行動開始
俺は目を覚ました。薄暗い部屋の中に窓から陽光が差し込んでいた。
……朝か……。
俺は準備して階段を降りてリビングに向かった。進はすでに起きており、キッチンで朝食の準備をしていた。
「よく眠れたか?」
「いや、あんまり……。お前は早いな……」
「そうか……? そんなことより朝食だ。簡単なものだが」
シンプルな朝食を食べながら昨日決めた予定を確認する。
「今日は冒険者ギルドで冒険者に登録して、図書館に行こう……。お前、この世界の武器持ってないよな?」
「ああ、持ってない。今の装備じゃ怪しまれるとはいえ、レッドストームに会敵した場合、ベルタ、あるはドーラを使わないといけないし……」
「この街にいい武器屋がある。お前なら気にいると思う」
「目立たないように行動しないとな」
「そうだな」
「よし、外に出る前に確認だが、僕はキール。お前はヴァルター・ケーニヒ。偽名をーー」
「分かっているよ。キール」
朝食を食べ終え、片付けた俺達は早速、冒険者ギルドに向かった。
冒険者ギルドの道中、肩を並べて歩きながら俺は進に話しかけた。
「なぁ、キール」
「なんだ? ヴァルター」
「昨日話した魔法使いの美少女二人とお前が助けたマモルの共通点が何かわかるか?」
「日本風な名前以外で?」
「そうだ」
「彼らは日本人転生者か、転移者ーーいや、転移者は魔力が低いから……。もしかしたら、日本人転生者、転移者の子供や孫、子孫の可能性がある」
「じゃあ、転移者の俺達は魔力が低いと言うことか」
「そうだ。僕が商人になった理由の一つは自分自身の魔力が低いからなんだ」
「そうか。だから、俺は昨日チンピラに絡まれた訳か」
なんで、コイツの正体がバレないのかが不思議だ。
冒険者ギルドに着き、中に入ると早朝のためか、ほとんど冒険者はいなかった。ギルド職員が張り紙を掲示板に貼り付けていた。掲示板の隣、誰もいないカウンターの方に向かうと後ろから声をかけられた。
「あら、キールさん早いですね。どうされました?」
俺達に気づいて声をかけたらしい。俺が振り向くと、ほうきを持った獣人の受付嬢だった。
「あ、あなたは」
俺に気づいたらしい
「昨日はありがとうございました」
と頭を下げた。
「早かったか?」
進が尋ねた。
「いえ、そんなことはないですよ」
「コイツの冒険者登録をしたい」
進が言いながら左手で俺を示した。
「分かりました。では、奥のカウンターで手続きを行いますので」
獣人の受付嬢はカウンターを手で示しながら言った。
獣人の受付嬢はカウンターの下から一枚の紙を取り出して
「こちらの書類に必要事項を記入してください」
と言い、書類を差し出した。俺はその書類を受け取り、ペンで必要事項を記入する。
すべての項目を書き終えた俺は
「これでお願いします」
言いながら書類を手渡した。
獣人の受付嬢は書類に目を通すと
「はい、大丈夫です」
と答えた。
「ヴァルター・ケーニヒさんですね」
獣人の受付嬢はカウンターの上に冒険者カードを置いて
「では、こちらが冒険者カードです。身分証にもなるので、無くさないように」
言いながら進の方を見て
「例えば、キールさんが作って販売しているカードケースがオススメですよ」
と付け加えた。
「ありがとう。クリス」
進がそう言った。この獣人はクリスって名前なんだな。
冒険者カードを受け取ると
「以上で登録は完了です。依頼は、あちらに張り出されているので、そこから選んでください」
と言いながらカウンター横の掲示板を示した。その後、冒険者ギルドの説明を受けた。
「ところで、彼とはどのような関係で?」
「「最高の相棒さ」」
「あら、そうなんですね。あ、あと……。その……。失礼ですが、魔力が低いようで……。その……。そのような装備で大丈夫でしょうか……?」
大丈夫だ問題ないとは言えない。
「これから武器屋に行って装備を揃えるつもりなんだ」
「そうなんですね……。パーティを組まれては?」
「考えておくよ」
初めてのクエストと行くところだが、今の段階ではそれはできない。この世界の武器を揃えて装備し、情報収集してからだ。俺と進は冒険者ギルドを後にした。武器屋は、この街の大通りにある。大通りの脇には様々な店、特定の素材を扱う専門店などが多数並んでおり、早朝とはいえ大勢の人が行き交っている。
「なあ、キール。クエストで生活費を稼ぎつつ、お前の店を手伝って、調査隊の捜索、元の世界に帰還する方法を見つけることなんかできるか?」
「つまり、二人ですべて、こなせるのかと言いたいだろ?」
「そうだ。情報収集もあるし、レッドストームの脅威もあるから」
「うーん」
進は考える表情になり、間を置いて
「なにか解決策がないか考えてみるよ」
そう言った。
「やることリスト作らないとな」
「そうだな」
「この世界に銃は存在するのか?」
俺は話題を変え、進に尋ねた。
「ああ、ある」
進は答え、歩きながら簡潔に、この世界の銃について説明してくれた。その内容は、この世界の銃は実体弾を発射するタイプと魔力弾を発射するタイプがあり、実体弾タイプはホイールロック式の前装式で装填に時間がかかってしまう。
魔力弾タイプは設定で威力を変えられるのことだった。
この二つのタイプの共通点として、銃自体は魔法を放つのと比べて安定して撃てるが、精度が悪く、威力が弱い。さらに射程が短いそうだ。
そのため現在、この世界の銃は主力の武器として機能していなかった。
「できれば、ベルタを使いたいが……。世界観が合わないし、銃弾も無限にはーー」
