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 斬撃をしのいだ龍幻はそのまま身体を反転させ、振り向きざまに藤華の刀を弾き退()けた。


 それと同時に後方へ跳び、距離を取る。


 二人は再び最初の間合いで対峙した状況となった。


「面白い」


 龍幻が口を開く。


 先ほどまでは、ほとんど無表情だった顔が(かす)かに笑っている。


「藤華殿」


 龍幻の呼びかけに、藤華が(わず)かに頷く。


 長刀をもう一度鞘に納め、対決冒頭の逆手構えに戻った。


「はい」


「あなたは強い」


 龍幻の称賛に霧島門弟たちが、どよめく。


「わ、若が!?」


「褒めたのか!?」


「若がおなごを褒めたぞ!」


「信じられん!」


「この世の終わりか!?」


 あまりの言われように、龍幻が不服そうに顔をしかめる。


「ごほん」


 咳払いをひとつした。


 それで門弟たちは全員、口を閉じる。


「とても素晴らしい」


「え!?」


 対戦相手の思いもしない言葉に、藤華が戸惑う。


 家人(かじん)以外に、そこまで手放しの賛辞を受けたことがなかったため、頬を真っ赤に染めた。


「あ! あ、ありがとうございます…」


 最初は大声を出しすぎ、最後はひどく小さな声になった。


 はにかむ姉の姿を見て、綾女と桜がくすくす笑いだす。


 あれほど張り詰めていた決闘の緊迫感が、あっという間に薄れてしまう。


「まあ、こんなところか」


 刀也までが、そう呟いたところで。


「騙されるな、藤華!」


 官兵衛が叫んだ。


「まだ勝負はついておらぬぞ! そいつを倒さねば忠光は捜せぬ! 早くやっつけろ!」


 その言葉に藤華が、はっとする。


 確かに官兵衛の言う通り、何らかの形で龍幻に勝利しなければ離れを(あらた)めることは出来ない。


 藤華が一歩前に出た。


 これに応じ、龍幻も刀を正眼(せいがん)に構え直す。


 またも戦いが始まると思われた、その時。


「否、ここまでだな」


 刀也が口を開いた。


 右手を顎に当て、珍しく神妙な顔をしている。


「いいや、やめるな! 藤華、早くそいつを斬ってしまえ!」


 官兵衛が鬼の形相で(つば)を飛ばす。


「うーん? おっさん、怪しいな」


 刀也が双眸を細めた。


「な、何だと!? 浪人風情(ろうにんふぜい)が無礼だぞ!」


「まあ、どっちにしろ、この勝負はここまでだ」


「何を言うか! 終わらぬ、終わらぬぞ!」


「いいや、終わるね。何と言ったって争いの元が向こうから」


 刀也が霧島家の門扉を顎で指した。


「やって来たからな」


 藤華と龍幻の戦いが始まったため、皆の注意は自然とそちら側からは()れていた。


 刀也の言葉で、全員の視線が門扉に集中する。


 五十代ほどの旅装束の侍が、やや太った女の肩を借り、松葉杖を突きつつ、こちらに歩いてくる。


 その侍の満面の笑みを見た三姉妹が一斉に「「「父上!」」」と声をあげた。


 慌てて忠光に駆け寄る。


「おう、藤華、綾女、桜ではないか! いったい、どうしたのだ!?」


 忠光がとんまなことを言う。


「ど、ど、どうしたですって!?」と綾女。


「それはこっちの台詞だよ!」


 桜が怒って、頬を(ふく)らませる。


 藤華は瞳を潤ませ、黙って父を見つめた。


「ん?」


 忠光が首を傾げる。


「どうしたもこうしたもあるか。わしは霧島道場に用があると、ちゃんと説明したぞ」


「それはそうですが…では、父上は今までどこで何をしていらしたのですか?」


 藤華が疑問を口にする。


 綾女と桜も頷いた。


「ああ! それはな」


 忠光が微笑む。


「道中で賊に襲われてな」


「「「え!?」」」


「いやいや、たいした奴らではない。斬って捨てるのは簡単だが、それも何やら寝覚めが悪くなる。山中を駆けて()いてやろうと思ったのだ」


「「「………」」」


「今思えば、それがまずかった」


 忠光が眉間にしわを寄せる。


 が、すぐに鼻の下を伸ばし、隣の愛嬌ある女の顔をじっと見つめた。


 年の頃は二十代後半か。


 質素な身なりから、百姓であると分かる。


「いやいや、こうして加代(かよ)と出逢えたのだから、幸運だったと言うべきか」


 忠光の眼差しに加代が頬をほんのりと赤く染めた。


 二人の様子にたちまち、ぴんと来た三姉妹が眼を細め、父親に冷たい視線を送る。


「ん? 何だ、その妙な顔は? とにかく山に逃げたわしは途中で足を(ひね)ってしまってな。そこで偶然、山菜採りに来た加代に助けられたのだ。で、こうして動けるようになったのが昨日のことだ」











 











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