マリーラ村2
夕食はシオリの家族と共にした。
半ば無理やり家族を紹介された。家族構成としてはシオリ、兄のマモル、父のアラン、母のユキコ。そして祖母の山崎礼子だ。彼女は名古屋出身で交通事故に遭い、こっちの世界に転生したらしい。
シオリの祖母に俺と進について教えてほしいと聞かれたが、俺は話す気分じゃなかったため、進に丸投げした。彼らは無理に俺を知ろうとしなかった。
その日の夜、俺は寝ないで案内された部屋の窓から外を眺めていた。
シオリの家に行くまでは、俺は英雄かのようにもてはやされた。シオリの母ユキコは俺がシオリを助けたとは、信じてないらしい。それが俺にとっての救いだ。俺は過去、シオリを助けてない。彼らは一体何を目撃したんだ? 俺は英雄になるつもりはない。
次の日、俺と進はシオリに半ば強制的にマリーラ村を案内された。
シオリにさりげなく、廃鉱山の場所を聞くと、村から北東に進んだ先にある森の中にあると答えた。その後は進と共にお村の祭りの準備を手伝った。
「ヴァルター」
マノの声が俺を呼んだ。作業する手を止めて振り向くとマノが立っていた。その隣には、背が高くほっそりした知的な顔立ちの中年の男が立っていた。
「グーテンモルゲン。マノの父のルーデル・グローテだ」
ルーデル? ドイツの急降下爆撃機で無双してそうな名前だな。俺と進はルーデルと握手した。
「娘から聞いたよ。それで、聞きたいことは何かな?」
「廃鉱山について調べている。転移や転生について何か知っていることがあれば教えて欲しい」
「なぜかね?」
ルーデルは片眉を上げた。
「ブラッククロスが悪魔の森を調べていたからだ。奴らの狙いが転移、転生する場所なら、その目的を知りたい」
「そういうことなら教えてあげたいが、私も詳しいことは分からないんだ。すまないな」
「そうか」
「奴らの目的は向こうの世界に行くことなのかね?」
「可能性は高い」
「ゲートに関しても分からない事だらけなんだ。二つの世界にゲートが存在している必要があって、その二つのゲートをつなぐ必要がある事ぐらいしか」
「それだけでも十分だ」
元の世界にいるレッドストームと、この世界にいるレッドストームが二つのゲートをつなごうとしているとしたら、元の世界に帰れなくなったとしてもゲートを破壊するべきだ。
「では、私はこれで」
「「ありがとう」」
「何か手伝うことある?」
マノが聞いてきた。
「いや、ない」
俺が言って作業に戻ろうとした時、アランが話しかけてきた。
「ルーデルと話していたみたいだな」
「何の用だ?」
「どっちか、子供たちの相手になってくれないか?」
「断る。やることがある」
「一人でいい」
「それじゃ、ジャンケンで決めよう」
進が言った。
俺はグーを出して、進はグーの握りを軽くて筒を作った。
「何それ? 井戸?」
「そう、井戸。つまり、お前の負け」
進は不敵な笑みを浮かべて言った。
「クソが」
アランと俺は子供達を村の外、草原が広がる場所に連れて行った。今、俺は子供達に囲まれている。
「それで、俺は何をすればいいんだ?」
俺はアランに聞いた。
「遊び相手になってくれればいい」
「キレイな人がいい」
一人の男の子が言い放った。
「悪かったな、こんなおじさんで」
アランが答えた。
「あんたは?」
「俺は子供達に嫌われているし、重要な仕事があるからな」
そう言って逃げるように立ち去った。
「お祭りの準備に邪魔になるから子供達を村の外に?」
「シオリとマノが手伝いに来るからな」
アランは俺に背を向けたまま言った。
それだったら、その二人に任せればいいじゃないか。俺は必要ない。
「ねぇねぇ、お兄ちゃんはシオリお姉ちゃんを助けたの?」
「助けてない」
「これ読んで」
別の男の子が本を渡してきた。俺はそれを受け取り
「昔あるところに、少女がいました。狼に食われました。おしまい」
適当に言って、本を返した。
「えー、つまらないー」
「シオリかマノに読んでもらえ」
なんで、俺が子供達の相手をしなければならないんだ? 子供達相手に困り果てているとシオリが「大丈夫ですか?」と話しかけてきた。マノも一緒にいる。二人とも黒いローブを着た魔法使いではなく、普通の可愛らしい女の子という印象を与える服装だ。数冊の本を手にしている。
美しい……。いや、いや、何を考えているんだ俺! ダメだ、ダメだ! どうせ、裏切られるんだ!
