募集
冒険者ギルドの建物に入ると、男性冒険者達に絡まれているシオリとマノを見かけたが、俺は避けることにした。
不審に思っただろう。進が俺に尋ねてきた。俺は進に覚えられたくないのさと答えた。
「……誰も来ないな」
パーティメンバー募集の張り紙を勝手に出した進と俺は掲示板の傍らの丸テーブルで一時間以上待ち続けている。
「まだ、一時間程度しか経っていないぞ。俺達以外にも募集している奴はいる」
俺はここで言葉を切った。
調査隊を捜索してほしいというクエストの依頼を発注するわけにもいかないが、冒険者を演じるため、クエストを受けなければならない。
パーティメンバーを募集しようと進に提案されたが、俺は反対した。
進は冒険者を演じながら機密捜査を遂行するのは難しいと思い始めたらしい。
元の世界に帰還するまでの間、任務(機密捜査)の存在を隠し、利用して自分達が冒険者として演技するのに必要だと。
掲示板でいいクエストがないか探している間に進は勝手にパーティメンバー募集の張り紙を作成して、クリスに掲示してもらったそうだ。
俺が勝手なことをするなと言うと
「すまない、お前に反対されたとしても仲間を集めるのがいいと思ったんだ」
と答えた。
進に押し切られてパーティメンバー募集の張り紙を勝手に出されてしまった。
もし来たとしても断ればいいだけだ。俺は内心ため息をついた。
「魔力が低い男二人のパーティに誰が入りたがる?」
「ヴァルターさん、キールさん大丈夫ですよ。まだ、時間もありますし」
張り紙を掲示板に貼り付けてくれたクリスが傍らに来て、俺たちの会話に割って入ってきた。
「パーティメンバー募集の張り紙を出してから、どのくらいで決まる?」
俺はクリスに尋ねた。
「そうですね……。初心者がパーティを組む場合、遅くても大体、半日から一日はかかりますね」
「そうか」
「もし、なかなか決まらない場合は、こちらでマッチングすることも可能ですよ」
「そのサービスいいね」
「あ……あのー」
聞き覚えがある声がした。その方向を向くとシオリとマノがいた。
「パーティメンバー募集の張り紙を見たのですが」
「パーティメンバー募集していないって言っていませんでした?」
マノが言った。
「私達のこと避けてません?」
シオリが俺に尋ねた。
「いや、そんなことはない」
俺がそう答えると
「そうですか……」
シオリは納得していない表情を浮かべて俺を見つめた。
「コイツがパーティメンバーを募集したいってうるさくてな」
俺は手で示して言った。
「では、決まったら、私に声をかけてくださいね」
クリスはそう言うとカウンターに戻っていった。
ギルド内にいる冒険者達の視線が俺、進、シオリとマノに集中し、注目の的になっている。
「どうして、俺達を選んだ?」
「ここにいる男どもは、私たち目当てで、実力はどうでもいいみたいで」
マノがそう答えた。
「俺とキールは女目当てじゃないと?」
「ええ」
「私はあなたと冒険がしたいです」
「そうか」
「結論は出た」
進が言った。
「ああ、俺も異論はない」
「了承だ「拒否する」
「「は? なんだって!?」」
俺と進は顔を見合わせた。
室内にざわめきが発生した。
「ちょっと待ってろ」
俺はシオリとマノに言い、進を部屋の隅へ連れて行った。
「お前の解決策はこれか?」
進に小声で尋ねた。
「元の世界に帰還するまでの間、利用すればいい」
進が小声で答えた。
「あいつらは、俺のストーカーだぞ。信用できない」
「つまり、お前は美少女二人のパーティ加入を断るっていうのか?」
「お前は別の目的があるだろ」
「利用すればいいだけだ」
「納得できない」
「一匹狼になるつもりか?」
「お前がいる」
「分かった……。正直に言うよ」
進はそう言ってシオリとマノの方をチラッと見た。
「……マノに一目惚れしたんだ」
「お前、自分が置かれている状況分かっていないだろ」
「分かっている。後悔したくないんだ」
その目は決意に満ちていた。
「任務に支障が出るからやめろ」
「承知の上だ」
「元の世界に帰る時、辛いぞ」
シオリとマノの方に目をやると他の冒険者達が二人に絡んでいた。
「おーい! そこの二人! 魔力なんか全く感じないな! 簡単なクエストしかできないのか?」
周囲に聞こえる声で誰かが言った。続けて
「ああ、思い出したよ。お前、悪魔の森でフレイムウルフに襲われていたよな! 美少女に助けられるなんて情けないよな!」
