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二つの世界で

 元の世界 日本 ██県 █市 現在


 半年以上前、我々、時間警察日本支部21世紀局が追跡していた時間犯罪者がゲートを通過して魔法が存在する別の世界、異世界へ逃亡。エージェント木戸が、そのゲートを通過して追跡した。


 二か月前、木戸を含む武装したエージェント三名がムー世界に侵入、通信途絶した。


 一か月前、隊長の加藤拓馬が【ムー世界】と名付けられた異世界へ単独で侵入。その直後、大規模な歴史改変が発生し、転移ゲートは閉じられた。史実に修復できたものの、ゲートは今も閉じられたまま復旧できていない……。


 そして、別の任務で活動していた我々のエージェントからの通報を受け、今回の任務に至った。

 俺はバンに乗っている。他の隊員達とともに、夜の闇に紛れて。


「彰人隊長?」


 俺の思考は張りのある声によって現実に引き戻された。頭を上げ、声の主に視線を合わせた。女性隊員の佐々木美香だ。


()()()だ」


 俺は答えた。今の部隊は俺を含めて四人しかいない。


「なぜ、隊長は単独で……」


 清水和彦の心配する声。


「拓馬隊長は一人で苦しんでいるはずだ。必ず見つけ出して、助ける。分かったな?」

「仮に異世界に行ったとして、干し草の山から針を捜すようなものだぞ」


 村上英一が言った。俺がそれに答えようとした時、運転手が”着くぞ”と知らせた。

 バンから降りると周囲は街灯すらない家が立ち並ぶ一角だった。ヘルメットに装着されている四眼のナイトビジョンゴーグルを下げた。起動すると視界が暗闇の世界から緑の世界に変化した。俺は無線機の送信スイッチを押した。


「ギフ(ツー)から本部へ、ポイント”アルファ”を通過、対象の建物に接近中。オーバー」

「了解した。アウト」


 男の声が返答した。隊列を組んで流れるように対象の民家へ接近した。平屋の民家まであと半分ほどに差し掛かった時、正面玄関のドアが開き、男が出てきた。アサルトライフルを肩から下げている。

 俺は声を落として言った。


「止まれ、男一人出てきた」


 男は煙草を口にくわえるとライターで火をつけた。その姿は、ナイトビジョン越しに見る緑の世界では酷く目立った。構えていたHK416の上面に装着したエイミングデバイスから照射されている緑の点を男に合わせた。

 男がこちらを見つめた。くわえていた煙草を落した。アサルトライフルに手を伸ばす。

 俺はトリガーを指切りして三連射した。サプレッサーのあまり響かない銃声が響いた。男は倒れた。

 周囲に視線と銃口を向けながら駆け寄り、倒れた男からアサルトライフルを取り上げる。

 64式カービンだ。


「容疑者一名制圧」


 英一と和彦に裏口に回るように指示を出した。俺と美香で正面玄関のドアへ近づいた。



 ムー世界 リーニア王国 マリーラ村の北東にある廃鉱山 現在


 廃鉱山の詳しい内容と場所を教えてもらった俺は編成した部隊を引き連れて地図に記された場所へ向かった。

 途中、リンから負傷した相棒は回復中であること、輝男が死亡したことを告げられた。

 廃鉱山には一時間ほどで到着した。舗装されていない道の端、木々の茂る森から姿勢を低くして偵察した。

 廃鉱山の入り口には複数の言語で『関係者以外立ち入り禁止』とある看板。その手前に警備兵が倒れている。横には小屋。トラックにUAZ-469四輪駆動車、BRDM-2偵察戦闘車、T-55中戦車が一両ずつ。その周囲を数人の戦闘員が警戒しながら、歩いている。


「タクマ、大丈夫?」


 後ろにいるベルが聞いた。


「ヴァルターだ。偽名を使え」

「分かったわ、ヴァルター、大丈夫なの?」

「何が?」

「相棒の佐藤進ーーいえ、キールのこと」

「回復中なんだろう、何も問題ない」

「あなた自身は?」


 俺はその言葉を無視した。


「あのウォーマシンは?」


 横にいるリンが尋ねた。俺は視線をT-55に向けたまま答えた。


「村で戦った装甲戦闘車両を超える性能を持ったT-55中戦車だ。幸い、側面を晒している」

「私たちの攻撃魔法で破壊できるでしょうか?」


 シオリが聞いた。俺はシオリとマノに顔を向けた。

 彼女らの魔法攻撃でT-55の側面装甲を貫けるか? 進は『ドイツ戦車に例えるならパンター』と言っていた。魔法攻撃がパンター、いやパンテルの主砲、7.5cm KwK 42並の貫徹力なら、側面装甲を貫けるはずだ。


