人形のワルツ
昔、昔、村のはずれに魔女に作られた、一つの人形が住んでいました。
人形は人を知らず、痛みを知らず、心を知らず、愛を知りませんでした。
そんな人形のところにある日、一人の少女がやって来ました。
少女は人形に、一日ここに置いてくれないか、と頼みます。
人形は初めて見る人の姿に見惚れながらそのお願いを聞き入れました。
人形の家は豪邸と呼ぶにふさわしく、その様に少女は目を奪われました。
そんな少女の様子を見ていると、人形の胸の中に暖かいものが込み上げてきました。
人形はそれが何か分からず少女に問いかけます。
すると少女は言いました。
それが心だと。
その言葉に人形は電撃に打たれた様な感覚に襲われました。人形は理解します。
これがココロなのだと。
それを教えてくれたお礼として、人形は少女に精一杯おもてなしをします。
少女はそのどれもをありがとうといって嬉しそうに受け取るのでした。
その晩、少女は布団に潜ると人形に外の世界の話をし始めました。
外には、他にもいろんな人がいること、綺麗な花が咲いていること、そして、太陽という温かく明るいものがいつもみんなを照らしてくれること。
人形は初めて聞くことにとても楽しそうでした。
何より、それを話す少女の姿が明るく、温かく、これがきっと太陽なのだと人形は思いました。
翌朝、人形の家を出て行こうとする少女に人形は言いました。
一週間後、またここにきて一緒にワルツを踊ってほしいと。少女は少し戸惑い、それから困ったような顔をしてその頼みを了承しました。
人形は次に少女がやってくる時を楽しみにして待ちました。
しかし、一週間経っても少女は現れません。
それから、一日、二日、三日待っても少女は人形の元には来ませんでした。
人形は意を決して家の外に少女を探しに行きました。
人形は少女について聞くために近くの村により、そこにいた1人の村人に少女のことを聞いてみました。
村人は答えます。
「その、お嬢ちゃんなら、この間死んだよ。なんでもこの村に流行り始めた病の原因がそのお嬢ちゃんの母親らしくてな、だからそのお嬢ちゃんと母親を焼き殺したのさ」
人形は村人が何をいっているのか理解できませんでした。
なぜあの太陽のような少女を殺さなければならないのか、人形にはわかりません。
その瞬間、人形は胸の中で渦巻くドス黒いものに気付きました。
人形はそれに身を任せました。
人形が目を覚ました時、村には人がいませんでした。
あるのは焼け落ちた家と焦げる肉、燃え上がる巨大な炎だけでした。
人形はその炎に少女の姿を見ました。
人形はすがるような気持ちでその少女の手を取ります。
すると、少女は優しく微笑み人形の手を引いて一緒にワルツを踊り出しました。