「あっ、シオリお姉ちゃんだ!」
一斉にシオリとマノの周りに子供達が集まる。
「お姉ちゃん、その本は何?」
「この本はね、みんなへのプレゼントだよ」
「うわー! ありがとう! お姉ちゃん!」
「やったー!」
「ヴァルターさん、大丈夫ですか?」
「考え事を」
「さっきまで、家事の手伝いをしていました」
「お前の父親、俺に子供の世話を押し付けやがって」
「私も協力するわよ。というか、あんたは、その恰好のままなのね」
マノが言った。俺が身に着けている黒いフード付きマントの下には元の世界の装備を隠している。
「他の人にやらせろよ」
「他の人は村周辺のモンスターを一掃しています」
「俺もそっちがよかった」
「冒険者ギルドの掲示板見ていないのですか?」
「他のことに気を取られて」
「お兄ちゃん達もクエストとは別に独自に行動しています」
「この村の周辺は大丈夫よ」
「もし、ブラッククロスが襲ったら? お前らが裏切って敵になったら?」
「その時はその時です。私達は絶対にあなたの敵にはなりません」
周囲にはスライム一匹すらいなかった。
はしゃぎ声にうんざりしてから一時間ほど経過した時、少し離れた所で進が何か食べながら、俺を見て笑っている姿があった。
「なぁ、聞いてくれよ。あそこにいるクソメガネ野郎が俺を見て笑うんだ」
俺は子供達相手に遊んでいるシオリに言った。
「様子を見に来たか、さぼりですね」
俺は進の方に歩いて行った。私服姿のマノに見惚れている進に言った。
「おい、クソメガネ野郎、暇なら俺と変われ」
「やだね」
「一目惚れの相手を眺めているだけか? 手伝ってあげれば、好感度が上がるぞ」
「確かにそうだな」
「俺は困っている。子供を相手にしたことがない。どうすればいいんだ? 昭和の遊びぐらいしか知らないぞ」
「それでいいんだよ」
「そうか、それでいいんだ。お前も手伝え」
「何をするつもりだ?」
「紙はあるか?」
「「「うわー! すごーい!」」」
俺と進で作った紙飛行機を飛ばして滑空しているのを見た子供達が騒ぎ出した。
「ぼくも飛ばしたい!」
作った紙飛行機を男の子に渡すとシオリが言った。
「紙飛行機ですか?」
「知っているのか」
「祖母から聞きました」
その後、俺は様々な遊びを子供達に教えた。俺は審判として見ているだけだ。ドッチボールや鬼ごっこ、まるばつゲーム。川辺では水切りや水遊びをしたり各々楽しんでいる。
「子供達楽しんでますね」
横にいるシオリが言った。
「俺は、ただ、見ているだけだ」
「さぼりたいだけですよね。あっ、遠くに行っちゃダメだよー!」
遠くに行きかけている子供にシオリが注意した。
「村の中で遊ばせるべきだな」
俺は言って、マノがいる方向に視線を向けた。マノは本を読んでいる子供達を見ている。進は村に戻っていった。
「ねぇ、見て、見てー」
女の子が捕まえた猫を見せてきた。
「名前をつけてほしいの」
「名前?『あああああ』で良くね?」
「そんな名前やだ」
「ライリー、ダメだよ。元居た場所に戻してこようね」
シオリは身をかがめて女の子に目線を合わせると優しく諭すように言った。女の子は村の方に向かった。シオリもついていった。
「お兄ちゃんはシオリお姉ちゃんが好きなの?」
男の子が聞いてきた。
「嫌いだ」
「なんで? なんで?」
「最後は俺を裏切るからだ」
「やさしい人なのに……」
「次聞いたら悪魔の森に置き去りにするぞ」
トラウマを思い出させることを聞きやがって
「子供相手にそんなこと言っちゃダメじゃないの。ヴァルター、トラウマがーー」
