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ブリーフィング

 時間警察日本支部21世紀局 地下秘密基地 6月


 歴史改変、時間警察、魔法が存在する異世界なんてフィクションの世界だと思っていた。


「これから伝える内容はすべて機密の情報だ」


 時間警察日本支部21世紀局局長である時間管理官がプロジェクターのリモコンを操作し、任務の概要を壁に映し出した。


「今回の任務の情報だ」


 俺は加藤拓馬かとうたくま。時間警察日本支部21世紀局特殊部隊ギフ部隊隊長である。

 今、俺のいる場所は地下に設けられた秘密基地のブリーフィングルームだ。

 薄暗い部屋の中、椅子に座ってプロジェクターが映し出す任務の概要を眺めながらブリーフィングを聞いていた。


「半年前、我々時間警察日本支部21世紀局が追跡していた時間犯罪者が転移ゲートを使用し、どこかに逃亡。エージェント木戸がそのゲートを通過して追跡。転移した場所は魔法が存在する別の世界、つまり、異世界だった」


 半年前……。俺にとって最悪の出来事が降り注いだ時期だ。


「木戸は一週間、異世界で時間犯罪者を追跡し、見失った。途中、全時代行方不明の時間犯罪者に似た人物を目撃し、撮影した」


 プロジェクターが異世界の情景と共に一人の男が写る写真を映し出した。


「この写真の中央に写る男はレッドストーム関係者の一人、栗原とみている。この男と追跡していた時間犯罪者の関係は不明。木戸は任務を異世界の調査に切り替え、異世界の写真や資料を収集し、ゲートを通過して我々の世界に無事帰還した」


 プロジェクターがムー世界アルティラス大陸と書かれた地図を映し出した。


「このアルティラスと呼ばれている大陸は伝説のムー大陸に酷似しているため、この異世界をムー世界と名付けた。我々日本支部21世紀局はムー世界調査本部を組織し、異世界に通じるゲートを開く装置の複製ーー」


 俺は時間管理官の言葉を遮って質問した。


「向こうの世界の言語はどうなっているんです?」

「それは問題ない。木戸が持ち帰った資料やメモによると言語には共通点が多く、英語に相当する標準語。我々はこれをムー世界標準語と呼んでいる。チェルガン語は、ほぼドイツ語だそうだ」


 そう言ってニヤリと笑みを浮かべ、俺の前の机にファイルを置いた。中を開くとドイツ語ーーいやチェルガン語と英語に似た文章が収められていた。

 ペラペラとページをめくった。その後、自分たちがいる世界と異世界には共通点が多い説明を受けた。

 なんで、この任務に俺が選ばれたのか分かった気がした。


「一か月前、調査隊を編成。木戸を含む武装したエージェント三名がムー世界に潜入。彼らはリーニア王国のマリーニ街に滞在して、情報収集していたが、通信途絶。今回の任務に至るわけだ。お前の任務はファンタジー世界の冒険者としてムー世界に潜入し、調査隊の捜索、ムー世界に関する情報収集だ。もし調査隊が全員亡くなっていた場合、装備をすべて回収しなければならないーー」


 こんな時に佐藤進(さとうすすむ)がいればなぁ……。どんなに心強いか、そんなことを思いながら話を聞いていた。進は俺の相棒であり親友だった……。


「ーームー世界にレッドストームが存在するならムー世界から排除する必要がある。彼らが何をしでかすか分からないからな。だが、銃はなるべく使うな。ファンタジー世界に溶け込め」


 時間管理官がリモコンを操作し、プロジェクターがリーニア王国の地図を映し出した。


「ムー世界に繋がるゲートを開く。転移する場所はーー」


 右手の人差し指で地図を示しながら


「ここ、リーニア王国の森の中に存在するダンジョンの中に転移する。ダンジョンの中は木戸たちが探索したそうだが、念のため、クリアリングしながら進め。出口は外から見て偽装されているそうだ。転移したら、すぐに特殊回線を使って報告すること。その後、南東に歩いてマリーニ街で情報を収集。一週間後、定期報告を行え」