「ああ、可能だ。先制攻撃で仕留める」


 俺は前方に視線を戻した。正面のT-55を見ながら言った。


「マノは、そこにいるT-55戦車の車体側面を狙え、シオリは、あそこのBRDM-2やれ」


 二人の魔法使いに攻撃目標を割り振った。


「それ以外は戦闘員を」


 俺はセーフティを解除したMP7A2に装着されているホロサイトのレティクルを一番近くにいる戦闘員に合わせた。二人の魔法使いが詠唱を開始した。数十秒経ってからシオリとマノが言った。


「「準備完了」」

「3でいくぞ。3…2…1」


 俺はトリガーを引いた。それを合図にいくつもの魔力弾、攻撃魔法、矢が放たれた。

 T-55の砲塔のハッチから上半身を出していた戦闘員が砲塔の中に身体を滑り込ませようとーー

 魔法の矢が戦闘員の上半身を吹き飛ばした。一瞬遅れて緑に光る二本の魔法の矢がT-55戦車の側面とBRDM-2偵察戦闘車を貫いた。T-55が黒煙と炎を噴き出して爆発した。

 森から出ると戦闘員たちに銃弾を送り込んだ。


 数分後、戦闘は終わった。小屋に二人の警備兵の死体があった。看板の手前で倒れていた警備兵から事情を聞く。重傷を負っていた。シオリが治癒魔法をかける。


「ありがとう……」

「何があった?」

「突然、鉄のモンスターに襲われてーー」

「中には誰か入っていたか?」


 俺は遮って聞いた。


「クモ男たちが鉱山へ入っていった」

「クモ男?」


 冒険者の男が尋ねた。


「暗視装置を装備した少数精鋭の部隊だ」


 俺が答えると警備兵が聞いた。


「他の二人は?」


 俺は頭を横に振った。


「そ、そうか……」


 俺はMP7A2のマガジンを抜いて新しいマガジンを差し込み、シオリに尋ねた。


「中に何人いる?」

「五人はいます」

「シオリ、ベル来い。残りは後始末を頼む」


 俺は言って、入り口の前に向かった。シオリとベルが近づいてから鉱山内部へと侵入した。



「ブレーカーを落とす」


 裏口に向かった隊員が無線で伝えた。次の瞬間、家の明かりが消えた。俺と美香で正面玄関の左右に分かれる。


「3で突入するぞ」


 俺は無線で伝え、ギフ(スリー)の鈴木美香にドアを開けるように指示した。


「3…2…1、突入」


 美香がドアを開けた。素早く中に侵入する。同時にガラスの割れる音。裏口からも侵入した。

 左右に分かれてクリアリングする。

 次々とやって来る「クリア」の報告。一階には誰もいない。一階をクリアリングした。俺は地下室へ移動すると命じた。地下室へのドアに接近した。ドアの隙間から微かに光が漏れている。

時間警察(TP)だ!」


 と地下室から叫び声と遠ざかる足音。同時に銃声が響いた。ドアが穴だらけになる。

 俺はドア口の横の壁に身体を押し付けた。反対側にいるギフ5の和彦が合図した。俺の横にいる美香が肩を叩いた。ナイトビジョンゴーグルを上げた。閃光手榴弾を取り出して、安全ピンを抜いた。地下室に投げ入れた。

