正体に気づけない。相当なアホな連中だ」
俺は店内を見回した。雑貨屋らしく、様々な商品が並べられていた。
棚には見事な塗装が施された人形や模型が並べられていた。人形や模型は塗装だけではなく、造形も見事だった。
「フィギュアや模型も売られているのか……。ここ、雑貨屋だろ? キールの模型屋に変えるべきだな」
「今日は閉店だ」
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