「了解」

「すぐに決行する。何か質問は?」

「なぜ、この任務に俺を選んだのです?」


 俺は尋ねた。


「それは、お前以外いないからだ」


 時間管理官は答えた。


 それを聞き、ブリーフィングルームから退室しようと立ち上がった時


「それから拓馬」


 時間管理官は言いながらガンケースを俺の目の前の机に置いた。時間管理官はガンケースを開けながら


「MP7A2ドイツ製だ」


 と言いニヤリと笑みを浮かべた。中にはMP7A2と40発マガジンが収められていた。


「使用が許可された。使い方は分かるよな」

「もちろんです」


 俺は言いながらMP7A2をガンケースから取り出し、構えて点検した。


「アタッチメントの装着はお前の自由だ」


 俺はMP7A2上面にホロサイト、エイミングデバイス。下面にフォアグリップ。右側面にフラッシュライト。そしてサプレッサーを装着した。名前はそうだなぁ……。ドーラだ。


「レッドストームの奴らが本当に存在するなら、コイツを使え。異世界でタイムマシンを悪用されたらーー向こうの世界で作動するか分からないが、最悪なのは明白だからな。だが、さっき言った通り、なるべく銃は使うな」


 ドアをノックする音。


「なんだ?」


 時間管理官がドアに向けて尋ねた。


「局長、時間管理本部22世紀課からです」


「ちょっと待て」


 言いながら局長と呼ばれた時間管理官はプロジェクターの電源を消した。


「入れ」


 局員の一人が部屋に入室し、時間管理官の方へ向かっていった。局員が時間管理官に受話器を差し出した。局長は受話器を受け取り


「はい、こちら日本支部21世紀局です」


 時間管理官は何度か会話を交わすと俺と局員を追い出すように部屋の退室を促した。


 黒を基調とした装備を身に着け、準備を整えた俺は過去の記憶を思い出す。

 父親が昔集めていた架空戦記や歴史改変小説を読んだのがきっかけで軍事、架空戦記、歴史改変に興味を持った。


 それから俺は自分の家系を調べてみたら、曽祖父は太平洋戦争中、戦艦大和の乗組員として、坊ノ岬沖海戦で戦死したことを知った。別に家族はそのことを隠していたわけではなかったが、戦艦大和の乗組員だったと知った時は驚いた。その後、俺はちょっとしたミリオタとして真面目に生きてきた。


 人生を一変する出来事が起きたのは高校三年の時だった。歴史改変に遭遇してしまったらしい。正確に言うと当時、俺の友達の佐藤進が奇妙な石碑を発見したのを発端とした歴史改変だ。この時まで、時間警察や歴史改変をフィクションの世界だと思っていた。


 俺と進の二人で独自に調査していたが、途中で時間警察日本支部のエージェント藤堂が現れて事情聴取された。 俺と進は時間警察日本支部の捜査に協力し、時間犯罪者逮捕に貢献した。

 その後、時間警察日本支部によって、歴史は修復された。


 だが、歴史改変の影響か、当時付き合っていた彼女に一方的に別れを切り出されしまった。

 しばらくして放課後に呼び出しされ、顔面に水をかけられた。そして降りかかるクラスメイトの罵詈雑言の嵐。

 元カノは新しい彼氏とクラスメイトに俺を貶めるため、自分に都合がいい嘘をついていた。 彼女に裏切られ、クラスメイト全員が敵になってしまった。友達のままでいてくれたのは佐藤進だけだった。


 高校卒業後、俺と進は時間警察日本支部にリクルートされた。俺は裏切った元カノやクラスメイトだった人たちを見返したいという思いで時間警察に入った。

 俺と進は相棒として訓練し、日本支部21世紀局に配属された。エージェントとして本当に信頼できる仲間たちと共に活動した。


  俺と進が行った任務として、過去にタイムスリップしてしまった人の救出、時間犯罪の捜査、摘発。時には、過去の広島、呉軍港で若い頃の曽祖父に出会ってしまったこともあった。 その後、俺は特殊部隊に入隊し、時間警察日本支部21世紀局の特殊部隊の隊員となった。

 俺が特殊部隊の隊員になっても進は俺の相棒を務めていてくれた。


 しかし、一年前、佐藤進が潜入捜査中に全時代行方不明に……。全力で捜索した。発見できず、死亡扱いになった。この時、俺は時間警察、時間犯罪者、タイムマシンの開発者全員を恨んだ。殺意すら覚えた。俺は佐藤進は生きていると信じていた。


 いつ再会しても良いように佐藤進の誕生日に渡す予定だったプレゼントと全時代行方不明になる直前に落したと思われるお守りを常に持ち歩いている。


  悲しんでいる時間を与えられず、武装歴史改変組織三勢力が互いに対立し、極端な歴史改変を引き起こしてしまい、時間管理本部より上の連中の直接介入を招いた。とんでもなく悲惨な状況だった。一冊の小説が作れるではないかと思ったほどだ。

