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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

眩暈

作者: 小坂暦

 短く震えるスマートフォン。

 バイブレーションは僕の貴重な睡眠を土足で踏み散らかし、耳から聞こえてきたのはよく分からない生存確認だった。


 「元気?」


 「んぁ......」


 返事をする間もなく途切れた。

 朝から一体何だってんだ。


 赤く腫れた左目はいつものことで、当然のように顔を洗い、目薬を差す。

 つけっぱなしのエアコンはやる気がないのか、今日の喉の調子はいつもよりマシだった。



 思っていたより空は晴れてた。

 うっすらとかかる雲から光が漏れ、街往く人は少しだけ生まれたままの姿になる。

 文明の利器とはすごいもので、鉄の塊の中では11月を思い出した。


 階段を下り、空に手をかざし、行く宛も分からぬ人の後をつける。

 次第に夏が蘇った。

 暑いのは嫌いだな。

 汗をかくから。



 言うかどうか迷っていたけれど、背の高い人の勧めで言うことにした。

 思っていた通りの反応が返ってきた。

 なんだかいつもより優しい。

 あ、そんなことを言うと怒られてしまう。

 あなたはいつも優しいですよ。


 これはまるで、そう。

 例えるならば。


 好きでもないクラスメイトの女子に彼氏ができたような。

 押し付けられて使っていた化粧水が無くなったような。


 僕をコケにしたアイツが、交通事故にあったと聞いたような。


 全部違うようで、そうじゃないとも言える。


 

 熱が出た気がしたから、缶コーヒーを買った。

 何本目かは覚えていない。

 そんなものは、アプリの履歴を見れば容易いもの。


 頭が痛い。

 気持ち悪い。


 吐き気がこみ上げるけど、飲み込もうとする自分が気色悪い。


 

 うううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう。




 本当は明後日帰る予定だった。

 車が必要だった。

 たくさん人が乗れる車が。


 書類を書いた。

 何かもらった。

 なんだこれは。


 にゃんにゃんにゃんにゃん。

 

 わん。



 可愛い妹は元気にしてるだろうか。


 予期せず長い休みが手に入ってしまった。



 胸の気持ち悪さを吐き捨てに、お金を溶かしに行った。

 コカ・コーラを飲んだ。


 追い越し車線を走る車が遅くて、みんな左車線から追い抜いて行った。

 僕も左に車線変更したけど、それだけだった。



 今日は眠くない。

 やっぱり眠い。

 

 お風呂に入らなきゃな。


 お金も欲しいな。



 楽しみにしていた商品が届いていた。

 箱を開けて、充電したんだ。


 強く振動するんだって。


 僕も押しつぶしてくれないかな。








 明日の天気悪いんだって。





 まだ頭が痛い。


 つらい。








































 7月25日、午前5時ごろ。


 ここ数年まともに顔も見てなかったおばあちゃんが息を引き取った。



 82歳だった、らしい。

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