第18話 一度は言われたいセリフ「帰っちゃやだ」いただきましたー
今なら某幼女の気持ちがわかる。
「どうしてこうなった。」
ただ今越谷真人(30)は、今日友達になったばかりの、それも異性で憧れのレイヤー・金子友紀さんの家……
……の布団の中にいる。
ここで誤解を招きそうであるが、決して同じ布団の中ではない。
友紀は自分のベッドの布団の中。
そして真人はそのベッドの下で布団です巻き……になってるわけではなく。別に用意してくれた布団で寝ていた。
しかし真人は眠れるかっ童貞舐めるなっとばかりに目が冴えている。
真人は脳の力を使って眠くなろうと、頭の中の自分でもわかるようにもう一度、参拝後から振り返ってみた。
☆☆☆☆☆
「素敵な出会いをありがとうございますって。」
「神様にお礼を言いました。」
そう言った友紀の笑顔は眩しくて、比喩でもなんでもなく、輝いて見えた。
真人がもしゾンビだったらその笑顔の輝きで昇華していたとしても不思議はない。
小説だったらこのシーンが挿絵になっている事間違いなし。
ゲームだったらイベントスチル間違いなし。
カードゲームに採用するならここで間違いなし。
それほど素敵な笑顔だった。
「あ、大吉だ。」
友紀は真人におみくじを見せにいく。
「昨年ネットで引いたおみくじが大凶だったんです。散々だったんです。」
「待ち人、来るかもしれないし来ないかもしれない。恋愛、甘い甘いだからお前はアホなのだぁ。金運、ぼちぼちでんなぁ。健康、入院するような事はない。」
それ、恋愛のところ、東方不敗が書いただろと、真人はツッコミを入れる。
聞いてるとそのおみくじ、全体的に舐めてるだろ、おみくじ引く人の事を舐めてるとしか思えない。何のネタおみくじだろうか。
「そのおみくじ、ソースは何?ツッコミ所が満載で。」
「ネットのおみくじだからどこのサイトかまでは覚えてないけど…どのサイトで引いても凶か大凶だったんです。」
それも凄い偶然である。おみくじなんてのは実際受け取る人次第なので結構いい加減だったりする。
「おみくじなんて当たるも八卦当たらぬも八卦というじゃないですか、だからおみくじの結果通りになってたまるかーと思って過ごしました。」
「その結果良い事がありました。真人さんとお友達になれた事です。」
満面の笑顔で言ってきた。
「俺は去年も今年も吉。神社によっては吉と中吉の位置は違うから、自分は上から2番目と解釈することにしてるよ。」
中吉が出た時は中吉が2番目と言い張るのだけど。
「じゃぁ、2番目って事なので、大吉で1番目の友紀さんを俺が支えるって構図ですかね。」
ボンッ
友紀の顔が爆発した。そして真人も爆発した。
端から聞くと今の言葉はプロポーズの一説みたいである。
顔は真っ赤になるがすぐに冷却される、唐突に風が吹いてきた。
周りの人達も寒いと言う人が増えてきた。
「車に戻りますか、冷えてきたし。」
黙って友紀さんは頷いて俺の後ろをついてくる。
戻る途中で少し目に入ったけど、某らき○すたの絵馬がたくさん奉納されてあった。
描いた人凄いけど、凄いけども……
ふと思った事は、権現堂の桜の時も彼らは来るのだろうかということである。
車に戻っては来たがエンジンかけてエアコンを入れたからといっても、直ぐに暖まるはずもなく。
「大丈夫ですよ、身体は冷えてますが今現在心は温かいので。」
「そうは言うけど寒いよ。」
吐く息は白いしさ。
数分のうちに暖かくなる。
「帰りますか。家に帰るまでがコ○ケです~って。」
まさかそれがフラグになっているとも知らずに。
その時はヲタの常識を口にしただけだったのに。
鷲宮神社から車で15分は掛からない程度のところにそのアパートはあった。
残念だけど、アパートに駐車場はなく、近隣の24時間最大○○○円の駐車場に止めるしかない。
とは言っても駐車場からアパートまでは然程距離があるわけでもなく、団地の人が専用のごみ捨て場に行くような距離感ではあった。
自分の荷物は車の中に置きっぱなしにし、友紀さんのキャリーケースを引いていく。
