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 我々の知る戦国とは別の世界の戦国。




 地方大名、結城康成(ゆうきやすなり)臣下、霞忠光(かすみただみつ)の屋敷に普段より懇意(こんい)の同じく結城家臣、金山官兵衛(かなやまかんべえ)が血相を変えてやって来たのは、昼時(ひるどき)をやや過ぎた頃であった。


 肝心の忠光は三日前に娘である三姉妹、藤華(ふじか)綾女(あやめ)(さくら)に妙ににやけた顔で「殿の剣術指南役、霧島龍斎(きりしまりゅうさい)殿の道場へ行ってくる」と唐突に宣言したかと思うや、すぐさま出発しており不在。


 父の発言の際、清楚な風貌の長女、藤華がこの娘にしては珍しく眉をしかめ「道場? お屋敷ではないのですか?」と疑問を口にした。


 忠光はさらに破顔(はがん)し「それよ、それ。それが理由のあることでな。龍斎殿と話を詰める前に、わしのこの両の(まなこ)でしかと確かめねばならんと思うてな」と答える。


「は?」


 三姉妹の中では最も体格が良く、さばさばとした性格の次女、綾女が首を傾げる。


「全然、意味が分かんない」


 色気とは程遠い男勝りな物言いで、胸の前で両腕を組んだ。


 忠光がその態度を注意しようかどうか、しかし言ってもどうせ直らぬしな、などと考える内に、まだ少女のかわいらしさを残した三女の桜が「霧島の道場ってどこにあるの?」と若い娘らしい好奇心を素直に口に出した。


 上から十六、十五、十四の歳若い娘たちに多種多様な眼差しを向けられ、忠光は口を開いた。


「霧島道場は山中にある。ここより徒歩で二日はかかるな」


「龍斎様ならば、本城にて康成様をご指南されているはず。そちらではなく、霧島家に行く理由が?」


 重ねて(たず)ねる藤華。


 やはり、そこが気にかかっていた。


「それは」


 またも忠光が、にやつく。


 美しい三姉妹の父親とあって、なかなか整った容姿だが、どうも人を(けむ)に巻いては楽しむ性質(たち)(あだ)となり、全く女にもてない。


 そのせいで、三姉妹の母である妻と、桜が物心つく前に(やまい)で死別してからは、浮いた話が皆無(かいむ)なのであった。


 ちなみに母が亡くなってからの家事は屋敷の老齢の侍女と協力し、妹たちの世話込みで藤華が(にな)ってきた。


「まだ言えぬのだ」


 そう言うと勝手に噴き出し、一人で身体を揺らしている。


 このふざけた男が三姉妹に稽古(けいこ)をつける時だけは、霞流剣法と槍法(そうほう)の達人となることが、当の娘たちでさえ不思議であった。


 まるで別人である。


 結局、忠光は霧島道場を訪ねる真の理由を明かすことなく、そそくさと旅支度を済ませると、一人で出立してしまった。


 そして三日後の昼、霞家に姿を現した金山官兵衛の開口一番(かいこういちばん)が「大変だ!」なのであった。


 小太りの中年侍は屋敷の客間に通されると、汗を拭き拭き、前に並び座った三姉妹たちに、忠光が行方不明となった経緯(いきさつ)を告げた。


 これには娘たちが、たちまち青ざめる。


「金山のおじ様が何故それを?」


 藤華が疑問を口にした。


「それは…」


 官兵衛は一瞬、黙り、視線をやや泳がせた。


「わしの知り合いが、たまたま聞きつけたのだ。二日あれば霧島道場に着くはずの忠光が突如として姿を消したと」


「そんな…」


 綾女が絶句した。


 桜も不安げに、両手を胸の前で握り合わせている。


 少々の納得し(がた)さを感じる藤華が、年齢のわりにはひどく落ち着いた眼差しで官兵衛をじっと見つめた。


「これはわしの考えじゃが」


 突然、官兵衛が声を張った。


「忠光は霧島の者たちに斬られたのではないか?」


「「「ええ!?」」」


 三姉妹が同時に驚きの声をあげる。



























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