 歴史は修復された……。はずだった……。坊ノ岬沖海戦で戦死したはずの俺の曽祖父が生きているという矛盾を生み出してしまった。


 歴史とは複雑な情報の集合体であり、その内部には矛盾が満ちている。

 短時間の改変では歴史という情報が持つ自己修復性の中に消えてしまう。長期にわたって大規模な改変を行わない限り歴史は改変されない。


 戦死した俺の曽祖父が生きているという矛盾の影響として、俺と時間警察関係者以外の人間が存在しないはずの曽祖父の歴史、曾祖父は太平洋戦争を生き延びたと認識してしまったことだ。

 そして半年前、俺にとって最悪の出来事が降り注いだ。その結果、特殊部隊ギフ部隊隊長に……。

 心は折れかけた。なんとか立ち直ったが……。

 そして今に至る。


 俺は調査隊の捜索のため単独で異世界に冒険者として潜入することになった。

 中世ヨーロッパ風の異世界に合う服装と現代装備を身に着け、ホルスターにサプレッサーとフラッシュライトを装着したドイツ製の拳銃USPタクティカルを収め、黒いフード付きマントでホルスターと装備を隠し、その他の装備が入ったリュックサックを背負った。


 ちなみにUSPタクティカルにはベルタと名付けている。俺の嫁だ。


「……妙な格好だな」

 本来のマントの使い方と違うが、まぁいいだろう。


 ムー世界調査本部の部屋を抜け、薄暗いコントロール室に入った俺はムー世界転移ゲートを見て呆然とした。

 なぜならば、ゲートはダークグレーで、その左右には三つの制御卓があり、魔法が存在するファンタジー世界へ転移するゲートには見えず、SF作品に登場しそうな印象を与えてくるからだ。


「拓馬隊長、ようこそ。ムー世界へのゲートを開きます」


 声がした方を振り向くと、博士が立っていた。保護メガネをかけていた。


「これを」


 と言いながら俺に近づき、博士は保護メガネを手渡してきた。博士の後ろには時間管理官が立っていた。

「ありがとう」


 俺は言いながら保護メガネを受け取り、装着した。


「帰還の際にも忘れずに」


 俺はゲートの方へ向き直って歩こうとしたその時


探時機たんじきは持ったか?」


 時間管理官に声をかけられた。


「はい」


 俺は時間管理官の方に振り向きながら答えた。

 時間管理官は俺の姿を見て


「SF映画の悪役みたいだな。赤く輝く剣を振り回してそう」


 笑いを含んだ声で言った。


「転移場所は本当にファンタジー世界で合っていますか?」

「ああ、そうだ。だが、これだと、ファンタジー世界というよりも、月面基地にでも転移しそうだな……。くれぐれも別の世界から来た人間だと悟られるな」


 時間管理官はそう言って保護メガネ装着した。


「最後に確認だが、本当に一人で行くつもりか、今からでもーー」

「お気遣い感謝します。ですが、これ以上仲間を失いたくない」


 俺は時間管理官の言葉を遮って答えた。


「分かった」


 俺はムー世界転移ゲートに向き直った。左右の制御卓その中央を歩く。

 コンソールとディスプレイを睨んだまま操作員がキーボードを叩く。


 俺はムー世界へと繋がるゲートの目の前に立った。

 まるで新大陸を発見し、その大陸に初めての一歩を踏み出す気分だ。

 ゲートはまだ起動されておらず、闇が続く空間だった。


「ムー世界転移ゲート起動」


 博士が言った。


「ムー世界転移ゲート起動」


 操作員の誰かが復唱し、ゲートが青白く輝きだした。


 ゲートの前に立ってから数分が過ぎた時、徐々に輝きを強めだした。


「出力50%」


 操作員の誰かが報告した。


「出力安定」

「全システム異常なし。まもなく準備完了します」


「出力60%」


「70%」


「80%」


「90%」


「出力100%」


「準備完了。出力安定」


 ムー世界へ繋がるゲートが開いた。


「拓馬隊長、どうぞ」


 それを聞いた俺はゲートへ、一歩一歩ゆっくりと青白く輝く光へと歩いていった。


「お気をつけて」


 博士の声だった。それを聞き、俺は光に包まれながらムー世界に転移した。

読んでいただきありがとうございます。

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