笑いが巻き起こる。
クソ野郎! 美少女に助けられた自分が情けない! 殴ってやろうか。そう思っているとシオリが冒険者に腕を掴まれて
「君、可愛いね! あんな弱い男よりもどうだい? 俺のパーティに加入しないか?」
「嫌です」
シオリは即答し掴まれた腕を振り払い、相手の腕を掴み、捻った。冒険者は悲鳴を上げて倒れた。
シオリは周りに聞こえるように大声で言った。
「ヴァルターさんが命懸けで、おとりになってくれたのです! 見ていたのなら、なぜ、助けてくれなかったのですか? あと、私とマノ、ヴァルターさんは先日、チンピラを撃退しました。護身術は一通り習っています!」
その声には怒りが満ちていた。
「何で、こんな弱小パーティに加入したいんだ」
「弱小? まぁ、いいだろう? 加入したいって言ってくれるだけでも」
俺は深くため息をついて、丸テーブルへ戻った。
テーブルに戻ると冒険者に声をかけられた。
「お前、友達いないだろ?」
「ああ、いない。だが、最高の相棒はいる」
俺は進を示して答えた。
「調子に乗りやがって!」
数人の冒険者が俺と進に殴りかかってきた。
「魔法が使えないとここまで馬鹿にされるのか?」
数分後、全て終わっていた。俺に殴りかかろうとした冒険者達は全員床に倒れていた。
俺と進は小声で
「「クソ野郎」」
見事にハモった。
「ブラッククロスと戦っていたほうがマシだな」
進が周囲に聞こえる声で言った。
俺は床で這いつくばって狼狽えている冒険者の一人に言った。
「お前らなんか、俺最小の力にすら及ばない」
「つまり、お前らはブラッククロス以下」
進が意訳して伝えた。
「どうしてもダメですか?」
「私、あなたのこと助けましたよね?」
マノが言った。
「俺を助けた恩返しを果たせと?」
「ちょ、待ってください」
シオリが口を挟んだ。
「それなら、こうしましょう。パーティに加えてくれるのなら魔法を教えるわ」
「僕は良いが……」
進が横目で俺を見た。
俺はため息をつき
「ようこそ。弱小パーティへ!」
と皮肉ぽっく言った。
「そんなことはないですよ」
シオリが言った。
「今のは皮肉だよ」
「では、自己紹介を。僕はキール。この街で雑貨屋を経営しながら冒険者をやっている」
「私はマノ、魔法使いです」
「私はシオリ、同じ魔法使いです」
「よろしく。マノ、シオリ」
進はそう言って二人と握手した。
「最後に質問だ。お前らはどっちの人間だ? 俺を裏切る者、死ぬ者と……」
「おい、そんなこと聞くなよ……。コイツ、人間不信なんだ。元カノに裏切られて、僕以外の友達が全員敵になって誰も信用できなくなった可哀想な人だからな」
進がシオリとマノにそう言った。
「私、信用されていないのですか?」
シオリが進の方を見て言った。
「質問に答えろ。君たちはどっちの人間だ?」
「どちらの人間でもないわ」
マノが答えた。
「そのうち、本性が分かるさ」
俺は二人に冷ややかに言った。
「……パーティの名前はどうします?」
丸テーブルの向かい側に座っているシオリが話題を変えた。
「全員、黒っぽい服装だから、死神ってのは?」
「そんな不吉な名前付けられるわけないだろ」
「出身地の名前はどうですか?」
マノが提案した。
「それだけは拒否する。出身地以外の名前なら」
俺が出身地の名前を拒否したのは理由がある。
部隊名を隊長の出身地に合わせるのはいろいろと問題があるからだ。
時間警察の特殊部隊のコールサインは隊長の出身地に合わせて名付けられる。
俺の場合、岐阜県岐阜市のため、『ギフ』部隊となる。
隊長の俺のコールサインはギフ1。
過去、俺の所属していた部隊が壊滅したせいで、再編成され、俺が隊長に……。
「それじゃ、アルファは?」
進が言った。
「俺はそれがいいな。二人は?」
「私はそれでいいです」
「私も問題ないわ」
「決まりだな」
進が言った。
「最後に一つ。さん付けや敬語はいらないからな」
「わかったわ」
「私は……。使います」
パーティ名アルファ
「パーティ名は、アルファですね」
カウンターにいるクリスが言った。
「ちなみに、パーティのリーダーはどなたが?」
三人が一斉に『お前だよ』という感じで俺を見てくる。
「えっ? 俺?」
読んでいただきありがとうございます。
面白ければ、ブックマーク、評価お願いします。