 炸裂音、閃光。

 閃光手榴弾の爆発と同時に地下室へ突入する。

 悲鳴がいくつも聞こえる。目が、目が、という罵り声。数人がパニックに陥り、うめき、もがいている。

 階段を駆け降りると直視できないほど輝いているゲートが視界に入った。

 ブリーフィングで聞かされた異世界へのゲートだ。手前には制御卓。

 ゲートと制御卓を何本かの太いケーブルが接続されている。

 制御卓の後ろから数人の男が姿を現すと銃を乱射した。すぐに遮蔽物へ隠れた。


「行け! 行け! 行け!」


 遮蔽物から出ると銃弾を浴びせた。

 二人が倒れた。

 その間に数人が向こう側の世界へ飛び込んだ。


「クソッ! 厄介な状況になったぞ」


 俺は無線機の送信スイッチを押した。



 しばらく坑道を進むと直視できないほど奥が青白く輝いていた。


「眩しすぎる」


 ベルが言ったその時、シオリが念話で警告した。


『三人現れました』


 次の瞬間、いくつもの銃声が響いた。俺はMP7A2を構えながら、先を進んだ。

 銃撃戦の光景が見えてきた。

 MP7A2の上面に装着したエイミングデバイスから照射されている緑の点を男に合わせた。

 トリガーを引いた。4.6×30ミリ弾を喰らわせる。

 すぐに照準を別の男に合わせる。

 銃弾が男たちを切り裂き、薙ぎ倒した。

 前方を確認した。

 横たわる死体。


「ッ!? ()()()()から誰か来ます!」


 シオリが叫んだ。


「隠れていろ!」


 俺は叫び返して、坑木(こうぼく)の陰に隠れた。

 ゲートから黒い人影が現れた。


「なんだ、これは!? さっきまでーー」


 黒い人影が俺の横に来た。


「武器を捨てろ!」


 俺は飛び掛かるように相手が持っている銃を掴んで叫んだ。MP7A2を突きつける。


「拓馬隊長ッ!?」


 相手が答えた。俺は慌てて銃口を逸らした。


「林彰人」


 黒い影の正体は四眼のナイトビジョンゴーグルを装備した黒い装備に身を包んだ味方だ。後ろに続く隊員が銃口を逸らして言った。


「なんだよ、拓馬かよ。顔を吹き飛ばすところだった」


 更にゲートから同じ黒い装備に身を包んだ二人が現れた。


「噓でしょ……拓馬隊長!?」


 喜びと驚きが混じった美香の声。


「これでギフ部隊復活だな!」

「本部にッ!? 武器を捨てろ!」


 林彰人はHK416を構えた。エイミングデバイスから照射されている緑の点をシオリに合わせた。


「撃たないで」

「銃を下げるんだ」


 俺は彰人に命じた。彰人は構えたHK416を下げた。


「彼らは?」


 シオリが尋ねた。


「彼らは味方だ」

「魔法使いにエルフだと!? 本当に異世界に来てしまったようだな……」


 和彦が嬉しさを滲ませた声で言った。彰人が片手で口元をおさえた。


「めまいと吐き気が……」

「俺もこの世界に来た時もそうだった」


 俺が答えると隊員達全員がふらつき、めまい、吐き気、鼻血など体調不良を訴え始めた。


「タイムマシンよりも酷いぞ」


 彰人が言った。


「シオリ、全員に治癒魔法かけろ」


 俺は命じた。シオリは杖を隊員達に構えると無詠唱で治癒魔法をかけた。


「凄い! マジで魔法使いじゃん! ありがとう!」


 和彦が真っ先にシオリにお礼を行った後、俺に尋ねた。


「何語で会話すればいい?」

「日本語で大丈夫ですよ」


 流暢な日本語でシオリは答えた。

 俺は、相棒の佐藤進はレッドストームのクズ共と一緒に、この世界にいること。相棒は戦闘で重傷を負って、回復中であること、その戦闘で【旭日の夢】元メンバーの一人の輝男が死亡したことを隊員達に報告した。