マノが言った。俺は両手で両耳を塞いで叫ぶように言った。
「ああああああああああー! 聞こえない、聞こえない。何にも聞こえませーん!」
「ちゃんと話を聞いて」
「お前は何も分かっていない」
「ああー! マルタがズルしたー!」
女の子が喚いた。
「聞こえない、聞こえない。何にも聞こえないよー!」
男の子が両手で両耳を塞いで叫んだ。
「ほら、真似したちゃったじゃないの」
マノはそう言って二人の仲裁に入った。しばらくして、シオリが戻ってきた
「みんなー! 集まってー! 村に戻る時間だよー!」
子供達は素直に聞き、遊びを中断してシオリとマノの周りに集まった。
「全員いるね」
シオリは手際よく子供の数を数えると列を作って先頭を歩いた。俺とマノは最後尾を歩く。全員で村に戻っていった。
ようやくのことで子供達から解放された俺は村の食堂で昼食をとっていた。お祭りの準備は、ほぼ終わっている。話を聞いたら、村が出来てから50年を祝う祭りで今夜始まるそうだ。
「ヴァルターさん、お願いがあります」
昼食を食べ終わったタイミングでシオリが話しかけてきた。
「用件を先に言え。それから、決める。用件を聞かずに、はいって言った奴の末路を知っているか? 俺さ!」
「……わ、私と付き合ってください!」
「断る!」
周囲がざわつき始めた。
「キールに頼め。二度と彼氏役なんかやらないぞ。誰かにそそのかされた?」
シオリは食堂の奥、隅っこのテーブルでクスクス笑っている男女の方に顔を向けた。
俺は過去の記憶を思い出した。どうせ、利用されるだけされて、最後はゴミのように捨てられるんだ。
「なんでもしますから」
「それだけはやめろ! そう言った男の末路を知っているか? 元カノに裏切られて、今、お前に同じことをされようとしている」
「そんなつもりは……」
「それじゃ、俺がお前の家族のように大事にしている仲間を殺せと命じたら? 俺は仲間を見捨てて、仲間を撃った……。仕方がなかったんだ!」
「やめるんだ、ヴァルター」
進が割って入ってきた。マノも一緒にいる
「誰かに命令されたのですか?」
「最悪な決断を下さないといけない状況に追い込まれただけだ」
「何があったの?」
マノが尋ねた。
「お前らが知る必要はない。余計な詮索はするな」
「何度でも言ってやるぞ、お前は仲間を見捨てたわけじゃない」
「ごめんなさい、嫌な過去の記憶を思い出させるつもりはーー」
「奴らを根絶やしにできるのなら、俺は悪魔に魂を売ってやる」
周囲でどよめきが発生した。
「シオリが不憫だよ」
周囲にいる誰かが言った。
「そりゃ、そうだろうな! 好きでもない相手に告白しろなんて罰ゲームをやらせる最低な友達がいるんだからな!」
俺はここで言葉を切った。周囲にいる人達に聞こえるように声を張り上げて言った。
「初対面だが、俺は、お前らが大っ嫌いだ!」
「わざと嫌われるようなことを……」
「もう行く」
俺は立ち上がった。口音を立てて進の注意を引いた。頭を横に倒して”こちらに来い”という仕草をした。食堂の建物から出るとすぐに周囲を見渡し、進に小声で言った。
「二人怪しい奴がいる。一人は死んだはずの旭日の夢元メンバーだ」
「日本の武装歴史改変グループか?」
「そうだ。俺の曽祖父が生きているという矛盾を生み出した原因だ」
「もう一人は?」
「まだ確証はないが、ユーゼフ・コンラドーー俺達を尾行していた奴だ。警戒しとけ」
進は軽く頷いた。
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