ポンコツパーティ
「マジうけるんですけど。何そのアクセプトプルプル。ハア? って、感じ」
「……うるせえ」
「翔斗。ゲームのし過ぎよ。現実とゲームの中の出来事との区別が出来なくなってしまっているのよ。だってそんな、アクセプトプルプルだなんておかしな病気、母さんも聞いたことないわ」
でしょうね。それが普通の反応でしょうね。
家に帰った僕は、今日の出来事を母さんと妹に説明してやるが、二人とも一向に信じてくれない。
「でも大学病院の先生にそう言われたんだよ。市立病院の先生も普通の痔じゃないって……」
「だから、ゲームん中で病院行って来たんじゃね?」
「いや、違うって、領収書見せようか、ほら」
「もういいわ。明日はちゃんと学校行きなさないね。しばらくはゲームも禁止よ」
「えーっ、無理だよ。授業中ジッと座ってるなんて出来るわけないよ。母さんはこの病気になった事ないから平気でそう言うけど、僕は今、禁止なんかされなくたって大好きなゲームもできない身体なんだ。だから、明日も学校は休みます」
「そんな事言って、寝転んでやるんでしょ」
「ま、まあその手もあるにはあるな」
クソ、我が妹ながら鋭い。可愛いけれど憎いヤツだ。
ただ、環境的に実況配信は寝転んでやるのは難しいんだけれど。ゲーム自体はどうにかやれる。いや、どうにかしてでもゲームはやる。意地でもやる。できないなら死ぬ。ノーゲームノーライフ。それが俺である。
「やっぱり駄目よ。これ以上休んだら留年しちゃうんだから。明日は必ず学校に行く事」
「うぐぅ」
「さあ、もうご飯できたから、席に着いていただきましょう」
晩御飯は大好きなハンバーグだったが、お尻の痛みと医者の変な告知のせいでほとんど味がしなかった。
「さてと」
自分の部屋に戻った俺は、PCデスクからコードに気をつけながらディスプレイを床に下ろす。もちろん、キーボードやマウスなどもそれに倣う。ゲーム機やテレビも全部床に配置してそれと垂直になるようにゴロンと寝転んだ。
当然、普段はゲーミングチェアに座ってディスプレイもデスク上にある訳だが、お尻の事情がそれを許さない。
最近主に配信しているのは、剣と魔法のアクション物のゲームだ。『Rondo Adventurer』というゲームでもう始めてから一年近く経過する。
画面に現れたイケメンの剣士がばっさばっさとモンスターを剣で切り裂いていく。
ゲームに熱中していると、お尻の痛みや医者に言われた訳の分からない病気の事も忘れてしまっていた。
中級ダンジョンに潜り、攻略を進めていく。
ボス戦突入だ。
巨大な三つの首を持つ竜との戦闘だ。
パーティメンバーは四人。前衛には僕ともう一人屈強な戦士。後衛に魔法使いの少女と女狩人。
ソロプレイのゲームだから、他のプレイヤーなんかはいない。俺が操作できるのも主人公であるイケメン剣士だけだ。それ以外はNPC。彼らと上手く連携をとって敵を倒す事がこのゲームの最大の醍醐味だ。
【つっよ。こいつマジですか。剣のダメージ通ってるのかなあ。てか、ミイアさん寝てませんか?】
配信用のマイクにしゃべりかける。ライブ配信中なので、すぐにチャットで反応がある。
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【チャット民】
サラリーモン:『魔法使いミイアちゃん爆睡ww』
ぽんこつ総大将:『寝ているミイアたんにチッスしろ~』
やほやほ:『なんでこのタイミングで寝れるかな。ナルコレプシー、とかっていうやつ?』
curry udon:『戦士は槍投げちゃうし、魔法使い寝てるし、狩人は姿消してるし、このパーティー混沌過ぎんか』
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【ほんと、なんなんだろね~。こんなポンコツパーティーある? 実際にこんなだったらもう泣くしかないね】
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【チャット民】
MIHON:『泣いてもええで(撫で』
ぽんこつ総大将:『いいからチッスだよ。男見せてよ。おーとーこ』
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【うおっ、右の首からブレス来たぁっ。ヤバこれ、ダンクさん直撃かよ。死んだかな。もしかして勝てないイベント戦ですかねえ】
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【チャット民】
マッドショット:『いや、まだ死んでない。でもアーマーブレイクしてる』
かのん★★★:『筋肉さん鎧脱いでるやん』
またたびワンコ:『ダンクさんなんで裸なんですかねぇにやにや?』
あるぱぱ:『たとえ負けイベでも気合で勝つ。お前ならできる』
YOGUMA:『ドラゴンブレスくらって裸になった?
