戦闘
めまいと吐き気はいくらかマシになった。情報収集のために、街に行かなくては……。コンパスを取り出して南東を確認し、森の中を進む。
マリーニ街を目指して数十分過ぎた時だった。
遠吠えと共に茂みから勢い良く何かが飛び出した。俺はとっさにホルスターに収められたUSPタクティカルに手を伸ばす。すぐに止まる。いや……ダメだ。ここはファンタジー世界だ。そう思い、鞘からナイフを抜き、構えた。
「ッ!?」
前方に黒に近い灰色の赤い目をしたオオカミが現れた。
先頭に立つ左目が隻眼で胴体に傷跡が残る殺意を感じる赤い目をしたオオカミ。いかにもボスのような見た目だ。俺のことを殺意のこもった目で睨みつける。
「なっ…」
なんだ、その目は! 俺に恨みでもあるのか!?
その背後に二匹ひきつれている。
後ろか音がする。
俺は後ろをチラリと確認する。後方に更に二匹オオカミが現れた。俺はミスに気づいた。完全に包囲されている。完全な群狼作戦だ。前方に三匹。後方に二匹……。ヤバい状況だ。
「な、なんだコイツら」
クッソ……なんでこんな時に。
後方から、うなり声を上げ、隻眼のオオカミ以外の四匹が同時に俺に襲いかかってきた!
俺はとっさに構えていたナイフを後方の突出して突進したオオカミに突き刺す。
オオカミがうめき声を上げ、地面に倒れる。
突き刺したナイフを抜く時間を与えられず、別のオオカミが俺に飛びかかろうと突進する。
隊員を連れてくるべきだった……。
俺は後悔した。
俺はやむなく、ホルスターに収められたUSPタクティカルを引き抜く。
サプレッサーを装着したUSPタクティカルを突進するオオカミに向けセーフティを解除し、狙いを合わせてトリガーを引いた。
パシュ、パシュ、パシュ
あまり響かない銃声が響いた。
突進したオオカミに孔が開き、血を吹き出して、その勢いを失い、倒れた。
俺は素早く前方に振り向き、二匹に銃弾を送り込む。
銃口を残った隻眼のオオカミに向ける。狙いを合わせようとした時だった。
隻眼のオオカミの口から炎を俺に向けて放った。
「ッ!?」
俺は素早く地を蹴って横に飛び跳ねた。
火炎放射器かよ!
隻眼のオオカミが放った炎で木々が炎上する。
ボスと思われるオオカミに狙いを合わせてトリガーを引いた。
パシュ、パシュ、パシュ
ボスは素早くすべての銃弾をかわす。
「クソ!」
突然、茂みからオオカミが飛び出し、右脚に嚙みついた。
俺は悲鳴を上げ、地面に倒れた。右脚に嚙みついたオオカミを左足で思いっきり、蹴り上げると同時に銃弾を送り込むが、オオカミは素早くかわす。
USPタクティカルのスライドが後退し、ロックされる。マガジンキャッチレバーを下げ、空のマガジンを抜き、新しいマガジンを差し込み、スライドストップを下げ、初弾を薬室に送り込んだ。
視線の先に岩と倒木が形作った自然の遮蔽物があった。
痛みに耐え、無理やり立ち上がった時だった。
俺の右脚に嚙みついたオオカミが俺めがけて突進、俺の左腕に飛びかかる。
左腕に激痛が走る!
左腕から血を吹き出し、俺は再び悲鳴を上げ、地面に倒れる。
倒れながら嚙みついたオオカミを地面に叩き付け、USPタクティカルの銃口をオオカミに押しつけてトリガーを引こうとした時、噛んだ力が弱まり、オオカミが後ろへ飛び跳ねたと同時に口を大きく開く。
俺を食ってもまずいぞ!
後ろへ飛び跳ねたオオカミを射殺するのに五発、銃弾を消費した。
隻眼のオオカミが遠吠えを上げる。少し離れた木陰から二匹のオオカミが現れた。
トドメを刺そうと俺に近づく。
俺は痛みに耐え、無理やり立ち上がり、めまい、吐き気、痛みを無視してオオカミたちから後ずさりして距離をとりながら発砲する。めまいと吐き気のせいか、頭がクラクラする。銃口をオオカミたちに向けたまま倒木に近づき、反対側へ乗り越える。
USPタクティカルを地面に置き、負傷してない右手で手榴弾を取り出し、安全ピンを倒木の太い枝に引っ掛けて抜き、オオカミたちの方へ投げる。身を隠す。
爆発!
右手でUSPタクティカルを拾い、起き上がりながら、銃口をオオカミたちがいた方に向ける。
隻眼のオオカミ以外は爆発に巻き込まれたようだ。残る隻眼のオオカミに銃口を向け、頭のクラクラのせいで、照準が定まらない中、銃の照準を合わせ……!