アパートの隣には、少し広めの土地の一軒家があった。
まぁ恐らくこのアパートの大家さんなのだろう。
「あ、うちは3階です。」
「かしこまりましたお嬢様ー」
「お、おじょ…」
再び赤面フリーズ
「か、からかわないでください。もー」
その「もー」が可愛く見せている事に友紀は気付かない。
事実「もー」の度に真人は萌えきゅん状態に陥っている。
友紀は鍵を取り出しシリンダーに鍵を差して回す。
がちゃっ
ドアを開けて先に友紀さんは入って行った。。
明かりをつけてすぐ戻ってきた。
「ど、どうぞ。」
真人は普通に減の中へと招かれる。
「お邪魔します。」
邪魔するなら帰れとか言われなくて良かったと内心思っていた。
「キャリーケースは玄関で良いですよ。中身は明日片付けますので。」
異性の家にかつて行ったことがあるだろうか。真人は思い返すが記憶にまったくない。
これが真人にとっての初めての異性の家である。
「それで、荷物も持ってもらいましたし、駅でも言いましたがお礼の一つもさせてください。暖かい飲み物用意しますので。」
「お茶とMAXコーヒーどちらが良いですか?」
友紀のチョイスが面白おかしかった。
「MAXコーヒーで。」
コ○ケと参拝の列並びで身体は疲れている、糖分を欲していた。駅で買ったものは結局飲んでいないかった。
車の中に置いてきている。
「やっぱり好きですよね、MAXコーヒー。」
「まぁ甘いの好きだし個人的にはちょうどいい味わいというか。」
友紀さんは鍋に給湯器からお湯を注ぎ、さらにコンロの火を点ける。
しばらくしてそこにMAXコーヒーを2缶投入した。
「ただ、高校の頃はドクターペッパーとかメッコールのネタ度が高いそっちにいってたんだよね。大人になって随分久しぶりだったよ。」
そのせいで3度目の出会いに15年を要したわけだけど、友紀しかその事実は覚えていない。
「麦茶コーラと言われるあの伝説の……って私も大宮のメ○ト(アニ○イトの事)に行った時はつい飲んでましたね。」
ラーメン屋の2階にアニ○イトがあった頃、すぐ近くにメッコールが売っている自販機があった。
そういえば気付いたらなくなってたけれどと、友紀は思い出した。
真人が案内されたのはリビングにあるこたつ。
既にスイッチは入っており少しだけ暖かくなっていた。
「お待たせしました。程よく暖かいと思います。」
「ではありがたくいただきます。」
ぷしゅっ
「うぉっ 熱すぎず温すぎず…まさかの55度くらい?」
「多分そのくらいです。」
電車に乗るサラリーマンが、電車に乗る前に飲むのにちょうど良い温度が55度らしい。
熱すぎないから一気とは言わないが、すすーと喉に入れられる温度がそのくらいがちょうど良い温度だとテレビで言っていた。
それからしばらく他愛のない話をしていると、こたつのなかで二人の足がぶつかる。
「っ」
「あ、ごめん。態勢かえようと思って。」
「あぁああ、そ、そんな気にしないで。驚いただけですから。」
友紀の家に着いてから30分くらいになるが、流石にコ○ケ疲れもあり眠くなってきていた。
ちょうど二人ともコーヒーも飲み終わっていた。
「じゃぁ、そろそろ遅いし俺は帰るね。」
そういって立ち上がり缶をどこに捨てればいいか考えていると
「缶は私が片付けるのでそのままで良いですよ。」
と返される。確かに家の中の事は住人が一番知っている、適当に物色するわけにもいかないので真人は任せる事にした。
真人が靴を履き玄関に向かった所で背中に何かが当たった事に気付く。
両腹の下の裾が僅かに引っ張られるのを感じた。
「まだ……帰っちゃやだ。」
真人の心の中では「うぉぉぉぉぉぉぃっ。」となっていた。
真人の童貞センサーには引っかかってないけど何か危険な香りがすると感じた。
こんな時なんて言っていいのか童貞にはわからない。
背中に当たったのは友紀さんのおでこだとわかる。
帰るタイミングでドンキーの時と良い、どんどん幼くなっているように感じた真人。
真人が言葉を選んでいると……
「1年の最後と始まりを独りで過ごしたくない。」
そこで出した真人の返事は……