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【いや気合1000パーでも勝てないでしょ。そんでダンクさん裸で前に立つのやめて~】
画面にドアップでムキムキ戦士のお尻が映し出されている。適度に張りがあって意外に綺麗なお尻である。
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【チャット民】
ランダム娘:『これ勝てないよね(泣)』
いってらBOY:『まだ早すぎたんだ。腐ってやがる。てか、レベル低すぎなんじゃ』
かのん★★★:『ギリギリショーンさん。マジギリギリ』
ヘロン:『尻……、これ配信的に大丈夫か?』
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【ほんと、ギリギリですね。ギリアウトです。BANされるかも。レベル確かに低すぎかもですね~。でもでも、いくらレベル高くてもこのパーティーで勝てる気せんですよ】
ちなみに「ギリギリショーン」とは、俺のチャンネルネームだった。
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【チャット民】
太陽神:『完全にネタパ。笑いに振り切ってますな~』
あるぱぱ:『ミイアちゃん活躍してるとこ見たことないわw』
いってらBOY:『ツンデレ姉さんのアサシンキルに期待。でも、さすがに大型モンスターには通じんか』
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戦士ダンクは全裸で竜に殴りかかっており、首の一本を小脇に抱え込んで奮戦している。俺が操る魔法戦士もどうにか真ん中の首を相手に善戦中だ。ちまちまとダメージを蓄積させている。
しかし、我がパーティーの後衛は沈黙している。これでは決定打が与えられずジリ貧になるばかりだ。
どうにか、ミイアさんとエイレインさんにも戦列に加わっていただきたい。
ゲーム内チャットで仲間に指示を出す。
「起きろ、起きて戦え。ミイア」
「え、起き……。むにゃむにゃ……。くぅ」
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【チャット民】
サラリーモン:『ミイアちゃん起こすの至難の業だろ』
ミャース:『お菓子で釣るのが上策』
ランダム娘:『いや待て、起きたとて戦力になるのかどうか問題だ。安らかに眠らせておいてあげるのが吉』
ぽんこつ総大将:『寝ぼけミイアちゃむさいこーじゃん』
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「あの……、エイレインさん。そろそろ助けて下さいます?」
「…………」
返事はない。
【いや、無視?】
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【チャット民】
ふしきだね:『さすがエレイン様、サイレントスキル完璧だな』
サラリーモン:『やる気が無いだけで、エイレインさんスペックめちゃめちゃ高そう』
羅門D:『前衛のショーンさんしか回復使えないのは効率悪くないか』
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「ぎぃやぁぁ~~~っ」
そうこうしているうちに魔法戦士ショーの体力魔力は底を尽きかけている。三つ首が身体を捻って尻尾の攻撃を見舞ってくるが、回避行動は間に合わない。
ショーはスヤスヤと眠るミイアの上空を錐揉みするように吹っ飛んでいく。
「大丈夫かショー殿」
ダンクさんの心配そうな声も遠くに聞こえる。
あまり大丈夫ではない。
体力ゲージはもうミリ単位しか残っていない。それにさっきの攻撃による衝撃で状態異常の眩暈が付与されてしまった。ショーはまともに立っていることも難しい状態。画面は赤く縁取られ、危険な状態である事を知らせている。
【お~、これもうヤバイなぁ。これじゃあ、回復魔法も使えない。こりゃ町からやり直しかな】
結構長いダンジョンを探索してようやくボス部屋まで辿り着いたのだから、できればやり直しは避けたいところだけれど、こうなってはもう勝てる見込みは少ない。
だいたい、ボス部屋に至るまでも俺の操作キャラであるショーの活躍が大きかった。他のキャラはほとんど遊んでいて敵はもっぱらショーの剣の錆となっていた。
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【チャット民】
0911OVAN:『パーティー主力のショーさんフラフラやんね。もう無理かー』
かのん★★★:『ダンクさんもヘロヘロですやん』
えらすごすTV:『全滅必死な』
