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「どうして霧島の人たちが!?」と桜。


「お前たちも知っておろう。家中(かちゅう)では指南役の龍斎殿よりも忠光が強いという声も少なくなかった。ただ霞流は独特ゆえ」


 官兵衛の言葉に三姉妹は頷く。


 確かに霞家の剣技は他とは少々、違った。


 その自覚は充分に持っている。


 当主、康成もそれを考慮し、どちらかと言えば王道に近い動きの霧島流を指南役に選んだのである。


「霧島の門人(もんじん)には『おふざけ剣法に遅れをとると思われては黙っておれん』と息巻いている者も居るというぞ」


「では金山のおじ様は霧島の方々がそれを気に食わず、父を騙し討ったと!?」


 まだ事実も分からぬ内から、綾女が両眉を吊り上げ、拳を握り締める。


「おお、まさにそれだ! 霧島道場には龍斎殿の嫡男(ちゃくなん)龍幻(りゅうげん)も居ると聞く。何でも、かなりの腕前らしいぞ。他の門弟たちと(たば)になって襲われたなら、いかな忠光といえども」


「嘘! 嘘、嘘!」


 桜が、べそをかく。


「父上が殺されたなんて嘘!」


「しかし実際、忠光の姿は無い。もう三日だぞ。とっくに霧島に着いておらねばおかしい。奴らが何かを隠しているのではないか?」


「藤華姉っ!」


 綾女が姉を見る。


 桜もそれに続いた。


 藤華が双眸(そうぼう)を閉じる。


 しばしの沈黙。


 ゆっくりと眼を開けた。


「霧島道場に行きましょう」


 静かな口調で宣言した。


「そうこなくっちゃ!」


 綾女が膝をぽんっと打つ。


 早くも立ち上がった。


「わしも行くぞ!」と官兵衛。


「おじ様、ありがとう!」


 桜が喜ぶ。


 三姉妹にとっては、もはや身内と思える官兵衛の助力は心底、心強い。


 こうして、消えた父の行方を確かめるべく、三姉妹は旅支度を整え、官兵衛を(ともな)って山中にある霧島道場へと出発したのであった。




 朝方に突如現れた三姉妹と官兵衛に、出迎えた霧島門弟は泡を食った。


 それも当然、訪問者全員が帯刀し、綾女に至ってはそのがっちりとした右肩に槍まで担いでいるのである。


 質素な門扉で一行に応じた若い男は、いよいよ霞家が攻め込んできたかと、慌てて道場内に戻った。


 すると官兵衛が、誰も居ないのを良いことに敷地内へとずかずかと踏み込む。


 これには三姉妹も、まだ許しも得ぬのに敷地に侵入する無礼にいささか罪悪感を覚えたのだが、官兵衛への日頃の信頼と父の安否の不安とが合わさり、それもやむ無しと納得してしまった。


 道場入口の見える、開けた場所で四人はしばらく待った。


 すると、またも官兵衛が一歩踏み出し、道場内に入ろうとする。


 さすがに藤華がこれを制止しようとしたところで。


 道場入口から、ばらばらと十人ほどの霧島門弟たちが現れ、訪問者四人と対峙(たいじ)した。


 皆、これを敵の襲撃と認識し、眼の色を変えている。


 血気にはやる男たちと向かい合った三姉妹は、早々にその後ろに隠れた官兵衛を(かば)い、堂々と並び立つ。


 気の早い門弟の何人かが、早速(さっそく)、腰の刀に手をかけるのを見て、綾女と桜も武器の用意をした。


 藤華だけは落ち着いた眼差しで霧島門弟たちを見据(みす)えている。


 と、居並ぶ門弟たちを掻き分けて、一人の男が姿を現した。


 二十代半ばほどか。


 背が高く、痩せている。


 粗末な着流(きなが)し姿で腰の刀に右手首を軽く乗せ、緊張感のない顔で三姉妹にざっと視線を走らせた。


「ほお」


 男が左手を顎に当て、片方の口端をくっと吊り上げた。


「これが噂の霞三姉妹か」


 (まげ)()わぬ、ぼさぼさ髪を揺らし、首を傾げる。


「お嬢さん方は、決闘に来たのか?」



























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