「正直、もう眠いし、それは多分友紀さんも同じだと思う。朝から行動していたんだし……」
「お風呂沸かすし、布団も来客用のがある…」
遠回しに帰ろうとする真人の意思を友紀は封じに掛かる。
真人の服を掴む手が強くなった。
真人の中の理性の問題が…一応これでも男子である。
「寂しいのはもう……ぃや。」
泣いてはいなかったけど、心の中で泣いていたと思う。
真人には何故友紀がこういう行動をとったのか理解出来ないけれど。
それでも信頼して頼ってくれてるんだというのは理解出来た。
ここで据え膳喰わぬは~とか言う奴はテーブルの角に足の小指ぶつけたら良い。
「わかった。今日はここにいるよ。だから……哀しまないで。」
その言葉を聞いた友紀のなんとなくほっとしたような感覚が真人には伝わってきた。
☆☆☆
「先に入りますか?後に入りますか?」
風呂の話である。それとも一緒に入りますかとか言ってる人は、エロゲとラノベのやり過ぎ読み過ぎである。
ラッキースケベも逆ラッキースケベも期待しちゃダメである。
「それは家主である友紀さんが先に入るのが筋では?」
「それを言ったらお客さんである真人さんが先では?」
「「どうぞどうぞどうぞ」」
何のコントだろうか。お互いに譲り合っていた。
「大丈夫ですよ、変な事は考えてないし。強いて言えば……色々頭の中で情報を整理する時間が欲しい。」
「では先に入ります。あまり時間かけるわけにはいかないですし、30分くらいで出ます。少しこたつで横になってても大丈夫ですよ。」
友紀は自分の部屋に着替えを取りに行く。
そういや俺着替えがない…まぁ明日帰ってから着替えるか。
着替えを持ってきた友紀はそのまま風呂場へ向かう。そして突然振り向き。
「覗いても良いんですよ。」
「良いんかいっ」
「冗談です。」
てへっと舌を出し、そう言った友紀さんは少しだけ元気が出たようだった。
☆☆☆
※(真人の心の中の葛藤)
あー悶々とする。
冗談でもあんな事言うから意識しちゃうじゃんかー
今頃一糸纏わぬ姿だとか、まっぱだとか、すっぽんぽんだとか(どれも意味は一緒)意識しちゃうじゃんかー
チャン・カ○イだったら惚れてまうやろーと言ってしまうぞ。
マジで童貞の想像力舐めるなー
沈まれ、俺のマグナム……お前の出番は今日じゃない。人の弱った所とかに付け込んで好意を得ても意味はない。
ちょっと中二病っぽく説明してみた。別にナニかが反応していたというわけでもない。
ただ、そうやって余計な事を考えてないと、風呂場の中の事を意識しちゃうんだって。
何が整理する時間が欲しいだ、余計こんがらがってきたわ。
(心の葛藤終了)
ちょうどピザ屋の出前が到着するくらいの時間が過ぎた。それは約30分。
がちゃっ
風呂のドアが開く音。
時計の音がうるさい。自分の心臓の鼓動音が煩い。真人は心頭滅却すればの状態であった。
「……上がったのでお次にどうぞ。」
湯上りの友紀さんは綺麗で、そしてパジャマ姿は女子高生のように可愛かった。
真人は多分口をぽかーんと開けて見惚れている。
「洗面台に妹の旦那さんが泊まる時用の寝巻を用意しておいたので使ってください。年に数えるくらいしか使わないので遠慮はいりません。」
今さらっと気になる発言が飛び出した。
妹の旦那さん?キャラが増える予感しかしない真人だった。
しかし、普段着のままというわけにもいかないのでお言葉に甘えるのが良策である。
「ありがとうございます。それでは行ってきます。」
風呂に行くだけにしては妙な気合の入れ方であった。
☆☆☆
真人は只今脱衣所に来ている。
先程聞いた寝巻は確認した。問題ない。
タオル掛けにはバスタオル1枚しか掛かっていない。
そしてどうもそのバスタオルは使用済っぽい。間違いなく友紀が先程使ったタオルである。
さらにそこには魅惑の洗濯機が……
GOKURI
いやいやだめだ、俺はバカかと真人は首を振る。
伸ばしかけた右手を左手で掴んだ。
パシンッ
真人は頬を叩いて正気を取り戻す。ここで誘惑に負けて信頼とか信用とか落としてどうするんだと言い聞かせる。