「念のため、IDカードを見せろ」


 副隊長の林彰人が言った。俺は従った。自分のIDカードを取り出して、差し出した。彰人はIDカードを受け取ると念入りに確認した。


「問題ない」


 言って、IDカードを返した。俺はそれを受け取り、尋ねた。


「それで、今の隊長は誰だ?」

「俺でした。隊長」


 彰人は真っ直ぐ俺の顔を見ながら答えた。隊員全員が俺を注目している。


「そうか、分かった。とりあえず、外に出よう」


 ()()()()への出口へ向かった。鉱山の外に出ると


「敵か!?」


 外で待機していたリンが叫んだ。一斉に武器を構えた。


「味方だ!」

「ダークエルフか、いいね!」


 和彦が言った。


「指揮官は誰?」

「俺だ」

「それじゃ、彼らは、あなたの部下?」

「いや、部下じゃない。対等な関係の信頼できる優秀な仲間だ。お前らと違ってな」

「彼らは?」


 美香が尋ねた。


「味方でも敵でもない。ただ、言動次第では敵になる厄介で邪魔な存在だ」

「お前最低だな」

「彼らを敵と言うなら、お前の元カノとその取り巻き以下のクソ野郎だ」

「なら、おれはクソ野郎だ」

「おい、おい、無理に悪役を演じる必要はないぞ」

「どうやら、レッドストームはこの世界に戦車を持ち込んでいるようだな。どうやって撃破した?」


 炎上するT-55を眺めながら清水和彦が聞いた。


「二人の魔法使いがやってくれた」

「マジか……」

「気分は?」


 美香が彰人に聞いた。


「テーマパークに連れていくって言われて歯医に連れてこられた子供の気分」

「何それ」


 俺は最悪な報告をしないといけないことを思い出した。シュガレットケースを取り出して、林彰人に差し出すと、


「聞きたくない……」


 呟きながら受け取った。中に入っているIDカードを取り出して、確認する。


「現実から目を背けられない。お前から報告してくれ」

「分かった」


 そう言うと彰人は俺たちから離れていった。何とも言えない声で本部に報告しだした。このような報告をするのは嫌いだ。


「辛かったよね」

「ああ」

「ゲートの前に拓馬隊長がいてよかったわ」

「そうか、それで、状況は?」

「時間警察は、この世界にどんなポルノがあるのか知りたいだとさ」


 村上英一が答えた。美香が英一を睨みつけた。

 彰人が戻ってきた。


「何か報告は?」

「二人とも無事でよかった。戻ったら詳しい話を聞く。一刻も早くこの世界からレッドストームを排除しろ。そのために必要な物があれば要請してくれと」

「その前にやることがある。マリーラ村に戻るぞ」


 マリーラ村に向かっている間、俺がムー世界に転移した直後からの話をしていた。


 俺がこの世界に転移した直後、通信が途絶。フレイムウルフ(ドイツ戦車に例えるなら、38式火炎放射戦車)に襲われて、二人の魔法使いに助けられた。

 マリーニ街で相棒の佐藤進と再会して情報を共有し、行動を共にした。元の世界へ帰る方法を探して、マリーラ村へ。そこでレッドストームと戦って廃鉱山に向かった。そして今に至る。


「ーーけっこう端折ったが、大体こんな感じだ。そっちは?」

「それなら」


 と英一が語りだした。

 俺が転移した直後、大規模な歴史改変が発生。()()が変わってしまった。容疑者は22世紀の時間犯罪者で未来技術を悪用。瞬時に改変してしまった。

 和彦がタブレットで報告書を呼び出して俺に差し出した。それを受け取り、報告書に目を通した。


 名前 レオ

 身長 170センチ(推定)

 体重 不明

 BWH 不明

 髪 茶 

 瞳 黄

 身体的特徴 不健康

 年齢 不明

 前科・前歴 全時代指名手配中

 血液 不明

 趣味 不明

 年収 不明

 兄弟 兄(全時代行方不明)


「情報によると全時代行方不明の兄を捜しているらしい」


 和彦が言った。


「そいつがなぜ、大規模な歴史改変を?」

「分からない。俺が思うに我々を妨害ーーまさか、兄がこの世界に!?」

「進は、この世界にいるし、あり得るな。でも、今は後回しだ」


 タブレットを和彦に返して、英一に話の続きを促した。

 関連する捜査で【旭日の夢】が関わっている事が判明。作戦のブリーフィングで【ムー世界】の概要、拓馬隊長が単独でムー世界へ侵入したことを知った。


「ーー決して島流し、見捨てたわけじゃない」

「それで、なんで単独で?」


 和彦が聞いた。


「表向きは、これ以上仲間を失いたくないためだったが、実際は仲間を失って一人になるのが怖いからだ」


 マリーラ村に到着すると日本人冒険者と思われる黒髪の少年がうめくように言った。


「特殊部隊!? こんなのファンタジーじゃないっ!」

「そのファンタジーを守るためにも奴らを排除しろ」

「特殊部隊のイメージと言えば、筋肉モリモリマッチョマンの変態だと……でもあなた達は普通の人に見えます」


 別の日本人の黒髪の少年が言った。


「映画の見すぎだ」

「ガキどもの相手をしている暇はない。行くぞ」


 村の中央広場の南側に向かった。

 布が被されている遺体が横一列に並んでいる。彰人は輝男の遺体のそばに片膝をついて、輝男の遺体に被されている布をめくった。和彦からタブレットを受け取ると画面を操作して輝男の情報を呼び出した。