「ディッケ・ベルタ」
「おい、今、なんて言った? もう一度言ってみろ。42センチ榴弾砲をお前に撃ち込んでやる」
進が足を止め
「ここだ」
と言った。
店の看板にはチェルガン語(ドイツ語)でゲーレンの武器屋と書かれていた。
進は武器屋のドアを開けると
「お前にオススメの店だ」
と付け加えた。店の中に入ると
「いらっしゃい……。キールか」
と店のカウンターにいる、いかにも職人のような印象を与えてくるドワーフが言った。
「グーテンモルゲン」
「武器を探しているんだ」
俺がチェルガン語(ドイツ語)で言うと進が小声で言った。
「チェルガン出身のドワーフの店主だぜ」
「初めて見るお客さんじゃな。キール、お前さんが言ってた最高の相棒かな?」
ドワーフの店主が言った。
「なぜ分かった?」
俺が尋ねると
「感じゃ」
とドワーフが答えた。
店内を見回すと、剣や槍、ハンマーなど、洗練されたデザインの武器が台の上に並べられていた。俺はラックに置かれた短剣を手に取り
「お、この短剣いいな」
短剣を鞘から取り出した。よく磨かれている。二、三度それを振り回した。柄はしっかり手に馴染んだ。
「短剣か、いいんじゃないか」
進がそう言うと、その光景を見ていたドワーフが言った。
「お前さん、その構え方素人じゃないな」
「分かるか」
「分かるとも。キールも同じ構え方をしていてな」
「コイツに教わりました」
進が俺を手で示して言った。
「おお、そうか、そうか。さすが、最高の相棒なだけはあるな」
「ありがとう」
進がドワーフの店主にお礼を言った。
「これにするよ」
俺はドワーフの店主にそう告げ、他の装備も物色した。
「まいど」
カウンターの後ろにある壁にはホイールロック式マスケットに見える銃、その下にはセレクターが付いた銃が並べられている。
「あの銃が気になるか?」
「ああ、見せてくれ」
ドワーフの店主が壁からホイールロック式マスケットを取り、店のカウンターに置いた。
「それはゼンマイの力でーー」
「仕組みなら知っている」
「なんじゃ、知っておるのか」
「魔力弾を発射する銃について教えてくれないか」
「そっちは魔力銃って呼ばれている銃じゃ」
ドワーフの店主が手でセレクターが付いた銃を示しながら言った。
「設定で威力を変えることができて、スタンモードにすれば相手を傷つけずに無力化できるんじゃ」
ドワーフの店主はそう言いながら魔力銃のセレクターを示した。
「そうか」
「出力と射程を弱めて、発射弾数を節約できるし、逆に出力を上げれば、発射回数が減る代わりに、射程を上げて大ダメージを与えれれる」
「魔力弾と実体弾の使い分けは?」
「実体弾の方は通常の武器として魔力抵抗が高いモンスターに使われるんじゃ。逆に物理攻撃に強いモンスターには魔力弾が使われることが多いんじゃわい」
「そうか」
「どうじゃ、一丁」
「いや、やめておくよ」
俺は短剣とグローブ、肘当て、膝当てを購入し、装備した。
「ダンケ」
ドワーフの店主にそう告げると
「初仕事ってところか?」
装備を身につけた俺にドワーフの店主が尋ねた。
「いや、他にやることがあるんだ」
「そうか……気を付けるんじゃぞ」
ドワーフの店主がそう告げた。俺と進は武器屋を後にした。
「似合っている。まるでSF映画の悪役みたいだ」
「俺のことなんだと思っているんだよ」
「その武器、どんな名前を付けるんだ?」
「そうだな……。フリードリヒ・デア・グローセ」
「ダメに決まっているだろ」
「じゃ……。ロスバッハ」
「ダメだ」
「ツォルンドルフ」
「ダメだ」
「クネルスドルフはどうだ?」
「お前、今いる世界が別の世界だと分かっているのか?」
進は呆れたような表情で言った。
「もちろん。分かっているさ」
「ならなぜ、フリードリヒ大王と彼が戦った戦場の名に由来する名前を付けたがる?」
「ダメか?」
「ああ、ダメだ」
「分かったよ……。お前なら、どんな名前を付ける?」
「ドイーーチェルガン的な名前なら、チェルジークがいいんじゃないかな」
「チェルジーク?」
「そうだ。チェルガン帝国の東側にある都市の名だ」
「いいね。それじゃ、この短剣の名前はチェルジークにするよ」
俺と進は中央広場に行き、そこから図書館へ向かった。
図書館に向かう道中だった。進が後ろから何かにぶつかった。進の方を見ると子供が進の足にぶつかったようだった。
「おい、気をつけろよ」
進がそう言ったが、子供の手には進の財布が握られていて、進はそれに気づいていない様子だ。
「おい、それはお前の財布じゃないぞ」
俺がそう言うと
「あっ、僕の財布」
ようやく、自分の財布がすられていることに気づいた。
だが、子供は俺達に背を向けたまま駆けだそうと!
「待て!」
俺は子供に駆け寄り、財布を持っている手を掴んだ。
子供は怯えた表情をして
「ご、ご、ご、ごめんなさい!」
と言って財布から手を離し、駆けだして、その場から去った。
「おい、待て……」
「やめとけ」
俺は言いながら財布を進に返した。
「スリには気をつけろよ」
なんだろう……。あの怯えた表情は? 誰かに脅されてやったのか? そんなことを考えながら目的地へ向かう。途中、風格のある大きな建物が見えてきた。あれは行政機関の建物だと進が教えてくれた。警察署も近くにあるそうだ。
「ここは本当に中世なのか?」
「いや、中世ヨーロッパ風のゲームみたいなファンタジー世界だ」
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