「俺に恨みでもあるのか!」
言いながら俺はトリガーを引いた。
パシュ、パシュ、パシュ
すべて、かわされる。
三発目を発射した直後、銃のスライドが後退し、ロックされる。俺はマガジン内の銃弾をすべて撃ち尽くした事を知った。
「クソ!」
隻眼のオオカミは俺に炎を放とうとして口を大きく開ける。更にオオカミ、二匹が隻眼のオオカミに合流する。
完全に追い詰められた。俺は銃口を隻眼のオオカミに向けたまま死を覚悟した。
死んだら、他の死んだ仲間たちに会えるかな……。生まれ変わったら普通の人生を送りたいな……。そんなことを考えた時だった。
何かの拍子で、お守りが地面に落ちたと同時に詠唱を唱える声が聞こえ、視界の端から緑に光る魔法の矢のような閃光が横切り、三匹のオオカミを真っ二つになった光景が現れた。オオカミの赤い目が輝きを失いながら倒れた。俺は倒木に背を向けて座り込んだ。
「大丈夫ですかー!」
と女性の声が聞えた。声のした方向を向くと二人がこちらに向け、駆けてきた。
小柄で細身。同じデザインの黒いローブ、トンガリ帽子、黒いブーツ、杖、肩掛けバッグ。一人は青い瞳、黒髪で背中まであるロングヘア、おそろしく整った顔立ちで短剣を腰にさしている。もう一人は銀髪の三つ編みでグレーの瞳、メガネをかけていて大人ぽい見た目だ。
魔法使いだろうか……。美少女の二人が駆け寄ってきた。
「助けてくれ……」
俺は美少女の二人に助けを求めた。
美しいという言葉が似合うその二人は、まるで女神のようだ。
黒髪の少女が炎上している木々の方に杖を構えて、杖から水を放ち、炎上している木々を消化した。黒髪の少女が俺の方を見た瞬間
「ッ…!?」
戸惑い、困惑した表情を浮かべた。
「怪我をしてるわ」
銀髪の三つ編みの少女が言った。
俺はスライドが後退したままの銃をホルスターに収め、負傷した左腕を右手で押さえながら立ち上がろうと
「立ち上がらないで」
銀髪の三つ編みの少女がそう言い、俺に近づき、座り込んで俺に手をかざす。
「治癒魔法を使います」
「?」
詠唱を唱える。
みるみるうちに負傷した左腕と右脚が癒されていく。
「……? 何、この状態異常……」
銀髪の三つ編みの少女が頭を傾げた。
「ねぇ、この状態異常って……」
二人の少女は顔を見合わせた。
「!? もしかしてだけど……」
黒髪の少女が何か言いかけたが口ごもった。
「あなた、こんな状態異常でフレイムウルフと戦ったの?」
銀髪の三つ編みの少女が尋ねた。
あのオオカミたちは『フレイムウルフ』って言うんだな。
「そうだ。俺に恨みがあるようだった」
黒髪の少女が俺の足元を見て
「あ、お守りが……」
言いながら地面に落ちたお守りを拾った黒髪の少女が更に困惑した表情を浮かべ、それを差し出す。
「ありがとう」
お守りを受け取った俺はそれをリュックサックに収めた。
ちょっと待てよ。なんでお守りって分かるんだ?
「これで完了よ」
負傷した左腕と右脚は完璧に治癒されていた。
「ありがとう」
二人とも17歳ぐらいに見える。
「お前らは一体…」
「えっ…えーと…私はシオリ…魔法使いです」
シオリと名乗った黒髪の少女は、おどおどしながら答えた。
「私はマノ、同じ魔法使いよ。あなたは?」
銀髪の三つ編みの少女は冷静にそう答え、俺に尋ねた。
「……ヴァルター。ヴァルター・ケーニヒだ」
俺は偽名を使うことにした。
「ヴァルターさんはこんな所で何を?」
「えーそれはだな……」
俺が別の世界からやってきた時間警察の特殊部隊とは口が裂けても言えない。言ったところで信じてもらえないと思うが……。
「道に迷ったんだ」
言いながら立ち上がった。
「そうしたらフレイムウルフたちに襲われて……」
ふと気がつく。めまいと吐き気がキレイさっぱり消えていた。噓だろ、信じられない!
俺はナイフを突き刺したフレイムウルフに歩きながら
「お前たちはなぜこんな所に?」
「爆発音を聞いたのです」
シオリが答えた。
さっきの手榴弾か。
フレイムウルフの死体から突き刺したナイフを引き抜き、血の付いたナイフを手で拭う。それを鞘に収める。そして、ホルスターに収められたUSPタクティカルを引き抜き、空のマガジンを抜き、新しいマガジンを差し込む。スライドストップを下げ、後退したスライドを前進させる。デコッキング(引き起こされた撃鉄を戻す操作)、セーフティを掛けた。
「忘れてた。マリーニ街に向かわなければならないだが……」
USPタクティカルをホルスターに収めながらシオリ、マノの方へ振り向いた。二人は不思議そうな表情で俺の行動を見つめていた。
「それなら、私たちと一緒に行きませんか?」
シオリが言葉を挟んだ。
「そうね。危険なモンスターもいるし。でも、その前にフレイムウルフを処理しないと」
魔法使いの美少女二人と一緒にマリーニ街に向かうことになった。魔法使いの美少女二人は慣れた手つきでフレイムウルフを処理した。明らかに肩掛けバッグより大きなフレイムウルフを詰め込んでいる。どうやら、バッグの容量を魔法で拡張されているらしい。
「倒したモンスターを冒険者ギルドに持って行くと買い取りしてくれるんです」
シオリが言った。
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