「二つの世界で死ぬなんて最悪だ」


 と言って、立ち上がり、タブレットを和彦に返した。彰人は栗原大佐の遺体を確認した後、本部に報告した。


「相棒はどこにいる?」

「案内します」


 マノが答えた。


「彰人以外の隊員は集められた兵器、武器を調べてくれ。シオリ、彼らを案内しろ」

「分かりました」


 俺、彰人、マノの三人で中央広場を横切って相棒の進が治療されている建物へ向かった。後始末に追われている人々の中を搔き分けて進むと、冒険者ギルドに到着した。中に入ると他の場所と同じぐらい混雑していたが、負傷者は静かに座っているか、壁際の方に横になっていた。


「少年みたいな奴を探せ」


 俺が言うと壁際で横になっている進が片手を上げて言った。


「僕を捜しているのなら、ここだ」


 近づくと、進が言った。


「ゲートが開いたんだな?」

「まさか、こんなクソみたいな世界に居たなんて、偽者じゃないだろうな?」

「本物だ」

「IDを確認させろ」


 進はIDカードを取り出して、彰人に差し出した。彰人はそれを受け取り、念入りに確認した。


「問題ない。本物だ」


 言って、IDカードを進に返した。


「確認だが、転生じゃなくて転移だよな?」


 彰人が進に聞いた。


「そうだよ」

「それで、動けるのか?」

「ええ、動けるわよ。でも無理はしないで」


 マノが答えた。


「彼女に助けられた」


 進は言って、マノに目をやった。


「ありがとう、マノ。レッドストームもいるようだな」


 彰人が椅子に座らされている三人のレッドストームの戦闘員に顔を向けた。


「ええ、敵でも治療はするわよ」


 答えたマノを俺は片手で制した。


「村人たちの治療を優先しろ。彼らは治療しなくてもいい」


 俺はレッドストームの戦闘員に顔を向けた。


「悪いな、貴様らを治療する優秀な医者は皆、()()()で投獄中だ」

「貴様らの拠点はどこだ?」


 彰人が戦闘員に聞いた。


「元の世界、元居た時代に帰れるなら……」


 レッドストームの一人が答えた。


「いいとも、だが、約束はしない。期待するな」

「なら、急いだほうがいい。我々はこの世界で使えるナビシステムを完成させた」


 戦闘員から、そう告げられた。


「つまり、この世界で使えるタイムマシンを完成させたと?」


 俺が聞くと戦闘員は頷いた。彰人は無線機の送信スイッチを押した。


「ギフ(ツー)から本部へ、奴らはタイムマシンを使用する可能性あり、容疑者から情報を聞き出す。オーバー」


 俺は進の方に振り向いた。進はすでに立っていた。


「いけるな?」

「ああ、もちろん」


 レッドストームの戦闘員に向き直った。メモ帳とペンを取り出した。


「基地の図を描け」


 戦闘員はメモ帳とペンを受け取ると基地の簡単な図を描き始めた。

 基地はバルトライプス山脈の山に囲まれた場所にある。滑走路に格納庫、対空陣地、トーチカ、オストヴァルトゥルム(パンテルの砲塔だけを地上に設置した固定砲台)、多数の装甲戦闘車両で防衛されている。そして、基地は山の内部に築かれている。


「隊員達を集めろ」

「こちら、ギフ(ツー)。全員、冒険者ギルドに集まれ」


 彰人が無線で隊員達に伝えた。


「異世界の歴史改変なんて最悪だ。俺たちだけじゃ足りない。他の部隊の派遣を要請するべきだ」


 彰人がうめくように言った。


「部隊の派遣を要請してくれ」


 俺は命じた。彰人は本部に要請した。


「ギフ(ツー)から本部へ、ムー世界へ部隊の派遣を要請する。オーバー」


 冒険者ギルドの外に出るとシオリがいた。


「ごめんなさい、盗み聞きするつもりはなかったのですが……戦力が必要なら私たちを使ってほしいのです」

「いや、ダメだ」


 俺は答えた。

 機密の情報は知られてはいけないし、これ以上、彼らに助けを求められない。それに、時間警察特殊部隊は派遣される。


「どうして?」


 マノが聞いた。


「俺も隊長と同じだ。俺達は君たちを知らない。いくら優秀でも俺達と訓練していない以上、連携が取れない」


 彰人が答えた。


「あなた達だけでどうにかできるの?」

「お前たちは連れて行かない。俺達だけでレッドストームの基地を破壊する」

「ですがーー」

「命令だ」

「拓馬隊長、それに佐藤進」


 和彦の声が俺を呼んだ。顔を向けると隊員達とアラン、ルーデル、リン、ベル、マモルが近づいてきた。


「言い争いか?」

「パンターⅡにⅣ号戦車K型、Ⅳ号戦車7.5センチ無反動砲搭載型、ケッチェン装甲兵員輸送車。それにポルシェ245-010型軽戦車。ドイツ戦車だらけじゃないか! 奴らドイツ戦車を使えば、拓馬隊長が躊躇うとでも思ったのか?」

