探時機
進が何か思いついたような表情になり、
「お前、探時機もっているか?」
唐突にそう聞いてきた。
「ある」
俺は机の上に置いた探時機を示して言った。
厚みのあるスマートフォンほどの大きさの装置で上半分にはディスプレイと電源ボタンが取り付けられた黒色。これは歴史改変の測定に使われる装置であり、値が高いほど周辺で大規模な歴史改変が行われたことになる。
「日本製の探時機だろ?」
「そうだ。改変されていないか測定したいか?」
「ああ、頼む」
俺は探時機上面にある電源スイッチを押し込み、起動させた。測定している間、俺は進に言った。
「俺はタイムマシンが大っ嫌いだ」
突然、探時機の画面に映し出されている数値が狂ったように上下しだした。次の瞬間、エラーが表示された。
「「ッ?」」
「何があった?」
進がうめくように言った。
「分からない。バグった……。探時機が機能していない……。クソ、この世界では使えないのか……。こっちの世界に持ち込んだ時に壊れたか?」
壊れた探時機は歴史改変の痕跡すら見つけられなかった。
「なら、タイムマシンもこの世界では使えないはずだ。システムがこの世界に対応しているとは思えない」
「そうか……。そうだよな。もし、使えたなら、この世界は奴らにとってパラダイスみたいな世界ーー俺達から見たら地獄のような世界になっていただろう」
「……何か必要なものはあるか?」
進がリュックサックを見ながら尋ねた。
「MG42」
「この世界にあるものにしてくれ」
「新聞はあるか?」
「ある。買ってこようか?」
「頼む。情勢や出来事が知りたい」
「分かった。買ってくる」
「ありがとう」
俺は進を見送った。
装備を確認し終えた俺は部屋が暗くなっていたことに気づいた。窓の外を見る。すでに夜になりかけていた。灯りをつける。しまった。集中しすぎたか?そう思いながらベッドの上に並べた装備をリュックサックにすべて収めたその時だった。ドアベルの音が聞えた。俺は寝室から出て、階段を降りて売場の方へ向かった。
「遅かったな。もう外暗いぞ」
「すまん、新聞紙を買うついでに寄り道してた」
進は大きな袋を抱えていた。
「買い出しか? 酒場の帰りに行けばよかったのに」
「いや、新聞紙を買った後に気づいたんだ」
進はそう言い、袋から丸めた新聞紙を取り出した。
「これが、この世界の新聞だ」
進から新聞を受け取ると『科学者暗殺されるブラッククロスの犯行か』と見出しが。
記事の内容には『過去数ヶ月にわたって複数の著名人や冒険者、身元不明の人物が暗殺されており、当局はーー』
「情報収集のため寄り道したんだ」
進は言いながら袋をカウンターに置いた。
「それで?」
「最近、きな臭くなってきてな」
「というと?」
「見出しに載っている通り最近、妙な事件が相次いでいるんだ。情報収集の結果、ブラッククロスが関与していると情報を得た。僕は、黒幕がレッドストームではないかと推測している」
俺は少し前の進の言葉を思い出した。
「もし、この世界に存在するレッドストームがリーニア王国を乗っ取るとしたら……?」
「ッ!? リーニア王国を弱体化し、国家転覆を狙っているとでも!」
進がうめくように言った。
「その可能性が高いな」
「クソ……。そうだな……。ただ、情報が少ない。まず、情報収集しよう」
「そうだな。続きは明日にしよう」
「そうしよう」
進はそう言うと袋を持ってリビングの方へ向かった。俺は寝室へ向かいベッドに腰掛け、新聞を読んだ。
新聞を読み終えた俺は特にやることがなくなり、身につけている装備を外し、ベッドに横になった。灯りを消す。もう寝るか。
……眠れない……。
あれこれと考える。あの時、なんでシオリはお守りだと分かったんだ? というか、シオリ、マノ、マモルって日本風の名前じゃないか。日本人転生者あるいは、転移者なのか? 少なくとも日本人が関わっているのは明白だろうな……。
あれこれ考えても仕方がないな。それより、もう寝ないと。明日は忙しい一日になりそうな予感がするから。
俺は無理やりにでも目をつぶり、眠りについた。
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