マッドショット:『ギリショーさんプレイスキル高いけど流石にほぼソロでここのボス攻略はきついだろ』
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ドスン、と音を立てて竜の左の首が急に血しぶきを上げて落下した。
「……私を頼るな。そもそも、男が簡単に人を当てにするんじゃない」
先の切断された胴体側に女狩人、エイレインさんがいた。竜の首を落としたのは彼女だろう。手には小さなナイフが光っている。
「あなたもウチのパーティーメンバーなんですけど。どの立ち位置でおっしゃってるんだよ」
「あとは自力でどうにかしろ」
「人の話聞いてます?」
彼女の姿はまた瞬間移動したかのように消えてしまう。
「忍者かよ」
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【チャット民】
太陽神:『最強エイレインさん』
あるぱぱ:『さい強』
えらすごすTV:『狩人じゃなかったっけ、エイレイン。弓矢撃てよw』
いってらBOY:『忍者やん』
curry udon:『弓放ってるところを見たことが無い。ほとんど戦っているところ見たことない』
GOGOO:『実は一人で倒せそう』
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「グワォォォォォォォォォォン」
二首になった竜は怒り狂っていた。痛みに我を忘れているようでもあった。とにかく、身体を右に左にと振り回し、所構わずブレスを吐き散らかしている。
「うわぁぁぁぁ。助けて~」
ほとんどは空振りに終わっていたが、それでも運悪くブレスの直撃を受けたダンクは戦闘不能となった。
ミイアさんはやはり起きない。
そして俺も竜の巨体に踏み潰されてしまい、ゲーム画面にはGAMEOVERの文字が浮かんだ。
【はい、駄目~。ゲームオーバー。どうにもなりませんでした~。また始めから。しんど~】
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【チャット民】
えらすごすTV:『あ~あ、やっぱしか』
curry udon:『残念。鍛えなおしかな。それより、パーティーメンバー選びなおしたほうが早い』
あるぱぱ:『このダンジョンからだと一番近いのはオリバーバーグの町?』
ミャース:『かわいそ~』
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【あー。今日はもうこのへんにして寝るか~】
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【チャット民】
かのん★★★:『もう寝るん?』
サラリーモン:『早いぜ。まだ12時!!』
太陽神:『おやすみノシ』
ランダム娘:『おやすみです』
いってらBOY:『続きやっとくわ。じゃあなw』
ミャース:『おやすみ』
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「明日学校行かないといけなくなったんだよね~。ダルいね~。だからもうお開きということで、また明日ね~。ギリギリショータイム。チャンネル登録がまだの人はチャンネル登録よろしくぅ。グッドボタンも忘れずに押して帰ってね。じゃねぇ」
ゲームの電源を切り、動画のライブ配信を終了する。
俺が配信していたゲームの題名は『Rondo Adventurer』。発売されてから一年が経ったが、今なお話題の作品だ。
ソロプレイのゲームなのだが、NPCがまるでプレイヤーのような動きや会話を行う。オープンワールドタイプであり、その内容の自由度とリアルな表現は他のゲームと一線を画していた。
仲間にできるキャラも数多く、パーティーの組み合わせやパーティーメンバーとの会話によって相手の行動パターンは無限に変化する。
「それにしてもなんというポンコツパーティーなんだろう。まあでもその分楽しめるからいいか」
俺がパーティーに選んだメンバー。
魔法使い:ミイア
重戦士:ダンク
女狩人:エイレイン
この面子で遊びだしてから、俺の動画のチャンネル登録数は右肩上がりだった。攻略には向かないけど、視聴者に楽しんでもらえているようだったから、今のところメンバーを代えるつもりは無い。
ゲームの目的はまだ明確には設定されておらず、今後の追加コンテンツやバージョンアップで明らかになっていくそうだ。MMORPGでもないのにこれは珍しい。
「あ~、もう1時か。そろそろ寝よう」
既に布団の中だったので、いつでも眠りに就くことができる。ゲームを止めた途端に襲ってきたお尻の痛みに悩まされながら俺は目をつぶった。
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