こんな目先の欲望に負けて信用も信頼も好感も失いたくはないはずだ。
真人は気合を入れるとばばばっと服を脱ぎ、洗面所の脇に置きささっと浴室に入った。
何も考えずに頭と身体を洗う。
何か考えてしまうと……この身体洗うタオルだってもうやばいじゃん、となる。
先程まで友紀の身体を洗ったタオルで洗うのは流石にイケない気がする。
そのため真人は身体は手にボディーソープの泡を立てて洗った。
洗い流して湯船にどぼん。
「あー生き返るぅ」
ここでも余計な事考えたらだめなのだ。お湯を飲もうとか考えた人には天罰が下るはず。
怒涛のようにさーと泡を洗いす。
「そういや、人の家の風呂なんて久しぶりだな。って従兄妹の家以来じゃないか?多分。」
湯船から上がり浴室の扉に手をかける。
そろ~っと開ける。
ラノベ的ラッキースケベ・逆ラッキースケベを回避するためである。
ラノベだとこういう時、異性は浴室の外にいる場合が多い。
ちらっちら?と少しだけ開けた浴室のドアの隙間から確認する。
「よし行こう。」
流石に浴室内のタオルは使えないが、濡れたまま穿くわけにもいかない。
逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ逃げちゃだめだ……と精神を統一して、真人は覚悟を決めてバスタオルを手に取った。
……頭を拭いて、そのままおでこを拭いて……鼻にかかった所で……
ダメだ匂いとかを考えたらだめなのだ。
真人はなるべく無心になろうとする。そうだ、ここは自分の家の中だと思えばいいのだと気付いた。
そしてどうにか全身を拭き終わる。その後は早かった、ぱんつを穿いてシャツを着て借りた寝巻を着るだけだ。
格闘ゲーム3ラウンドくらいプレイしたくらいの気力を使っていた。
真人のドキドキだけは未だに止まらない。
ガラガラガラ……扉を開けてリビングに戻ると……
こたつからはみ出し友紀さんは眠っていた。
「風邪引いちゃうよな。おーい友紀さん、風邪引いちゃうよ。眠るなら自分の布団で寝ないと。」
身体を揺すって起こそうとするが起きる気配がない。
「……で。」
ん?よく聞き取れなかった。
「……んで、……まで。」
はい?寝ぼけてるよね。
「運んで、ベッドまで。」と聞こえた。
「もう、仕方ないな、風邪引いても大変だし。」
んしょっと友紀さんを抱きかかえる。はい、お姫様抱っこです。まさか真人はこんなにも早くお姫様抱っこをする事になろうなんて思ってもいなかった。
部屋の場所はさっき見たから問題ないけど、女子の部屋ってそんなおいそれと入っていいものだろうか。
「軽い……な。」
実際今でもたまに野球するために運動してなければきつかったと思う。
寝息を立ててる友紀は可愛いし、風呂上がりのため艶っぽい。
真人は再び葛藤する、心のシャッターくらいしか押しちゃだめだと。
脳内保存脳内保存。
何とか理性を保ち、友紀を布団の中に寝かせる事に成功した。
リビングの電気消しに行こうとしたところで真人に再び伸びる手があった。
無意識なのか友紀の右手が真人の左手を放さない。
「行っちゃやだぁ」
寝ぼけてるんだよね?というのが率直な感想であった。
仕方ないのでそのまま自分のために敷いてくれたのだろう、友紀さんのベッドの横に布団が敷いてあった。
これ、万一寝相悪くてベッドから落ちてきたらフライングボディアタック喰らう寸法です。
真人は左手を犠牲に布団に入る事にした。
電気はあとで消せば良いだろうと結論付けた。
眠いのは真人も同じである。しかし手を繋いだ体勢だから中々寝付けない。
「どうしてこうなった。」
しかしそんな葛藤しつつも真人にも睡魔はしっかり襲ってくる。風呂に入って少し覚めたけれど、やはり睡魔には勝てなかった。
そして真人は意識を手放した。
二人が次に目を覚ましたのは元日のお昼だった。
ニューイヤー駅伝はもう終盤である。
しかし二人を目覚めさせたのは自然でもなければ目覚まし時計でもない。
「友紀おねーちゃんがいちゃいちゃしながらねてるー」
という幼児の大きな声によって睡眠は強制終了させられたのだ。




