迷子の子供
「よし、これからどうする?」
「昼飯にしよう」
「酒場にでもいくか」
図書館を後にした俺達は歩きながら何を食べるか相談していた。この世界には美味しいお酒がたくさんあるらしい。酒場に向かおうとした時、慌てた様子の女性が進に駆け寄り、話しかけた。
「キールさん、ちょっといい?」
「どうされました?」
進が応じると女性は慌てたまま
「うちの子見ていない?」
と言った。明らかに動揺している。
「名前と特徴は?」
俺は尋ねた。
「え、えーと、名前はベクター。身長はこのくらい」
女性は言いながら地面から100センチくらいの高さを手で示して特徴を話してくれた。
特徴を聞いた俺と進は顔を見合わせた。
「お前の財布を盗もうとした子供に似てーー」
「何ですって!?」
と女性いや、母親がうめくように言った。
「いや、盗まれそうになったが返してもらったんだ」
進が母親を安心させるように言った。
「何か、心当たりは?」
「ないわ」
「分かった。一緒に探してみよう」
「キール、事件に巻き込まれた可能性は?」
「分からないが、この街の治安はいい方だ」
進はそう答えた。
「なるほど」
俺達は子供の名前である「ベクター」を叫びながら進と子供がぶつかった場所へ向かった。
「ここで財布を盗まれそうに」
俺がベクターの母親に説明した。
「財布を返してもらった後、俺達に謝罪して向こうの方に走っていったんだ」
俺はベクターが走り去った方向を指し示して言った。
俺と進、ベクターの母親はベクターが逃げた方向へ向かった。
聞き込みを行うと
「その子なら、確か……。あそこの空き家の方に走って行ったような」
ベクターが空き家に走っていくのを目撃した俺よりも背の高いエルフの男から情報を得た。
「ありがとう」
お礼を言い、その空き家へ向かった。
ベクターが逃げた方向へ歩いていると情報通り、空き家があった。その空き家に近づくと空き家から物音がした。
「あの空き家は?」
俺は進に尋ねると
「あそこには誰もいないはずだ。少なくとも僕がこの街に来た時には」
進はそう答えた。
俺と進は顔を見合わせて、頷くと空き家のドアに近づいた。
「あなたは、ここにいて」
進がベクターの母親に片手で制止させた。
慎重に家のドアを開けると、殺風景な灰色の部屋に古びた書物や液体の入った瓶が散乱していた。
長いこと使われてないのは明白だ。
空き家に侵入した俺と進から逃げるように足音が聞えた。
俺と進はホルスターから拳銃を引き抜き、装着されたフラッシュライトで部屋を照らした。
「ベクターいるのか?」
進が言った。
警戒しながら、周囲を見回りつつ奥の部屋へ進むと部屋の奥、角に縮こまって怯えているベクターの姿があった。
「ここで何している? 帰ろう」
進が声をかけたが、ベクターは怯えながら
「悪い人から隠れていた」
と答えた。
「どんな奴だった?」
俺が聞くと
「僕が悪いことしているところを見たから追われたんだ……。捕まって、命が欲しければ、お金を盗めって脅されたんだ……」
怯えながら、震えた声で話してくれた。
「もう大丈夫だ。ママが待っているよ。おいで」
進が優しく声をかけ、ベクターを立ち上がらせた。
俺と進は銃に装着されたフラッシュライトを消してホルスターに収め、空き家から出た。
「ベクター……!」
心配した様子の母親がベクターを見た途端に駆け寄り、抱きしめた。二人は今にも泣き出しそうな勢いだった。
母親が顔を上げ、俺達に
「ありがとう。キール……」
母親は俺の方を見て
「あなたは……」
「ヴァルターだ」
俺はそう答えた。
「ありがとう。ヴァルターさん。キールさん」
とベクターの母親が言った時だった。
ベクターがとっさに母親の後ろに隠れた。
「どうしたのよ」
母親が尋ねる。
「ベクターくん。約束は守ってくれよ」
俺の後方から脅しを含んだ声がした。
振り向くと、いかにも盗賊のような見た目の男、五人がこちらに、ゆっくりと歩きながら武器を取り出した。
一人は魔法使いのようだ。
「下がって!」
俺は片手を後ろに広げて、ベクターとその母親に命じた。
「君は……キールだな。よくも、仲間を刑務所送りにしてくれたな!」
進が小声で言った。
「ブラッククロスだ」
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