「それは違う。あれは主力じゃない。消耗してもいい戦力を投入したんだ。彼ら相手に現代兵器は過剰な火力だ。第二次世界大戦時の兵器で十分だ」

「Ⅳ号戦車K型か、()()()()()()()()()()()だ」


 彰人が言った。


「冒険者ギルドがあるなんて最高だ」


 和彦が嬉しそうに言った。


「進、久しぶりね」


 美香が進に言った。


「まさか、こんなクソみたいな世界にレッドストームと一緒にいたとは思わなかったよ」

「クソみたいな世界だと?」


 和彦が彰人を睨んだ。


「それで……」


 シオリが言いかけた。


「彼らを潰せるのなら手伝うわ」


 ベルが付け加えるように言った。


「お前たちの協力は要らない」

「俺達は信用できて彼女は信用できないというのか?」


 和彦が聞いた。


「ああ」

「なんでさ、強そうなのに」

「私達も当事者だわ。それにススムには子供達を彼らから救ってくれました」

「僕たちも助けてくれました」


 マモルが付け加えた。


「気になるな」


 和彦が進に顔を向けた


「詳しい話は時間がある時に」


 進が答えた。


「我々も手伝います」


 マモルが言った。


「君たちが手伝う必要はない」

「我々はもう、当事者だ。力を貸したい」


 アランが言った。


「君たちの()()を知ってしまった以上、私も当事者だからな」


 ルーデルが付け加えた。


「僕らはもう当事者だ。何も知らないとは言えない」


 マモルが更に付け加えた。俺は周囲を見回した。全員が覚悟を決めたような表情だ。


「分かった。だが、俺には、それを決める権限はない。すべて本部次第だ。彰人、本部に報告して指示を仰いでくれ」


 彰人が了解と言い、無線で本部に報告した。


「ギフ(ツー)から、本部へ、現地の魔法使いが協力を申し出た。指示を求む。オーバー」

「あなた達の司令官というわけね」


 リンが俺に言った。


「そうだ。俺と進の設定を話しておく。ヴァルター・ケーニヒ。チェルガン帝国出身の冒険者で進はキールだ」

「お前が好きな小説に登場する人物の名前だな?」


 彰人が聞いた。


「ああ、そうだ」

「キールの方は、ドイツ好きで酒が好きな相棒に見つけてもらうため?」

「なぜ、分かった?」


 進が彰人に聞き返した。


「そのぐらい、すぐに分かる」

「ちなみに彼女はどのくらい強い?」


 和彦が聞いた。


「Ⅴ号戦車パンテル並に強い」


 美香が顔をしかめた。


「そう表現したのは進だ」

「パンターだろ」

「だとしたら、美しすぎる魔法使いだな」

「見た目も黒豹みたいだしな」

「必要なのはパンターじゃない。レオパルト2だ」

「一体何と戦わせるつもりだ?」

「ランクⅥの魔法は奴ら相手でも十分に使える」


 進が言った。


「いいね」

「ベルはどうだ?」


 和彦が進に聞いた。


「ヤークトパンターだ」

「じゃあ、リンは?」

「ヤークトパンターⅡ(ツヴァイ)だ」

「なるほど、私たちは()()()()()()なのね。気に入った」


 リンが言った。


「ヤークトパンテルⅡって言えよ」

「MP7には、もう名前を?」


 英一が俺に聞いた。


「ああ、ドーラだ」

「何で、銃にドイツ的な名前を付けたがるの?」


 美香が呆れた表情を浮かべて言った。


「別にいいだろ。本物の彼女を作るよりもマシだ」

「そのうち、別の銃に浮気したとか言われそう」


 英一が言った。


「仮に仲間に加えるとして、彼らに情報を共有するべきか?」


 和彦が聞いた。


「いや、教える必要はない」

「教えて」


 マノが言った。


「ダメだ。知らないほうがいい」


 本部との通信を終えた彰人が言った。


「了解、拓馬隊長に伝えます。拓馬隊長、クレ部隊とハリマ部隊を派遣するそうだ。彼らを連れて行く許可が出たが、あくまで協力者としてだ」

「分かった。誰か迎えに行け」

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