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三姉妹が忠光の足を見る。
どうもそこまでの怪我とは思えない。
「そんなに心配しなくて大丈夫だよ。この人、足が痛い痛いって言うけど、他の所はものすごく元気なんだ。あたい、ほんとに大変だったんだから」
加代が照れ、笑顔で告げる。
三姉妹のとんでもなく冷たい視線が父に注がれた。
「ん? さっきから何だ、その顔は? それより、お前たちはどうしてここに?」
忠光の問いかけに三姉妹は呆れ、顔を見合わせた。
「ははーん」
刀也が声を発する。
「陣内さん?」
隣に立つ龍幻が呼ぶ。
「何ですか?」
「読めてきたぞ」
刀也が右手を顎に当て、したり顔になる。
「霞家と霧島家を噛み合わせ、両方を一度に倒す策だ」
「「「え!?」」」
三姉妹が驚く。
「元々は忠光殿を襲い、殺すつもりだった。しかし、それが失敗した賊たちは一計を案じた」
「一計?」と龍幻。
「ああ。山中へ逃げた忠光殿が姿を現さぬうちに、本丸を攻めようと考えたのさ」
「本丸?」
「行方知れずの忠光殿を霧島が斬ったと霞家のお嬢ちゃんたちに思い込ませる。必死の様子でやって来る霞家に霧島家はどうなる? いきなりの卑怯者扱いに、普段から指南役の件でぎくしゃくしている両家が揉めだすのは必定。いや、もっと大きな死闘に発展する可能性も高い」
「なるほど」
龍幻が頷く。
「実際、私と藤華さんは…」
ちらりと藤華を見た。
どういうわけか、急に恥ずかしくなった藤華が下を向く。
「斬り合いになってしまいましたからね」
「き、き、斬り合い!?」
忠光が眼を丸くする。
「藤華、何てことを!」
天を仰いだ。
「ごめんなさい、父上」
藤華が深々と頭を下げて謝る。
「否、これは私に非があります!」
龍幻も忠光に頭を下げた。
「世に聞こえた霞流剣法、ぜひこの眼で見てみたいと、つい…藤華さんには全く何の落ち度もありません」
「そ、そうか…龍幻殿が怒っておらぬなら、まあ良いが…」
忠光が、ほっと表情を和ませる。
龍幻が自分を庇ったことに、藤華はますます顔を赤らめてしまう。
全容はまだ見えないものの、明らかに決闘の雰囲気からは、相当に皆の気持ちがほぐれてきた。
「おい、どこへ行く」
突如、刀也の声が響き、その場から離れようとする官兵衛の肩を右手で、むんずと掴んだ。
「い、いや、わしは…もう、一件落着しただろう…急用を思い出したのだ」
「下手な言い訳だな。顔が真っ青だぜ」
「な、何だ、無礼だぞ!」
「おい、ふざけるな。どう考えても、お前が怪しい」
「ぐぬぬぬ…」
「賊を操り、忠光殿を襲わせた。それが上手くいかず、次は嬢ちゃんたちを騙した。そうとしか思えん」
「「「おじ様!?」」」
三姉妹が青ざめる。
先ほどからの刀也の推理に、すでに気付いてはいたが、やはり長年、懇意だった官兵衛を疑うのは心苦しかったのだ。
若い娘たちの悲しみを一身に受けた官兵衛の顔が歪む。
「官兵衛」
忠光が落ち着いた声で呼びかけた。
「この度の当家と霧島家の新たな結び付きが、気に入らなかったのか?」
「………」
「お前は霧島家と対立している家々と繋りがあったな。そちらに与したのか?」
「そうだ…」
官兵衛が絞り出すように白状した。
「お前が愚行に出ねば、こんなことには…」
「愚行?」
「そうだ、霞と霧島はそもそも相容れんのだ…」
「我らにはお前たちが必死にやっている政の争いこそが愚かに見えるがな」
忠光はひどく悲しげな顔で、古くからの友を見つめた。
「俺が斬ろうか?」
刀也がいきなり、物騒なことを言う。
「しがらみがないからな。このまま逃げれば両家にも、お咎めはあるまい」
刀也が発する殺気を受け、官兵衛が小刻みに震えだした。
青い顔に、だらだらと大粒の汗を流している。
「その必要はない」
忠光がきっぱりと告げた。
「官兵衛を放してやってくれ」
肩をすくめ、刀也が手を離す。
官兵衛は最後に忠光を見つめた。
そして、霧島家の粗末な門扉から転がるように出ていった。
「後悔するぞ」と刀也。
「いや、大丈夫だ」
忠光が頷く。
「で?」
刀也が両手を広げる。
「どうする? 皆で飯でも? 顔合わせを始めるか?」
「顔合わせ?」
龍幻が首を捻る。
「陣内さん、いつもの冗談ですか?」
「は? おい、本気か!?」
刀也が呆れ顔で訊き返す。
「さっきの忠光殿の話、聞いてたろ?」
「ん?」
「霞家と霧島家が結び付く。そのために忠光殿はこの道場に来たんだ」
「んー?」
「………お前は…本当にこういうことになると、からきしだな」
「?」